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平川 博  

第15回 「電力設備の老朽化

序文
鉄道は汽車から電車に代わっており、住宅もオール電化が普及し、自動車の動力もガソリンから電気へ移行しかけています。このように、現代社会は電気に依存する度合いが著しく高まっており、電気の供給が止まると、忽ち混乱が起きます。落雷や台風、豪雪、地震等の自然災害とか、発電所や変電所等の電力設備の故障や火災とか、様々な原因で停電が起きています。最近は病院やホテル、学校、地下街等で、非常用の自家発電装置を備えるようになっていますが、所詮は一時しのぎに過ぎません。
自然災害による停電は不可抗力として甘受せざるを得ないとしても、電力設備の老朽化による故障や火災による停電は、適切な保守・点検を行うことにより極力回避することが可能な筈であり、それを怠る電力会社の責任は重大です。社会生活の基盤(インフラ)として電力の重要性が益々高まっているだけに、老朽化対策に真剣に取り組んで頂きたいものです。


1.発電設備
(1)水力発電
①水力発電所の老朽化
新エネルギー財団の新エネルギー産業会議が平成22年3月に作成した「低炭素社会に向けた水力発電のあり方に関する報告書」の「3.現状情勢を踏まえた上の水力発電の重要性」では、「3.5 電力の安定供給と経済性維持における既設水力発電所の重要性」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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わが国における一般水力開発は、第二次世界大戦後の急速に増大する電力需要に対応するため、昭和30年代に大規模貯水池式発電所を中心に年間70万kWの規模で開発されたが、昭和40年代に入り大規模貯水池式の適地が少なくなってきたこと、低廉且つ豊富な石油を利用する火力発電所の建設が主流になってきたこと等に伴い、次第に停滞していった。しかし、この時期に開発された水力発電は日本の経済発展を支え、役割を変化させながら現在に至っているが、この既設水力発電所の約 5 割にあたる約 900 の発電所が運転開始後60年以上を経過しており、2030年には約1,500の発電所が該当することになることから、老朽化への対処が必要である。
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(http://www.nef.or.jp/introduction/teigen/pdf/te_h21_06.pdf[原書7頁])


②ダムの老朽化
八千代エンジニヤリング㈱の「ダム総合管理・運営の提案」と題するパンフレットでは、「ダム・施設管理に係わる現状と課題」として、以下の4項目が挙げられています。
①既設ダム・既存施設(ハード・ソフト)の老朽化
②将来的な維持・管理負担の増大
③安定した維持・管理費用の確保、効率的な運用
④ダム及び施設を熟知した経験豊富な技術者の減少
(https://www.yachiyo-eng.co.jp/aboutus/pdflist/g403-03_v2010.pdf:千代エンジニヤリング㈱〉会社案内〉パンフレット一覧(河川・水工グループ技術パンフレット)
またダムは、上流から流れて来る土砂が堆積して貯水機能が低下する上に、放流によって大量の土砂が下流に流されて堆積するために環境破壊を起こす問題点を抱えています。
(2)火力発電
①火力発電所のトラブル
昨年1年間にマスコミで報じられ、又はホームページで公開された火力発電所のトラブルを整理して一覧表にすると、以下のようになります。

②火力発電所の老朽化
“THE PAGE”というニュースサイトの「火力発電の現状ってどうなっているの? 老朽発電所のトラブルは?」(2014.07.01 14:00)と題する記事では、「老朽化問題」(出典:エネルギー白書)という見出しの下に、以下のように記載されています。
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現在、フル稼働している国内の火力発電所のなかには、40年以上も稼動を続ける老朽火力発電所があります。
老朽火力発電所は、震災前(2010年度)は53基でした。これが2013年度には95基まで増えました。特に沖縄電力を除く電力会社9社で36基だったのが67基まで増加しています。
老朽火力発電所のトラブルは震災前が101件だったのに対し、2013年度には169件に増えています。
また、不具合による停止を避けるために発電所を停止させることを「予防停止」と言いますが、運転期間が40年に満たない発電所では、予防停止件数は横ばいなのに対して、老朽化が進んだ発電所では増える傾向にあります。
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(http://thepage.jp/detail/20140701-00000015-wordleaf)
(3)原子力発電
①原子力発電所の稼働状況

②原子力発電所の老朽化
「楽天エナジー」というサイトの「1/3の原発が今後対象に。老朽化原発の廃炉が本格化」(2014年11月10日配信)と題するニュース記事では、以下のように記載されています。
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原発の老朽化の現状について
2011年に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、原発の運転期間は原則40年に制限されました。対象となるのは、関西電力の美浜1号機、2号機、高浜1号機、2号機や中国電力の島根1号機、九州電力の玄海1号機、日本原子力発電の敦賀1号機の7基。政府は、管轄電力会社から対応のための計画提出を求めるということです。
しかし、現在、48基の商業用原発のうち、すでに約3分の1に当たる原発が運転開始後30年を経過しています。そのため、今後、廃炉対象の原発が多く控えており、「原発廃炉の時代」を迎えます。
廃炉に関しての技術的、政治的な問題点
廃炉を実施していく上で、技術的問題点は以下の通りです。まず、廃炉で生じる膨大な放射性廃棄物の処分地が決まっていないこと。また、30年以上にわたって行う必要がある廃炉作業に対して厳重に監視する体制や、作業員への被ばく低減のための技術的な検討が十分に行われていないことがあります。さらに、経済的に原発に依存してきた自治体に対して、代替の地域振興策を用意し、廃炉後の展望を示す必要があります。地元と、周辺自治体を含むその他国民との間に温度差があることは、大きな問題です。
政府はエネルギー基本計画の中で「原発依存度を可能な限り低減する」と明記しています。廃炉への取り組みを進めることで、できるだけ原発依存度を下げる姿勢を示しています。しかし同時に、原発で発電した電気の価格を、発電コストに見合う価格に設定する案や、原発に関連する融資に債務保証することも検討しています。さらに、「特別点検」を実施し、合格した原発には20年の運転延長も認めています。
原発をめぐる諸問題は、日本の未来のエネルギー需給を決める大切な要素です。政府としても廃炉しやすい環境を整備しながら、電力会社との調整を行うという微妙な舵取りを求められているのです。
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(https://energy.rakuten.co.jp/blog/news/20141110_3044)
2.電力流通設備
 発電所と需要家との間を結び、電気を流通させる設備を電力流通設備といい、送電設備と受変電設備と受配電設備で構成されています。発電設備だけでなく、流通設備も老朽化が進んでいます。
(1)送電設備の老朽化
電気を発電所化から幾つかの変電所を経て需要家に送る設備を送電設備といい、送電線や支柱(鉄塔・電柱)、管路・共同溝、碍子(絶縁体)等で構成されています。
ところで、電力広域的運営推進機関の平成27年10月16日に開催された第6回広域系統整備委員会で配布された「広域系統長期方針の策定について」と題する資料(資料3)では、「広域連系系統の経年設備物量の推移:基幹系架空送電設備の例」という見出しの下に、「基幹系統の架空送電設備は、経済成長の著しい1960~70年代に設備建設が増大。今後、これらの設備が順次更新時期を迎えつつある」と記載されています。
(https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/seibi_06_03.pdf[原書12頁])
(2)受変電設備の老朽化
富士電機のホームページの「受変電設備の劣化診断サービス」と題するウェブページの冒頭では、「受変電設備においては、老朽化した機器の設備全体に占める割合が次第に高くなってきており、高齢化機器の劣化状態の把握、不具合箇所の的確なる処置等が、電力供給信頼度の維持、確保及び向上に重要となってきています」と記載されています。
同ページでは、「機器劣化の事例」という見出しの下に、以下のように写真や図が掲載されています。

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(http://www.fujielectric.co.jp/products/service/service_menu/yobouhozen/juhenden/20.html:富士電機〉サービスソリューション〉 サービスメニュー〉予防保全〉受変電設備の予防保全〉受変電設備の劣化診断サービス)


また、「電気設備の知識と技術」というサイトの「受変電設備の事故概要」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
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受変電設備は各種電気機器の組合せ装置であり、部品やケーブルは経年劣化によって故障することがあり、劣化の進み具合によっては電気事故につながることがあります。これら電気事故の多くはケーブルの絶縁劣化による地絡事故であり、引込ケーブルや開閉器、遮断器、高圧母線といった部分が、事故の半数程度を占めています。…(中略)…
■引込ケーブルの事故例…(中略)…
高圧ケーブルの事故事例としては、ケーブルが熱や湿気で劣化し、シース内部の導体と遮蔽層が絶縁破壊し、地絡事故を発生させることがあります。
■気中開閉器の事故例
屋外引込部に接地される気中開閉器(PAS)は、雷撃、雨、塩分、日射など多くの自然現象の影響を受けるので、絶縁劣化の可能性が高い部分です。
雷撃によって内部機器破壊による絶縁破壊、塩分や雨水で錆が発生し、内部に湿気や雨水が流入することによる地絡など、自然現象による経年劣化による事故が大半を占めます。…(中略)…
■高圧機器類の事故例
変圧器やコンデンサなどの高圧機器の事故が多くを占めています。変圧器は、過負荷による異常過熱で内部巻線が焼損する事故や、絶縁油の劣化による地絡事故などが考えられます。コンデンサは、高調波などの影響で内部素子が劣化し、素子間短絡等のおそれがあります。…(中略)…
CT【引用者註:Current Transformer変流器】やVT【引用者註:Voltage Transformer計器用変圧器】の事故はあまり頻度が高いものではありませんが、経年劣化による地絡事故がほとんどです。
他に、電力ヒューズの溶断や、断路器・遮断器の開閉回数増加による劣化が考えられます。これら開閉機構を持つ部品は、開閉回数による寿命があります
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(http://electric-facilities.jp/denki8/jiko.html:電気設備の知識と技術〉受変電設備の基礎知識〉電気事故の事例)
(3)受配電設備の老朽化
日本配電制御システム工業会の「電気設備の事故とその対策事例」と題する「日本配電制御システム工業会技術資料」(JSIA-T1015)では、「3.1 配・分電盤類の点検ポイントと更新時期」「3.1.1 設置後のメンテナンスと点検ポイント」の項で、受電設備としての配・分電盤類の経年劣化について、「a) 経年劣化」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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盤類の経年劣化には,外面的なものと,内面的なものがある。外面的な代表例は,環境条件による塗装の劣化がある。放置すると発錆し,最悪の場合には箱体に穴が開き,そこから水滴または小動物の侵入により短絡事故が発生する。
内面的なものには配線接続部の締付けの緩みなどによる発熱,絶縁物に粉塵,砂などが付着し,結露また水滴などの付着による絶縁劣化,使用機器の経年的な劣化などがある。
電気導体回路に接触不良,接続不良などが発生すると,局部過熱が生じる。これらは赤外線サーモグラフィを用いて遮断器や断路器などの局所過熱を検出し診断する事ができる。
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(http://www.jsia.or.jp/kikaku/T1015.pdf[原書2頁])

3.社会資本としての電力設備
社会資本の内、一般道路や港湾、航空、公共賃貸住宅、上下水道、都市公園、自然公園、治水、治山、海岸、文教(国公立の学校)等は国と地方公共団体が整備主体となって老朽化対策が講じられています、それに対して、電力設備は民間事業者が整備主体となり、老朽化対策を含めて、保守・点検を実施しています。従来は電力会社に地域独占権が与えられていたので、経営が安定していましたが、段階的に進められてきた自由化が、本年4月から一般家庭や小規模店舗にまで拡大され、競争が激化することは間違いありません。そこで新しくて効率が良い発電設備を備えた新規参入業者が、老朽化した巨大な設備を抱えている古参事業者よりも価格面で有利な立場に立つことが想定されます。
しかし、新規参入業者は送配電設備を持っていないので、古参事業者が持っている送配電設備を借りることになります。将来的には電力流通業も自由化の方向へ向かっていますが、電力の安定供給に必要不可欠な送配電設備の保守や更新が適切かつ確実に行われる制度の構築について、行政や立法上の取組が心許なく感じられます。やがて激化する市場競争に疲弊して、社会資本としての電力設備の保守・更新が疎かになることが懸念されます。

4.結語
 電力がなければ家庭生活も事業活動も成り立たない現代社会において、停電は断水と同程度に、死活問題に直結しています。従って、社会資本としての電力設備は、水道と同様に、民間事業者ではなく、国と地方公共団体が整備主体となることが望ましいのです。日本全国津々浦々まで電力ネットワークを国が一元管理することこそ、安定供給という観点から見れば最善の筈です。また、発電設備の中でも、特にダムは治水や貯水等の目的を兼ねるので、関連する地方公共団体が管理するのが適切でしょう


【筆者:平川 博プロフィール】
昭和52年 中央大学法学部卒業
平成15年~19年 医薬品企業法務研究会の知財部会長
平成16年~19年 ヒューマンサイエンス振興財団の研修委員
平成17年~19年 製薬協の知財部会委員
平成19年 日本チバガイギー㈱退職、社労士開業
平成19年~23年 千葉県年金記録確認第三者委員会専門調査員として総務省で勤務
平成19年~現在 ヒューマンサイエンス振興財団の個人会員
平成22年~現在 行政書士登録、社労士と兼業で産業法務相談室開設
平成25年~現在 日本賠償科学会の会員 平成26年~現在 
NPO法人童謡文化を広める会の会員
平成26年~現在 一般社団法人産業法務研究会(産法研)の専務理事
平成26年~現在 特定非営利活動法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の会員

【一般社団法人産業法務研究会(産法研)の概要】
1.設立の目的
①産業法務という概念の普及
②産業界が一丸となって法令遵守に取り組むこと
③産官学の連携 を推進することにより、産業社会の発展に寄与すること
2.主たる事務所 東京都豊島区池袋三丁目1番11号
【建物の名称】セレクトガーデン池袋.
【最寄りの駅】要町(地下鉄有楽町線)出口5番(祥雲寺方面)から徒歩1分
3.事業
(1)産業法務の研究を目的とする会合(以下「研究会」という)の開催
(2)産業法務関連の出版・頒布事業
①書籍(電子書籍を含む)の出版
②定期刊行物の発行
③ビデオ・DVD・映画の製作・頒布
(3)産業法務関連のセミナー開催
(4)産業法務関連の講演会開催
(5)日本産業法学会の設立
(6)産業法務関連の行事(シンポジウムやフェスティバル等)の催行