(本連載は、『フジサンケイ広報フォーラム』会報No.316に掲載された記事を転載したものです。)
柔道界で起きたセクハラ事件や暴力・パワハラ問題、助成金の流用、中学・高校など運動部活動で指導者による体罰や上級生の下級生に対する暴力行為など、スポーツに絡んだ不祥事が後を絶たない。
一方でオリンピックやワールドカップ他世界で戦う選手の活躍に日本中が沸き、経済効果も期待できることからプロ・アマを問わずスポーツへの関心は高い。
こうした社会的な共感を背景にスポーツの振興に尽力する企業は少なくない。ただ不祥事となるとスポーツマンシップやフェアプレーの精神といった好感度とは相いれず、イメージ戦略を担う企業広報としても考えさせられる点が多い。
スポーツ界のコンプライアンスに詳しい森崎秀昭弁護士は不祥事にスポーツ界特有の問題があるとして、1)社会常識との乖離に対する理解不足2)厳格な上下関係の存在(権限の集中を含む)3)過剰な世間からの期待度―の3つを指摘する。
森崎氏によれば、一般にスポーツ界では優秀な成績を収めた元選手が競技団体の役員に就く場合が多く、また先輩や監督・コーチの発言を絶対視する傾向も強いという。限られた人たちに地位や権力が集まる組織のいびつさを批判された団体もあって、世間とのズレは否めない。
こうした閉鎖性はまさに“スポーツ界の常識は世間の非常識”だ。「人の振り見て我が振り直せ」のことわざではないが、企業広報においても他山の石としたい。
どんな組織でも、どんなに気を付けていても、時として事件・事故、不祥事に巻き込まれることはある。大事なのは他の事例を見て、「自分のところは大丈夫か」、自社リスクの点検を怠らない態度だ。
当然コンプライアンス・チェックは不可欠だが、広報の使命は“世間の目線”に照らしてどうかをトップに正しく伝えること。企業を“ムラ社会化”させないためにも、広報の視点は益々大切になる。
庶民感情を逆なでにした結果、世間のバッシングを浴び立ち往生してしまった例は枚挙にいとまがない。広報の広聴機能や直言力に一層磨きをかけたいものだ。
執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。
広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年
経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。
|