(本連載は、『フジサンケイ広報フォーラム』会報No.314~に掲載された記事を転載したものです。)
【第1回】全日空の迅速な対応に学ぶ
「会見に整備担当が出たのは正解だった」と語るのは全日本空輸の広報担当者。事象は今年1月16日に起きた全日空ボーイング787型機の高松空港への緊急着陸。トラブル相次ぐB787、ひとつ間違えば大惨事だけにメディアの関心は高い。
同日発生したアルジェリア人質事件の
影響により各メディアの扱いは比較的小さくなったが、当日の同社のスピード感ある広報対応はなかなかのものだ。
この日午前8時25分頃、山口宇部発羽田行き全日空692便の機内から煙が発生、高松空港に緊急着陸したことを受け、同社は午前11時半から羽田空港で緊急会見を行った。会見者は広報室担当でリスクマネジメント委員会委員長の副社長と整備センター長の専務、広報室長の3人。
同機は午前8時50分頃着陸し、乗客乗員は急ぎ機外に脱出、9時半頃には空港内に避難を終えた。数名の軽傷者はいるものの、全員の無事が確認されたことから広報室長の進言で副社長らの会見に。無論、犠牲者が一人でも出ていれば社長会見となっていたはず。一方、現地でも責任者が広報からの指示で対応、午後には広報室員も駆け付け取材窓口になった。
広報対応では火災、爆発、食中毒など人命に関わる不測の事態が発生したら、2時間をめどに緊急会見を開くのが鉄則とされる。取りあえず現時点で分かっていることを公表し、新事実が判明したらその都度開示するのが望ましい。この点からも今回の対応は高く評価されていい。
また、当会見でファクトペーパーやQ&A も作成されたという。平常時から“ひな型”を用意するほか、緊急事態を想定したシュミレーションも年に数回行っていたからこそ短時間でも成せる業だ。もっとも、航空機事故では国の事故調査委員会が立ち上がると発言が制限されるため、「何か隠しているのでは?」と疑われるのが辛いところとか。
いずれにせよ、危機管理広報の要諦は“迅速に、誠実に、的確に、正直に”。当該事例はいみじくも緊急時におけるメディア対応の基本を示してくれている。
執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。
広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年
経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。
|