第13回 「板挟み!? 見失い
たくない広報の方向感
」
3月27日の株主総会で決着した大塚家具の内紛。創業者会長と実の娘の社長が経営権を巡り対立したが社長側の勝利で終わった。会長は退任し、会社の立て直しは社長の手に委ねられることとなったが骨肉の争いだけに未だ尾を引きそうだ。
今回のお家騒動、新聞や雑誌、テレビなどで繰り返し取り上げられ、同社の知名度は皮肉にも大いに高まった。だが、企業イメージからすれば少なからず逆効果は否めない。互いの会見では、お互いに相手を経営から外そうと父娘らしからぬ厳しい口調で応酬するなど“上場企業にあるまじき醜態”と囁かれる始末。
老舗家具大手の会長・社長の確執が世間の関心を集めるなか、ふと浮かんだのが高杉良氏の経済小説『広報室沈黙す』(1984年刊)。上層部のゴタゴタに翻弄され、悩みながらも経営陣や記者とのやり取りに骨を折る広報マンが克明に描かれている。今日でも全く色あせない。
モデルは実在した損保会社。大塚家具と事情は異なるが、ワンマン会長に抵抗する社長の構図は類似する。こんな時、広報はどう対処したらいいのか、ある意味股裂き状態。小説では主人公の広報課長は社長に同情的になるが、それが後でわが身に降りかかることに。
言うまでもなく、広報は日頃パブリシティ活動で企業のイメージアップに努め、クライシスでは一転ダメージの最小化に奔走する。ただ、事が経営の主導権争いとなると見極めが難しい。メディアを相手においそれと動けないのが現実だ。
その意味で大塚家具の内輪もめは広報にとって自らに置き換えて考える好機。同じことは起きないとしても、広報が会社とメディア(社会)の板挟みになりかねない場面はいつやって来てもおかしくない。その時慌てないためにも、日頃から有事を想定した心の準備は欠かせない。
件の小説に“こうほう(広報)を逆さにした、社会に対するほうこう(奉公)が広報の基本”という一節がある。言い得て妙。社会に向けた窓口たる広報、どんな事態でも方向感だけは見失いたくない。
執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。
広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年
経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。
|