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平川 博  

第1回「製品トラブルの対応」 ※拡大版

 1.自分自身の経験から

 先日、プリンターが紙詰まりを繰り返している内に、ローラーに挟まった紙が破れました。給紙口と排紙口と内部を開けて、紙片をすべて取り除くと、印刷可能となるのですが、再び印刷すると、紙詰まりを起こしました。その内、ディスプレイに「製品マニュアルをご覧下さい」という表示が出ました。そこに記載されている紙詰まりを起こした時の処理方法をすべて試みても、解決しませんでした。
 
 そこでメーカーのホームページを検索すると、「お問い合わせ(総合)」というウェブページが見つかりました。アクセスすると、先ず「お問い合わせの前に」という注意書きがあって、「よくあるご質問(Q&A)」をクリックすると、製品名を入力することによって、当該製品の「よくあるご質問(Q&A)」に辿り着くようになっていました。一通り読んで分かったことは、紙詰まりがよく起きるということだけで、解決方法は見つかりませんでした。 いよいよ修理を依頼するしかないと思って、「修理サービスのご案内」というウェブページを開きました。すると、「ステップ1」という見出しの下に、以下のように記載されています。

 修理申込み前に、オンラインサポートをご利用ください。 修理にお申し込みいただくと製品をお預かりすることになり、お客様にご不便をおかけしてしまいます。 トラブルをご自身で簡単に解決できる場合もありますので、下記「○○(サポートナビ○○)」や「サポート広場(○○)」をぜひご利用ください。 このプリンターはカラーの両面印刷ができるので購入したのですが、購入した時から紙詰まりや重送を繰り返していたのです。原因はローラー(特に給紙口)の不具合であると推測がついたので、ローラーを重点的に点検・クリーニングして、何とか自力で解決することができました。結局、トラブルが発生してから解決するまで、約1日半かかりました。

 2.「よくあるご質問(Q&A)」

 プリンターのトラブルで無駄な時間と労力を費消すると、無性に腹が立ちます。特に仕事の関係で急いでいるときは、尚更です。プリンターの各メーカーは、製品ごとに「よくあるご質問(Q&A)」というサイトを運営していますが、頻発する同種同類のトラブルが如何に多いかということが窺われます。これで解決策が見つかれば幸運ですが、殆どないでしょう。それと言うのも、大抵のトラブルはディプレイの表示(例えば「№○のレバーを上げて、用紙を取り除いて下さい」とか「本体カバーを閉じて下さい」という指示)に従って処理すれば、解決するようになっているからです。それで解決しない時は、ユーザーの手に負えないと考えるべきでしょう。
3.原因の説明 メーカーが作成した「製品取扱い説明書」や‟FAQ”(=Frequently Asked Questions「よくある質問」)を見ると、トラブルの症状と対処方法が記載されていますが、原因に関する説明は殆どありません。素人でも原因が分かれば、解決策が見つからなくても、チックポイントを押さえることができるようになります。 因みに、NikkeiBPNetに掲載された田中裕子(テクニカルライター)の「紙詰まりを防ぐ使い方のコツ---さようなら、給紙トラブル(2)」と題する報告記事(LBP最新レポート[2006年9月6日])では、「摩擦力の微妙なバランスで給紙を制御」という見出しの下に、以下のように記載されています。 (http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20060906/247386/)

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 一言で用紙のトラブルといっても、その現象や原因はいろいろある。用用紙のトラブルというと、紙詰まりを真っ先に思い浮かべる人も多いかもしれないが、意外と多いのが給紙不良だ。給紙ローラーなどの部品が消耗してくると給紙力が落ちてしまってうまく給紙できなくなる。こればかりでなく、用紙が2枚以上重なって給紙されてしまう[重送」という現象も少なくない。出力したプリント物を手にとって、白い紙がもう1枚貼り付いている経験をしたことがある人も多いことだろう。これが重送だ。…(中略)…
 重送や給紙不良が起こる仕組みは、用紙トレイから紙を送り出すメカニズムを考えると分かりやすい(図1)。

【図1】
産業法務連載平川博

   図1トレイから用紙を1枚だけ送り出す仕組み。ページプリンターで一般的に
   使われている、分離パッドを使った給紙の例


 給紙ローラーと分離パッドを使う、一般的な用紙給紙方法の場合を考えてみよう。カセットや手差しトレイにセットされた用紙は、給紙ローラーとの間に生じた摩擦で、給紙ローラーの回転方向、すなわち搬送方向に押し出される。このとき、2枚目の用紙も紙同士の摩擦力によって1番上の用紙とともに動き出す。しかし、2枚目の用紙が分離パッドに差し掛かると、分離パッドとの摩擦力が1枚目の用紙の摩擦力に打ち勝つことにより、2枚目は1枚目から引きはがされて、それ以上は送られない。これにより1枚目の用紙だけがプリンター内部に送られる。これが給紙の仕組みだ。微妙な摩擦力の大小関係で用紙を1枚だけ送り出すという、実にデリケートな方法を使っている。


 このため、経年変化や連続使用などで給紙ローラーや分離パッドの摩擦力が落ちてきたり、用紙同士の摩擦力がなんらかの原因で大きくなるなど、この仕組みの中で作用する摩擦力のバランスが崩れると、給紙不良を引き起こす。 重送が発生しても、紙同士がきれいに重なって重送される分にはプリンターが止まらずに動作することも少なくない。しかし、用紙が大量にズレながら送られる「連れ重送」になると、プリンターの中にそれらの用紙がまとまって詰まってしまう。最悪の場合、プリンターを壊してしまうことだってありうるのだ。


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 もしメーカーから上記のような情報が得られたのであれば、筆者はもっと早くトラブルの原因に気づき、速やかに解決策を見出していたものと思われます。

4.顧客志向での対応

 製品トラブルの解決を急いでいる時は、メーカーの技術者と電話で直接話しながら、症状に合わせて指示を仰ぐのが最善の方法だと思われますが、電話窓口は混雑していることが多く、繋がりにくい状況です。しかも運良く繋がったとしても、応対に出るのは派遣社員や受託会社社員であることが多く、応対マニュアルに従って決まり文句を言うのを聞いていると、元々はクレーマーでなくても、クレームをつけたくなりそうです。これでは、ユーザーが望んでいる顧客志向での対応とは程遠く、却って顧客離れを招くことになりかねません。 そもそも同種同類のトラブルが頻発する場合、安全性に問題が無ければ製造物責任は問われませんが、欠陥製品として扱い、トラブル発生の有無を問わず、ユーザー登録をしているユーザーに補修の案内を出して、ユーザーの不満が募らないように手を打つのが、メーカーの使命ではないでしょうか。


5.同業者間での情報共有化

 プリンターに限らず、すべての製品に共通して言えることですが、自社製品で同種同類のトラブルが頻発する場合、同業他社の製品でも同種同類のトラブルが発生しているようであれば、同業者の事業者団体で共通の課題として取り組むことが望まれます。「3人寄れば文殊の知恵」という格言があるように、同業者が一丸となってトラブル対策を検討すれば、労力も費用も節約できる上、優れた解決方法が見出されることが期待できます。同業者が品質向上に協力することは、より安く、より良い製品の供給を可能にする点で、消費者にとって喜ばしいことです。


 経済的には市場競争理論が支配的で、各社の競争により価格が下がることが最善であるという政策が採られています。しかし、消費者にとって、幾ら安くても、使い物にならないような製品は、粗悪品であって、商品価値が無いに等しいのです。少なくとも価格に見合う品質を期待しています。欲を言えば、安くて、その割には優れている製品を手に入れることを望んでいます。


 ここで留意すべき点は、競争理論が基礎となっている独禁法の遵守ですが、メーカー共通の一定の品質保証をした上で、更により優れた利便性や耐久性とより安い価格の面では市場で競争をするということです。


 6.製品の産官学共同研究

 
産業法務で推進している産官学共同研究に関する最新のニュースとして、今月の16日に配信された産経ニュースの「『韓国にシェア奪われる可能性もある…』車載用電池で自動車と電池メーカーがタッグ」と題する記事で、以下のように報じられています。
(http://www.sankei.com/life/news/141116/lif1411160015-n2.html[2014.11.16 05:07配信]) *****************************************************************************

 トヨタ自動車などの国内主要自動車メーカーとパナソニックなど電池メーカーが、電気自動車(EV)などに使う車載用リチウムイオン電池の共同研究組織の設立を検討していることが15日、分かった。大学など研究機関とも連携し、経済産業省が補助金などを支援予定。リチウムイオン電池に代わる次世代電池の共同研究や電池の安全性評価の標準化などを進め、国内メーカーの電池開発の効率化を図るとともにEVの普及促進につなげたい考えだ。


 参加を計画している自動車メーカーは、トヨタや日産自動車、ホンダ、三菱自動車などEVやハイブリッド車(HV)を製造している各社で、それ以外のメーカーも参加表明する可能性がある。また、電池メーカーではパナソニックやジーエス・ユアサコーポレーション、日立製作所など。これに、リチウム電池の研究で先端を行く京都大学や大阪大学、産業技術総合研究所などを交えて研究に取り組む予定だ。…(中略)…


 電池の解析では、大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県佐用町)などの大型施設を各社で共同使用し、リチウムイオン電池用の正極材料の評価や解析のコスト低減と開発スピードアップにつなげる。安全性の標準化では、電池の寿命や信頼性などの測定方法を各社で統一し、国際標準化することが目標だ。


 EVやHVの開発においてリチウムイオン電池は自動車の燃費性能などを左右する基幹部品のため、自動車各社は電池メーカーと提携し開発競争が激化している。今回の共同研究は、そうした競争領域に触れない分野で共同研究を進める。…(中略)… 車載用のリチウムイオン電池は日本企業が今もトップシェアを誇るが、携帯電話用などの小型リチウムイオン電池ではサムスン電子やLG電子などの韓国企業に押され、逆転を許している。


 経済産業省は「車載用電池でも韓国勢にシェアを奪われる可能性もある」と懸念。「今後、各社が研究で共通化できる部分を増やすことで、開発を大幅に効率化できる」とメリットを強調する。 国は環境負荷低減のためにEVなど次世代自動車の普及率を、現在の約5%から32年に15~20%に引き上げたい考え。普及に向けては電池技術の発展によるEVの航続距離延長が最大の課題となっている。

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 このように、産業法務の視点から、企業という枠を乗り越えて産業社会全体を見渡し、一般消費者の目線で、より良く、より安い製品やサービスを提供するという事業目的を果たすために、独禁法を遵守しつつ、安全性や品質の標準化を図る(少なくとも頻発する同種同類のトラブル発生を防止する)ために産官学が連携して共同研究を推進することを提言します。



【筆者:平川 博プロフィール】

昭和52年 中央大学法学部卒業
平成15年~19年 医薬品企業法務研究会の知財部会長
平成16年~19年 ヒューマンサイエンス振興財団の研修委員
平成17年~19年 製薬協の知財部会委員
平成19年 日本チバガイギー㈱退職、社労士開業
平成19年~23年 千葉県年金記録確認第三者委員会専門調査員として総務省で勤務
平成19年~現在 ヒューマンサイエンス振興財団の個人会員
平成22年~現在 行政書士登録、社労士と兼業で産業法務相談室開設
平成25年~現在 日本賠償科学会の会員
平成26年~現在 NPO法人童謡文化を広める会の会員
平成26年~現在 一般社団法人産業法務研究会(産法研)の専務理事
平成26年~現在 特定非営利活動法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の会員
一般社団法人産業法務研究会(産法研)の概要】
1.設立の目的
①産業法務という概念の普及
②産業界が一丸となって法令遵守に取り組むこと
③産官学の連携
を推進することにより、産業社会の発展に寄与すること
2.主たる事務所
東京都豊島区池袋三丁目1番11号
【建物の名称】セレクトガーデン池袋.
【最寄りの駅】要町(地下鉄有楽町線)出口5番(祥雲寺方面)から徒歩1分
3.事業
(1)産業法務の研究を目的とする会合(以下「研究会」という)の開催
(2)産業法務関連の出版・頒布事業
①書籍(電子書籍を含む)の出版
②定期刊行物の発行
③ビデオ・DVD・映画の製作・頒布
(3)産業法務関連のセミナー開催
(4)産業法務関連の講演会開催
(5)日本産業法学会の設立
(6)産業法務関連の行事(シンポジウムやフェスティバル等)の催行