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平川 博  

第5回「深刻な介護業界の人材不足

1.介護現場の人材不足  

少子高齢化が進んでいるために、産業のあらゆる分野で人手不足が問題になっています。この問題に介護業界も直面しており、「ホームヘルパー井戸端会議」というウェブサイトに掲示されている「40万人が足りない。介護の人材不足は危機的状況に」(2014/01/21公開[2014/01/22最終更新])と題するコラム記事では、以下のように記載されています。 **********************************************************************
☑危機的な人材不足。40万人が足りない!  厚生労働省は、2014年には140~160万人の介護職が必要になるという見解を発表しています。  現在、介護労働を行っているのは100万人。つまり、今よりも40万人以上の介護職が必要になるという計算になります。  にも拘らず、現在も介護現場の人材不足はまったく解消されていません。  最大の原因は離職率の高さ。介護の仕事に就く社員の35.2%は1年以内に離職し、79.2%は3年以内に離職しています。この数字は他の産業に比べても極めて高い数字です。
 その最大の要因は、給与の低さや昇給の少なさにあることは間違いありません。介護報酬が定められている以上、給与の水準を上げたくても限界があります。
 それでも、厚生労働省は、事業者による自助努力で介護職員の給与・待遇を改善するようにとの主張を繰り返しています。既に事業者の努力によって解決できるレベルにはないわけで、間違いなく、厚生労働省は現状を理解できていません。
 なおかつ、介護の労働には高い質を求め、介護の基礎資格をヘルパー2級から介護福祉士に統一するという決定もされています。・・・(中略)・・・

☑誰が担う?2015年の介護
 厚生労働省は、 「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針』の改正についての諮問」において、人材不足の解消のために以下のような対策を行うことを求めています。
 ・給与等の労働環境の改善 ・新たな経営モデルの構築 ・介護技術等に関する研究及び普及 ・キャリアアップの仕組みの構築-資格制度の見直し ・福祉-介護サービスの周知・理解 ・潜在的有資格者等の参入の促進等 ・福祉・介護サービス以外のほかの分野に従事する人材の参入の促進  テクノロジーが発達して介護労働の肉体的負担が軽減しても、キャリアアップの仕組みが確立したとしても、現在のような給与水準では家族を養うということすらも難しいのですから、これからも介護労働者は確保することはできず、何の解決にもなりません。  結局、根本的な解決としては、まずは給与等の労働環境の改善以外には考えられません。にも拘らず、介護報酬の底上げに関しても、社会保障費が大幅に削減される中で、改善される可能性は薄いといわざるを得ません。  悲鳴を上げる介護事業者、現状から目を背ける厚生労働省、増え続ける高齢者。
 高齢化社会がピークに達する2015年の介護は誰が支えるのか。
 現状を最もよく知っている現場で働く介護労働者が、もっと声を大にして社会に訴えていくことが必要です。 ********************************************************************** (http://www.helperstation.net/tora/jinzai/)

2.外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れ

 厚生労働省の「雇用・労働」というサイト中、「インドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。 **********************************************************************

 日・インドネシア経済連携協定(平成20年7月1日発効)に基づき平成20年度から、日・フィリピン経済連携協定(平成20年12月11日発効)に基づき平成21年度から、日・ベトナム経済連携協定に基づく交換公文(平成24年6月17日発効)に基づき平成26年度から、年度ごとに、外国人看護師・介護福祉士候補者(以下「外国人候補者」という)の受入れを実施してきており、これまでに3国併せて累計2,377人が入国してきました。(平成26年度の入国完了(平成26年6月16日)時点)
 これら3国からの受入れは、看護・介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するものです。
********************************************************************** (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/other22/index.html)

 ところが、中日新聞(CHUNICHI WEB)の「在留資格に『介護』新設へ 外国人労働者受け入れ促進」と題する記事では、以下のように報じられています。 **********************************************************************

 政府は26日、介護分野で外国人労働者の受け入れを促進するため、在留資格に「介護」の新設を盛り込んだ入管難民法改正案を3月上旬にも国会に提出する方針を固めた。会期内の成立を目指す。高齢化が進む中、日本で介護福祉士の資格を得た外国人を活用し、人手不足が深刻な現場のニーズに応える狙い。
 改正案は公明党の法務部会で既に了承され、26日に開かれた自民党法務部会でも了承された。両党内の手続きを経て、近く閣議決定する見通しだ。 ********************************************************************** (http://www.chunichi.co.jp/s/article/2015022601001663.html)

3.介護報酬の引き下げ
 
福祉ジャーナリストの浅川澄一氏が執筆し、ダイアモンド・オンラインに掲載されている「なぜ介護報酬引き下げ?新オレンジプランは新味なし」(2015年1月21日掲示)と題する記事では、以下のように記載されています。
**********************************************************************
 来年度の予算編成の一環として介護報酬が改定された。介護報酬は3年ごとに見直され、この4月が第6期目にあたる。1月11日の麻生財務相と塩崎厚労相の会談で正式に決着したもので、前期より2.27%のマイナスとなった。9年ぶりのマイナス改定で事業者団体は一斉に反発している。・・・(中略)・・・

 以前から財政均衡に拘る財務省は、社会保障費の突出を抑えようと策を凝らしてきた。財政制度審議会を通じて介護報酬の改定に早くから積極的に介入し、そこへ消費税の10%アップの先延ばしで、予定財源が減少したこともあり相当に強腰だった。 財務省が一貫して主張してきたのは、「介護事業者の『収支差率』は8%ほどあり、2%ほどの中小企業を上回る」「その結果として特別養護老人ホームは、過剰な内部留保を抱えている」という点だ。いわば「儲け過ぎ」と言わんばかり。「内部留保を吐き出せばいいのだから、報酬はこれまでより下げるのが当然」という考え方だ。 当初は一般企業との差を考慮して6%減(8%-2%)を唱えていたが、4%減に下げて厚労省と折衝を続けた。対する厚労省は「介護現場の人手不足は深刻な状況に陥っている。一般産業より平均賃金が10万円も安いからだ。総費用を減額されて人件費が頭打ちになればますます人が集まらなくなる」と訴えた。 そこへ官邸から「過去最大の下げ幅の2.3%を上回らないように」との声が届き、最終的には小数点2ケタという異例の細かい数値で折り合うことになった。安倍首相が「社会保障に冷たい政権」とのイメージが広がることを恐れて指示を出した、と言われる。 財務省は一方で社福法人の体質の見直し、改革論議を財政制度審議会で重ねてきた。不透明な会計報告、家族経営、親族企業からの設備購入、自治体や議会との癒着―。税の投入を受けながらの不明朗な運営に一部のマスメディアも追及し出した。こうした勢いに押されて厚労省も重い腰を上げる。審議会で検討し始め、地域貢献の義務付けや役員報酬の透明化などの法改正案をまとめた。 社福法人の不透明な体質が「儲け過ぎ」をもたらした、という確信が財務省側にはあったようだ。収支差率という具体的な数字は説得力を持つ。社福法人を槍玉にあげることで、巧みにマイナス改定の土俵を作ったともいえるだろう。 そのとばっちりを受けたのは、熱意をもって地道にケアに取り組む各地の小さなNPO法人や中小の企業のようだ。 ********************************************************************** (http://diamond.jp/articles/-/65420)

4.結語
 人材不足が社会問題になる度に、場当たり的に人手をかき集めるということは、急場を凌ぐためにやむを得ない面がありますが、特に外国人労働者の受け入れ拡大は、将来的に禍根を残すことが懸念されます。この点について、岡伸一が執筆し、2014年10月1日にSYNODOS(シノドス)の「福祉」というサイトで掲示された「外国人労働者受け入れ拡大の政策論点と課題――国際貢献・条件整備・範囲拡大」という社会保障論では、「日本における政策論点」という見出しの下に、以下のように記載されています。 **********************************************************************

  最初に強調したいのは、短いスパンでの経済戦略として議論することは危険が大きいということである。かつて、経済成長期に外国人受け入れが進められ、不況期になると外国人排除した政策が繰り返されてきた。モノやカネと違って、ヒトは権利を持つ。当然、意思も持つ。どのような国であろうと、ヒトを完全に管理することはできない。一度外国人を受け入れてしまえば、もう二度ともとには戻れなくなる可能性が高い。
  高度経済成長期に外国人を大量に受け入れた欧州が、経済不況に陥って様々な帰国奨励策を展開したが、多くは帰国しなかった現実がある。新たな受け入れを止めるだけでは不十分であった。長期滞在外国人はより重たい権利を持ち、帰国を強制することは困難となり、家族呼び寄せを拒否することも人道上不可能となる。

  第2に、長期的な労働市場への影響である。世界には無尽蔵の労働力がある。入口を一度緩和すると、途中で線引きすることが難しくなる。安い大量の労働力へのニーズは先進諸国側にも無限に存在する。安い労働力を求める国内のニーズが一挙に爆発する危険性がある。イタリアの事例のように、ある時ふと気が付けば、その職種はほとんど外国人によって行われる仕事になっていたと言う事例も少なくない。
  また、外国人だと賃金が安くてすむということも、状況はすぐに変わっていく。一部で育児や家事サポーターとして外国人の受け入れが提案されているが、いつまでも安い賃金で運営できるものではない。膨大な貧富の格差が当然となっている開発途上国と比べれば、富の分配が比較的平等な日本とは、状況が違う。国籍による差別は認められない。最低賃金は外国人にも適用される。外国人の賃金も最初は安くても、時間とともに日本人と同じになっていくであろう。
 外国人の労働供給は無限にあり、賃上げをしなくても労働力が確保されてしまうと、賃上げされないで相対的に低賃金職種にとり残される可能性がある。そうなると、国民がやりたがらない職種は外国人の独占的な職種に近づいていく。
  第3に、少子化対策として外国人の受け入れを主張する人もいる。年金の担い手として外国人に期待する意見もある。現在の日本の外国人比率は僅かに1.7%で、先進国では最も低い水準である。少子化の人口対策として効果を持たせるのは、桁違いの受け入れが必要になることは明らかである。また、外国人も年をとる。年とった外国人の年金を支えるためにさらに多くの外国人を受け入れなければならないことになる。多くの外国人は帰国しないで居続ける。人口構成の均衡化のために外国人を入れ続けるなら、無制限の外国人依存社会になってしまう可能性がある。 第4に、社会的コストに言及したい。外国人は労働者としてやってくるが、社会に入れば一人の市民であり、その文化や生活スタイルを受容しなければならない。

 宗教一つとっても、教会やモスク等が街角に増えて建設されても当該国民は受容できるだろうか。外国人が異国で生活するには多様な労力とコストもかかる。社会統合のために語学教育をはじめ多用なサービスを設ける必要がある。例えば、外国人の多い地域の学校で、外国語対応できるスタッフを雇用している。外国人のためのソーシャルワーカーも必要となる。医療費を払えない外国人の入院費用を自治体が肩代わりすることもある。外国人の受け入れに伴い多大な社会的コストが必要である。この社会的コストは企業でなく、国民が負担することになる。企業の便益だけ考えても不十分である。 ********************************************************************** (http://synodos.jp/welfare/9705)
 また、増大する社会保障費の抑制という観点から今年度の予算案では介護報酬が引き下げられることになっていますが、処遇改善加算の措置が講じられて、介護職員の賃金を平均で月1万2000円アップできる財源を確保しました。この点について、「介護のほんね」というサイトのディレクターである横尾千歌氏が、同サイトに寄稿して2015年2月1日に掲示された「介護は良くなるのか?

 介護報酬改定から日本の未来を本気で考えてみる」と題するニュース記事では、「介護について、もっと社会が議論すべきこと」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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議論1「賃金を月1万2000円UPすることが離職を食い止めるのか」
確かに介護職員の離職の背景には給与水準の低さが挙げられます。しかし、「今よりお給料が1万2000円上がるなら介護の仕事を始める・続けるわ」という人がどれくらいいるのか?どこも議論していないように思えます。 事業者からすれば介護報酬引き下げで収入は減っているわけですから、月額の給与をアップする代わりにボーナスをカットすることなど賃金がアップするとも言い切れません。

議論2「一人暮らしの高齢者が増える中、在宅介護は主流になるのか」
核家族化が進み、日本では多くの高齢者が一人暮らしをしています。家族がいない高齢者もいますし、家族がいたとしても離れて暮らしているケースが多くなっています。 在宅介護のほうが“家族”や“自宅”という資源を活用できるわけですから公費が掛からなくなるのは理解できますが、男性で1割、女性で2割の高齢者が一人暮らしという状況で、在宅介護は主流になるのでしょうか。ほかの問題の引き金にならないでしょうか。 議論3「介護の問題を、介護だけで解決するのか」 高齢者が増えるほど要介護者が増えて人員もお金も足りなくなる、という今の構造のまま個々の問題を解決していくのでしょうか。 そもそも介護の問題を介護の世界だけで解決しようとしていることに無理があるように思います。人もお金も最小限でできるケア方法や機械を研究すること、社会保障費を確保するために経済を活性化させること、など、一見介護とは遠いことが、問題の解決に直結するのではないかと思います。 ********************************************************************** (http://news.kaigonohonne.com/article/197)

産業法務の視点から見れば、人手が足りないのは介護業界だけではなく、運送業界や建設業界、IT業界でも起きています。その解決策として、外国人労働者を受け入れることは、一時凌ぎに過ぎず、抜本的な対策とはならないでしょう。将来的に国境の無い世界統一連邦が実現して、外国人という概念がなくなり、誰もが世界中どこに住んで働くことができるようになれば格別、さもなければ国家という制度が存在し、国民という概念がある限り、帰化して日本国籍を取得しなければ、公民権の行使に関して日本国民と異なる扱いをすることは続くことになるでしょう。確かにスポーツの世界では、相撲のように日本の国技であっても、横綱や大関等の上位陣を外国人が占めるようになっていますが、政治の世界ではそこまで国際化が進むとは思われません。もし首相や大統領に外国人が就任する国家が登場したら、世界統一連邦への道が開かれるのではないかと夢想しますが、却って排外主義が台頭して内乱やテロを誘発する危険性が高まることが懸念されます。従って、安易に外国人労働者の受け入れを導入したり、拡大したりして、急場を凌ぐことは俄かに賛同しかねます。 やはり国内の問題は、なるべく国内で解決することが肝要であるように思われます。本題に即して言えば、介護の仕事は大変な重労働であり、しかも有資格者として重責を担っています。従って、介護業界で働く人にとって魅力のある仕事とするためには、介護報酬の引上げを始め、労働条件の改善を図ると共に、青少年の中から福祉関連の資格取得を目指す人材を発掘して育成する教育制度を充実させることが望まれます。


【筆者:平川 博プロフィール】

昭和52年 中央大学法学部卒業
平成15年~19年 医薬品企業法務研究会の知財部会長
平成16年~19年 ヒューマンサイエンス振興財団の研修委員
平成17年~19年 製薬協の知財部会委員
平成19年 日本チバガイギー㈱退職、社労士開業
平成19年~23年 千葉県年金記録確認第三者委員会専門調査員として総務省で勤務
平成19年~現在 ヒューマンサイエンス振興財団の個人会員
平成22年~現在 行政書士登録、社労士と兼業で産業法務相談室開設
平成25年~現在 日本賠償科学会の会員 平成26年~現在 
NPO法人童謡文化を広める会の会員
平成26年~現在 一般社団法人産業法務研究会(産法研)の専務理事
平成26年~現在 特定非営利活動法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の会員

【一般社団法人産業法務研究会(産法研)の概要】
1.設立の目的
①産業法務という概念の普及
②産業界が一丸となって法令遵守に取り組むこと
③産官学の連携 を推進することにより、産業社会の発展に寄与すること
2.主たる事務所 東京都豊島区池袋三丁目1番11号
【建物の名称】セレクトガーデン池袋.
【最寄りの駅】要町(地下鉄有楽町線)出口5番(祥雲寺方面)から徒歩1分
3.事業
(1)産業法務の研究を目的とする会合(以下「研究会」という)の開催
(2)産業法務関連の出版・頒布事業
①書籍(電子書籍を含む)の出版
②定期刊行物の発行
③ビデオ・DVD・映画の製作・頒布
(3)産業法務関連のセミナー開催
(4)産業法務関連の講演会開催
(5)日本産業法学会の設立
(6)産業法務関連の行事(シンポジウムやフェスティバル等)の催行