「家の前に記者がいるようなんだが…」と夜遅くかかってきたトップからの電話。「今はお会いにならない方が…」と当時広報部長だった筆者の些かつれない返答。子会社の外資への売却話が最終段階を迎えていた微妙な時期だった。
「仕事の話は会社でお願いします」が社の方針と伝えてあってもコアな情報を手に入れようとすれば記者のいわゆる“夜討ち朝駆け”取材は避けられない。トップや役員に日中なかなか会えないなら、自宅を深夜や早朝に訪れ直接話を聞こうと考えるのは自然な流れだ。
不祥事はもちろん、合併・買収など重大ニュースが発生すると会見や広報の発表に頼っていては他紙と横並びの記事しか書けない。記者なら夜討ち朝駆けしてでも独自のネタが欲しいはず。広報としては対応に苦慮するが、情報を挟んでの記者とのつばぜり合いは手に汗握る。
そんな“夜討ち朝駆け”、一方でマスコミの長時間労働の象徴の如く見られがち。一昨年電通で起きた新入社員の過労自殺問題を機に過重労働への世間の関心は高い。無論それを伝える報道機関自身も他人事でいられない。国の“働き方改革”の推進もあって、記者の仕事も厳しく問われる時代に入ったようだ。
当然媒体各社は代休の徹底や勤務体制の見直しなど労働環境の改善に努めるだろうが、企業広報としても記者事情にあった向き合い方や情報の提供が求められよう。ネット時代を反映したSNSの活用も欠かせないが、互いの信頼関係の構築が一層大事になるのは間違いない。
広報と記者は情報を介していつもは協働するが、時に対立する場面もある。それを当たり前に受け止めるところに良好な関係が築けるもの。記者の働き方が変わっても、このスタンスは不変だ。
いずれにせよ、より深い情報を求め記者の取材競争がなくなることはない。マスコミに不慣れなトップや役員が “夜討ち朝駆け”で不用意な発言をしないよう日頃から「記者とは…」をレクチャーするのは益々重要になるだろう。
![]() | 執筆者:風間眞一氏 広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。 広報部長などを経て2009年退社。 広報業務に18年携わる。 07年 経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。 |