1.少子高齢化社会とペット
「どう過ごす ペットと老いの日々」と題する映像が昨年の11月11日にNHK総合テレビの「クローズアップ現代」というテレビ番組で放映されました。その冒頭で以下のように述べられました。
****************************************************************
今、長寿化を続けるペットと、高齢者の関係が濃密になっている。高齢者のみの世帯や独居世帯では、まさに家族以上、かけがえのない“終末期の伴侶”としてペットの存在感は高まっている。しかし相互依存が深まるあまり、外の世界との交流を絶ったり病院への通院や介護施設への入居を拒んだりする例が多発。かえって社会性を失い、高齢者の孤立が深まると危険性を指摘する専門家もいる。さらに高齢者が亡くなった後に、長寿化したペットが取り残されるケースも増えている。
****************************************************************
(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3579.html)
2.飼い主サイドの問題点
(1)飼い主としての適否
「ペットは 社会問題の鏡」と題して、仙台市動物管理センター主幹の亀田由香利氏が執筆し、『日本獣医師会雑誌』(第63巻第10号)に掲載されている「診療室」というコラム欄記事では、以下のように記載されています。
****************************************************************
なぜ、人はペットと共に暮らすのか? 異種の動物と暮らそうとするのは人間だけである。失った自然をペットの中に求めて? いや、日本における近年の飼い主を見ているとやはり、愛情の捌け口に過ぎないのかもしれない。キリスト教が根底にあり、動物との付き合いの歴史が長い欧米では動物と人の間に境界があり、動物の特性を理解した上で目的意識を持って動物を飼っているように見えるが、日本人は動物に対し特殊な感情を抱く傾向があり、愛情を注ぐことを美化し過ぎることによる弊害が飼い主のモラルやマナーの欠如に繋がっているように思う。もともと、ペットを飼う目的が社会構造の変化による人間関係の希薄化・現代人の孤独を補ったり、逆に人間関係からの逃避が目的だったりする傾向がある中、人間とうまくコミュニケーションのとれない飼い主がペットの存在により感情の対立を起こす可能性は高くなって当然と考えられる。したがって、飼い主になれば、必ず、加害者になる危険性があることを頭に入れて、過度に感情移入することなく、種の違う動物が人間社会で生活していくルールを教えること、動物だけでなく人にも優しい地域のいい人にならなければいけないことが飼い主の絶対条件であるということである。
****************************************************************
(http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06310/a14.pdf)
(2)動物遺棄
明治大学商学部の若林研究室が開設している“Wakabayashi Seminar”というウェブサイト内の「奨学論文コーナー」に掲載されている2006年のアニマル班が主要参考文献や㈱ペット・マーケット・サービシズ代表取締役の笹間健史氏へのインタビューに依拠して執筆した論文(無題)の「第3章 ペットブームの問題点」では、「第1項 捨てられる動物たち」という見出しの下に、以下のように記載されています。
****************************************************************
ペットブームの裏にはさまざまな問題が発生している。そのひとつとして、ペットが無責任に捨てられているということがある。あまりペットのいる生活について知識のない飼い主がただ単にファッションとして安易にペットを飼う傾向が増えたことにより、途中で飽きたり、経済的負担を感じた飼い主が安易にペットを捨てるようになったのである。・・・(中略)・・・
また犬や猫だけではなく、本来日本にいないはずの生き物が飼い主によって川などに捨てられるということも起こっている。最近では凶暴なワニガメが安易に捨てられていたことがあった。これは私達人間に危険をもたらすだけでなく、本来存在するべきでないところにワニガメなどが放されることで生態系の崩壊をもたらす危険がある。
動物愛護法ではワニガメ飼育に申請を必要とするという措置をとり、むやみに捨てられることがないようにしているが、実際には申請せずに飼っていた飼い主が愛媛県でみつかっており、まだ徹底されていない現状が見受けられる。
****************************************************************
(http://www.isc.meiji.ac.jp/~w_zemi/animal.pdf)
(3)動物虐待
日本動物福祉協会の「動物虐待について」と題するウェブページでは、「動物虐待とは」という見出しの下に、以下のように記載されています。
****************************************************************
▉動物虐待には以下の2つのタイプがあります。
1. 意図的(積極的)虐待=やってはいけない行為を行う・行わせる
・殴る、蹴る、熱湯をかける、動物を闘わせる等、身体に外傷が生じる又は生じる恐れのある行為、暴力を加える
・心理的抑圧、恐怖を与える
・酷使 など
2. ネグレクト=やらなければならない行為をやらない
・健康管理をしない
・病気を放置
・必要な世話をしない
・劣悪な環境に動物を置くなど
マスコミで騒がれる動物虐待といえば残虐な殺傷事件(意図的虐待)がほとんどですが、もっと身近で頻繁に起こっているのが必要な世話をしないネグレクトです。
まだまだネグレクトを虐待と認識されていない方が多く、病気でも治療もせず放置したり、食物が十分でなくガリガリで あったり、毛玉だらけであったり、ゴミや糞尿の上というような不衛生な環境で飼育していたり、狭いケージに閉じ込めたままであったり、夏冬の厳しい天候にも避ける所もない状態で飼育していたり、短い鎖で繋がれっぱなしであっても、虐待とまでは思わない。しかし、これも明らかな虐待です。
****************************************************************
(http://jaws.or.jp/welfare01/welfare02/)
(4)飼育マナーの欠如
「ペットの飼育マナー」をキーワードとしてネット検索をすると、全国各地の市町村のホームページで関連ページがヒットします。それらを類型化して整理すると、以下のようになります。
①自治体への苦情
【京丹後市】
近年、ペットの「ふんの放置」や「放し飼い」など、マナーを守らない飼い主に関する苦情が多く寄せられています。
【知多市】
犬の吠え声の苦情も増えています。
②他人や近隣への迷惑
【大阪市】
モラルに欠ける一部の飼い主によって、周辺のかたに迷惑がかかっている場合があります。
他人に不快な思いをさせて迷惑をかけたり、恐怖心を与えたりしているようでは、飼い主失格です。
【みどり市】
捨てられた犬や猫が生き残れる可能性は低く、万一生き残ってもその多くは野犬や野良猫になって周囲に迷惑をかける存在になってしまいます。
【久慈市】
のら猫に餌付けをすると、その場所に住み着いて大繁殖し、ご近所に多大な迷惑をかけてしまいます。
3.ペット業者サイドの問題点
(1)売れ残り
㈱ゼフィールの「失敗しない子犬の選び方」というサイト中、「題するウェブページでは、「ペットショップで売れ残った子はどうなるの?」という見出しの下に、以下のように記載されています。
****************************************************************
子犬が一番可愛いのは生後60日前後です。ペットショップでは子犬は生後2ヶ月くらいに販売するのが理想です。
2ヶ月を過ぎるとちょっとあせる。3ヶ月になると値段を下げます。それでも売れずに4ヶ月が来ると全く売れません。もう商品価値は0です。しかも、残れば残るほど経費がかかるわけです。…(中略)・・・
ではその子たちは一体どうなるのか?
1.店員の知り合いに格安で販売する。またはあげる。
2.生産者の繁殖用に販売する。またはあげる。この場合は逆に大きい方が育てる手間と経費がかからないので好都合。
3.動物病院の輸血用に引き取られる。
4.獣医学生の手術練習台として大学に引き取られる。
5.製薬会社の実験用に引き取られる。
6.保健所や動物管理センターで殺処分される。結局最後はこれです。****************************************************************
(http://i-dog.jp/sippai5.html)
(2)悪質なブリーダー
J-Castテレビウォッチの「ワイドショー通信簿」というサイト中、「悪質ブリーダーの驚愕映像…狭い部屋に100匹 エサ腐敗」という見出しの記事(2010/8/23 15:27配信)では、以下のように報じられています。
****************************************************************
ブリーダー(繁殖業者)が奈良県山中にペット犬32匹を投棄していたが、ペットブームの裏にはびこる悪質ブリーダーの実態を取り上げた。まずは、動物愛護団体が撮影した関東地方のあるブリーダーの施設内部の映像――。
狭い部屋に小さなケージが所狭しと並べられ、ペットショップで人気の犬ばかりおよそ100匹が閉じ込められている。ドッグフードは腐敗し、なかには糞を食べているイヌもいる。
撮影した女性は「暑い中で洗ったりされたこともなく、糞尿にまみれて床には虫がわいていたり…。爪は伸び放題だし、皮膚炎を患って毛が抜けて皮膚が赤くなっている状態のイヌもいた」と生々しい有り様を語った。…(中略)・・・
なぜ、これほど悪質なブリーダーが横行するようになったのか。ペット業界を取り巻く状況について女性ブリーダーが解説してくれた。
「7~8年前だと、小売業者を対象にしたオークション会場で、1回に出されるイヌは300匹ぐらいと言われていました。今はその3倍、1000匹ぐらいは出ている。
そうなると高値で取り引きされなくなる。ブリーダーも単価が安いから数を増やそうとするんです。
一般の客が可愛いと思うのは生後2か月から3か月過ぎたぐらいまで。それを過ぎると売れなくなる」
売れなくなると業者はどうするのか。女性ブリーダーはさらに続ける。
「悪質な業者のなかには、毎月ちゃんとやらなければならないフィラリア(寄生虫の一種)の予防薬をやらないブリーダーもいる。薬をやれば長生きしすぎて頭数が減らないから早く死なせるためなんです」
****************************************************************
(http://www.j-cast.com/tv/2010/08/23073988.html)
(3)悪質なペット販売業者
いぬログの「ペット業界の問題点」というサイト中、「悪質ペット販売業者の問題点」と題するウェブページは、以下のように記載されています。
****************************************************************
悪質販売業者の仕入れ方法
悪質といわれるペット販売業者の犬がどこから来ているかご存知でしょうか?…(中略)・・・
仕入先としては犬競りといわれる専門のオークションで落札してくるか、ブリーダーから購入しているかが大半です。
悪質とされる販売業者はオークションで安い仔犬を競り落とし、その個体が遺伝性の病気を持っていようがワクチン接種が済んでいなかろうが値段と売れそうな犬種であれば仕入れてしまうのが問題です。…(中略)・・・
販売ルートの問題点
オークションなりブリーダーからそうやって仕入れられた仔犬たちは、日本の場合その多くは生体展示販売という方法でペットショップで売られます。一度は目にしたことがある小さなケージに値段や産まれた日などが記載されたプレートを付けて積まれているあれです。
その他の販売ルートはブリーダーから仲介業者を通じて飼い主まで交通機関を使って運ばれる方法です。
これらのどちらも飼い主から母犬は全く見えません。パピーミル(仔犬生産工場)といわれる場所で繁殖のためだけに生かされた母犬から劣悪な環境で産まれたかもしれない子犬であっても何も判りません。そこでは近親交配や先天性異常は日常茶飯事で、仔犬を生体としては扱っておらず只の売れるモノ扱いです。悪質販売業者はそれと知っていても利益優先ですので上手く問題点を隠して販売します。
不透明な血統書
血統書は純血種を購入すると付いてくる父犬や母犬など血筋を明確に記載するものです。どこかにチャンピョン犬が居ればもちろん売り値は吊り上げられます。
しかしその血統書、本当のことが書かれているかどうか確認しようがないといえば、そうではないでしょうか。…(中略)・・・
そもそも血統書自体、団体から発行されるのですがわずか数千円で誰でも登録できてしまうという代物なのです。仔犬の出生日や交配記録なども自己申請で、DNAが科学的にも証明されていないので偽装どころか申請分の頭数はどんな仔犬であっても使い回しができるということになります。
****************************************************************
(http://inulog.net/mondai/20.html)
4.結語
動物愛護法(正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」)の第2条((基本原則)「では、以下のように定められています。
****************************************************************
1 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
2 何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。
****************************************************************
また同法第7条(動物の所有者又は占有者の責務等)第4項により、「動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という)に努めなければならない」と定められていますが、糞尿の始末や繁殖、傷病等で手に負えなくなると、殺害や遺棄をすることになります。
犬猫等販売業者も同法第22条の4(終生飼養の確保)により、「やむを得ない場合を除き、販売の用に供することが困難となった犬猫等についても、引き続き、当該犬猫等の終生飼養の確保を図らなければならない」と定められていますが、ペットとして売られている動物は、商品として扱われていて、商品価値が下がったり、なくなったりすると、不用品となって殺処分されることになります。
そもそもわが国では、動物は「物」として扱われ、他人が飼育している動物を殺すと器物損壊罪が適用されます。それに対して、ドイツでは連邦共和国基本法第20a条(自然的生存基盤の保護)で「国は、今後の世代に対する責任を果たすためにも、憲法に適合する秩序の枠内で立法により、また法律および法に従って行政及び司法により、自然的生存基盤および動物を保護する」と謳われており、民法第90a条(動物)でも「動物は、物に属しない。動物は、特別法により保護する。動物には、別段の定めがない限り、物に関する規定を準用する」と定められています。
わが国でもドイツに倣って、動物は頭脳や神経がある生き物であるという観点から、動物愛護を推進することが望ましいと思われます。それには先ず、人間自体が動物であることを殊更に自覚すべきでしょう。そして動物愛護法が環境保護と違反行為取締という側面だけでなく、社会教育という側面もあるということを、強調したいものです。一例を挙げれば、同法第3条(普及啓発)では「国及び地方公共団体は、動物の愛護と適正な飼養に関し、前条の趣旨にのっとり、相互に連携を図りつつ、学校、地域、家庭等における教育活動、広報活動等を通じて普及啓発を図るように努めなければならない」という努力義務が定められており、行政は普及啓発にもっと力を入れて頂きたいものです。また、ペット業界も、人間と動物が共生する社会環境の発展に寄与するようなビジネスモデルを構築することが望まれます。
【筆者:平川 博プロフィール】
昭和52年 中央大学法学部卒業
平成15年~19年 医薬品企業法務研究会の知財部会長
平成16年~19年 ヒューマンサイエンス振興財団の研修委員
平成17年~19年 製薬協の知財部会委員
平成19年 日本チバガイギー㈱退職、社労士開業
平成19年~23年 千葉県年金記録確認第三者委員会専門調査員として総務省で勤務
平成19年~現在 ヒューマンサイエンス振興財団の個人会員
平成22年~現在 行政書士登録、社労士と兼業で産業法務相談室開設
平成25年~現在 日本賠償科学会の会員
平成26年~現在
NPO法人童謡文化を広める会の会員
平成26年~現在 一般社団法人産業法務研究会(産法研)の専務理事
平成26年~現在 特定非営利活動法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の会員
【一般社団法人産業法務研究会(産法研)の概要】
1.設立の目的
①産業法務という概念の普及
②産業界が一丸となって法令遵守に取り組むこと
③産官学の連携
を推進することにより、産業社会の発展に寄与すること
2.主たる事務所
東京都豊島区池袋三丁目1番11号
【建物の名称】セレクトガーデン池袋.
【最寄りの駅】要町(地下鉄有楽町線)出口5番(祥雲寺方面)から徒歩1分
3.事業
(1)産業法務の研究を目的とする会合(以下「研究会」という)の開催
(2)産業法務関連の出版・頒布事業
①書籍(電子書籍を含む)の出版
②定期刊行物の発行
③ビデオ・DVD・映画の製作・頒布
(3)産業法務関連のセミナー開催
(4)産業法務関連の講演会開催
(5)日本産業法学会の設立
(6)産業法務関連の行事(シンポジウムやフェスティバル等)の催行
|