第10回 「強いトップに配慮?豪華ホテルで謝罪会見」
『フジサンケイ広報フォーラム』会報
No.330 2014年10月号 広報の目Vol.19より転載
2002年11月に起きた日本信販商法違反事件。筆者も広報部長として関わった。
捜査当局の発表を受け、社長の緊急記者会見となった。会見場に使ったのは本社に程近い自社研修センターのB1ホール。
随分変わったところでとなるが、いつやって来るかわからない“xデー”を前に情報が漏れるのはまずい。外部はもとより本社ビル内も社員に知られる恐れがある。この時、浮かんだのが当施設。早速広報で押さえ極秘裏に準備を進めた。
「わが社に限って…」と思っていても、突として起こるのが企業不祥事。大切なのは起きた後の対応。とりわけ、初動でマスコミ対応を誤ると挽回は困難だ。最悪の場合、不祥事による直接的被害をはるかに上回るダメージを被りかねない。
当然会見を仕切る広報の役割は重大。社会に向け“謝罪と説明責任”を果たす唯一最大の場になるからだ。先ずは会見場選びだが、こちらでコントロールできる場所が最適。混乱を避けるため、終了後の会見者の動線確保にも気を付けたい。
間違っても謝罪会見にホテルを使うのは禁物。不祥事にホテルの贅沢なイメージはなじまない。会見席が結婚披露宴のように一段高くなっている場合も多い。会見の中身もさることながら、“上から目線”が記者の印象を悪くしかねないのだ。
「事件を起こしておいてなんだ」となる。
その意味でも、今夏ベネッセホールディングス顧客情報流出事件の会見はいただけなかった。四度の会見で、トップ出席の三回が各々異なる都内の豪華ホテルで開かれた。トップに配慮?と勘ぐってしまうが、コンサルティング会社が入っているというから首をかしげてしまう。
無論、企業側にもいろいろ事情はあろう。だが、危機管理広報では向いている方向をたがえると一転“猿芝居”になりかねない。会見場一つ取っても細心の注意が必要だ。トップに気を使っている暇はない。筆者が携わったB1ホールの会見は苦肉の策だったが、それで文句を言われたことはない。緊急会見は事態の“早期収拾の切り札”だ。心してかかりたい。
執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。
広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年
経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。
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