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  1. 負債相続-最前線 椎葉基史
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第6回「”負”動産」と空き家対策

「負債相続」最前線!

司法書士法人ABC 司法書士・椎葉基史 著

■見出し 制度の欠陥!? 相続放棄しても永遠に残る空き家の管理義務

今の負債相続の現場で非常に悩ましい問題となっていることが大きく分けて2つあります。1つが「“負”動産問題」です。

これからお話しするようなケースが今、非常に増えています。4人家族でお子さん2人は実家から出ている状態。実家は田舎の方にあり、長男は結婚して東京で暮らしています。ですから、生活の基盤は都心部にある状態です。そして、もう一人の長女も別の家に嫁いでしまっています。父親が亡くなっていれば、母親が一人暮らしで晩年を送っている…。その後もし、この母親が亡くなってしまったとき、実家の母屋はそのまま空き家になります。このようなケースが非常に増えています。このときに、お子さん2人はもう田舎の実家から離れて暮らしているため、今さら実家の財産を管理できないわけです。

皆さんが一度は考えられるのは、それならば、実家が古い建物であったらその不動産を売りに出そうということです。しかし、ご実家が築何十年の建物である場合、そもそもその建物には価値がなく、その不動産を売るに売れないという状況に置かれます。取り壊しにお金が掛かかり、田舎であれば土地自体の価値が低くなるので、資産ではなく、実質は負債の状態になっているのです。そこで私どもは不動産の「不」を負債の「負」として「“負”動産」問題と呼んでいます。

相続人を苦しめる負動産

こういった場合、相続人としては当然、相続放棄という手続きを検討するわけです。しかし、実務上問題となっているのが、法律の壁なのです。民法940条という条文が、私どもの実務の現場では壁になっています。

実は相続放棄をしたとしても、次に財産を引き継ぐ人がいなければ、その間は永遠に管理義務が残るという条文があります。ですから、全員が相続放棄をしたとしても裁判所で財産管理人が決まらない限りは、いつまでも管理義務が残ってしまうのです。ですから、その管理義務が残ってしまっている状態で、空き家を放置してしまっているとどうなるか。例えば放火されてほかの家にも燃え広がったり、建物が壊れて立地の所有者に迷惑を掛けたりするということが起きると想定できます。この場合、当然その管理責任というのは、相続放棄したはずの相続人に及んでしまいます。

ですから、借金だったら相続放棄すればそれで終わりになるのに、不動産に関しては相続放棄してもいつまでも責任が残ってしまうという問題があります。これはもう、完全に制度の欠陥があるといえる状況です。

このような問題の背景として、「空き家対策措置法」という法律が一昨年(2015年)5月に施行されました。倒壊のおそれのある空き家については「特定空き家」というかたちで市町村が認定します。もし特定空き家に認定されてしまうと市町村によって所有者もしくは管理者は行政指導や行政勧告、はたまた行政命令、行政代執行というかたちで手続きを進められてしまうのです。相続放棄した相続人も「管理者」に当たります。

空き家対策特別措置法

もし、例えば行政命令をそのまま放置してしまうと、50万円以下の過料となります。また、例えば行政が取り壊しに取り掛かった場合の費用に関しては相続放棄をしたはずの相続人に請求が行くといったことが起きてきます。

不動産の相続放棄というご相談は昔からあったのですが、一昨年この法律が出てきてからは、私どもの所で過去、手続きを取ったケースでもちらほらと市町村から相続人のところにこうした通知が来るようになってきています。

本来不動産というのは資産であったわけで、日本の法制度では不動産を負債だと見なして考えている制度設計にはなっていないので、なかなか解決ができていないのが現状です。(次回に続く)

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