どんよりした曇り空に枯葉だけが残ったうっそうとした樹々。冬独特の重苦しい空気感は、私たちの気持ちもどんよりさせます。2月は特に、春の気配を期待しながらも厳しい寒さの疲れもピークに達してきます。また、今年は加えて新型コロナも影響し、長引く自粛に伴い友人知人との交流も疎遠になり、窮屈感と閉塞感に押し込められる恐怖感。先の見えない不安など。
「冬になると何となく体調や気持ちが不安定になる」「寒いから外には出たくない」「気持ちもやる気も出なくなる」、こういった、冬独特のうつ症状について“ウインターブルー(冬うつ)“といわれています。
<ウインターブルーの症状>
✓ 朝が起きられない
✓ 甘いもの、炭水化物が食べたくなる
✓ 体重が増える
✓ だるさや疲れがとれない
✓ いくら寝ても寝足りない
ウインターブルーはもともと日照時間が短い北欧の人々が罹りやすい症状でありましたが、日本でも増えています。特に若い女性に多いことが特徴であり、自粛が続きテレワークが増え、社員の行動や生活が見えない中では、企業のリスクとしても軽視できない問題です。
<原因>セロトニン分泌の不足
太陽光は目を通して脳に入ることで、通称“幸せホルモン“といわれる「セロトニン」の分泌が刺激されますが、不足すると気持ちが落ち込み、うつ症状に繋がる原因となります。一般的なうつ病では、不眠症や食欲不振が見られますが、ウインターブルーでは反対に、「過眠や過食」などの症状が表れるのが特徴です。
理由として、「過眠」については、セロトニンの不足に伴い、夜の睡眠時間の延長と日中の眠気の増加が同時に起こるため。
「過食」については、炭水化物に特異的に働き、米やパン、パスタの他にチョコレートなどの菓子類を好み、午後から夜にかけて増強するといわれています。たくさん食べて寝る、春を迎えることで症状が改善されるため、「冬眠」と似ていると表現されることがあります。
企業の対応としては、病的なうつ症状の可能性を早めに見つけることであり、専門家への受診を促すこと、産業医や健康管理センターなど専門職へ相談をさせること、が必要です。中には、毎年冬になると「変化する自分の傾向」を認識している社員もいるようで、早めの対応をとることを“気付かせる”ことが予防につながります。
<対策>朝起きたら10分ウオーキングをする
✓ 陽の光を浴びる特に午前中の光が大切であり、外に出られないようであれば、
カーテンを開けて陽の光を取り入れること
✓ ウオーキング・エクササイズをする
適度な運動はセロトニンの分泌を促し、意識的に呼吸をすることで脳への刺激にもなる
✓ トリプトファン(必須アミノ酸)を含む食品をとる
豆腐や納豆などの大豆製品、ごま、ピーナッツなどの種子類、バナナ、鶏ムネ肉、鮭、マグロなどの赤身には、セロトニンの分泌を促す効果がある。テレワークにより通勤がなくなったことは、朝の光を浴びる時間が減ったこととして多くの人にとって共通事象です。意識的に、散歩をする、ごみ捨てや家の周りの掃除をする、など「陽を浴びる時間の確保」を検討しなくてはなりません。始業前にオンラインミーティングなど企業の取り組みもありますが、ひと運動をしたか、光を浴びているか、などの促しや情報提供などの時間を取り入れることも、社員の健康管理の工夫の一つでもあります。
・テレワークに伴う社員の困りごと
テレワークが推奨され、これまでの職場環境が丸ごと自宅へ放り込まれて、社員の困りごとは尽きません。まず作業場の確保、これまでほど快適なものを再現できる人は半数くらいかもしれません。
某会社アンケート(600人)によると、男女とも1位は「肩こり」、2位、3位男性は「眼精疲労」、「腰痛」、女性は「頭痛」、「むくみ」、でした。
他の調査によっても上位に占めるのはたいてい、肩こり、腰痛、頭痛、眼精疲労(フィジカル4大主訴)はパターン化しています。次に、運動不足、体重増加、睡眠不足(生活リズム3大不調)が男女ともに上位を占めます。
ここで、「睡眠不足」がなぜ上位に食い込むのか、不思議に思う人もいるのではないでしょうか。通勤がない分、早く床に就き遅くまで眠れるので長くなる人も多いのですが、「オン・オフが付きにくく仕事が長引いてしまう」、自宅でのゲームやアルコール、女性の場合は家事育児が雑多となり、「とにかく睡眠時間が少なくなった」という声もあります。つまり、これまでの自宅での過ごし方が個人差にも影響しているようです。睡眠の質の低下や時間の不足は、メンタルにも大きな影響を与えますので、社員の健康状態を把握するうえでは、大事な指標の一つになります。
さらに男女差の特徴として、女性よりも男性の方が、「倦怠感・焦燥感」、「イライラ感」、「疲れやすい」、「不眠」などメンタル的な症状が優位に表れています。女性の方が普段の生活、家事や育児などの場面でも、融通や割り切り、対応や適応力を駆使している、という見方も考えられます。また実際に、自宅で過ごす時間が長かった女性と、短かった男性では、家での居心地の良さ、
気楽さ、などの感じ方も異なっているのかもしれません。これらの困りごとが健康へ影響をきたすのか、解決策を得られるのかは、個人差により、各個人の状況を把握しながら引き続き経過を追う必要があります。
・ニュ―ノーマルの中での新しいストレス
高ストレス者と健康課題の分析結果(某大手会社3400人)もあります。(バックテック社より提供)
バックテック社長福谷氏によると、「高ストレス者の6-8割は、肩こり・腰痛などの不定愁訴に悩んでいる」とのことであり、またこの「要因を取り除くことで、メンタル不調の軽減にもつながる」とのことです。
ニューノーマルで取り入れた新しい生活には、新しいストレスもついてきます。またその新しいストレスの負荷の程度や、改善方法などは、まだまだ各個人手探りの状態です。メンタル休職者の増加、自殺者の増加も原因は多岐にわたり、解決策はそれぞれ不明瞭であり、深刻化も懸念されます。
厚労省との共同研究により、「新型コロナウイルスへの感染症拡大による、企業の健康経営の取組と企業による従業員の働き方への影響」について4月と6月に調査したところ、メンタルヘルスの課題が増加している、という結果が得られました。
(出典)株式会社ニューロスペース、株式会社バックテック、株式会社asken
企業として、「適切な情報や機会の提供」は、社員の健康を守るという意味でもあり、なおかつ業務上の効率化や生産性の向上を守るうえでも必至の課題となります。高ストレス者はうつ病のリスクも高まるので、引き続き警戒してウオッチしていくことと、過重労働者の健康管理、また各個人での予防対策としてストレス耐性の強化や、E-ラーニングの拡充などの整備も急務です。なぜならば、企業も社員も双方向に迎え来る未知のストレスに向き合うことになるからです。
プロフィール
東京都出身。東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業。卒業後、国立がんセンター中央病院にてがん看護に従事。
その後、健診センターで健診事業及び事後指導に携わり、健診の大切さを実感する。健診後の事後指導としては、厚労省事業THP(*)に協力し、企業での健康教育や健康増進などに関わる。2008年より医療費削減、生活習慣病予防を目的とした国家プロジェクトである、「特定健診・特定保健指導」がスタート。同時に、健康保険組合にて特定健診・特定保健指導を主軸に、メタボ対策・禁煙対策・歯科事業・糖尿病重症化予防について保健事業を担う。健診結果とレセプトの分析により、組織の健康課題や課題への介入方法などを検証し、事業主へ問題提起。
また健康意識の低い人に対し、「正しい知識を与え健康に意識を向ける⇒行動に移すという」、ポピュレーションアプローチの手法を駆使し、職場の健康風土の醸成と底上げが、社員一人一人のヘルスリテラシーの向上が健康維持・増進につながることを、企業と健保の共同事業=コラボヘルスで実現する。2017年度より健康経営度調査によりホワイト500取得に貢献する。
メタボ対策として、男性は30代後半から40歳にかけて最も脂肪が蓄積しやすく、腹囲の増加幅が高くなることを発見。血液検査には異常はきたさないが、腹囲だけが増加する30代を「かけだしメタボ」と提唱し、30代からの保健指導の大切さを主張する。現在は、メンタル対策、重症化予防を中心に産業保健に従事。
本サイトでは、産業保健の中で企業が関わる課題に対し、保健師から見る対策と予防の大切さを伝えていく。
*THPとは「Total Health promotion Plan(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)」の略。働く人すべてを対象にした「心とからだの健康づくり運動」の厚労省の策定指針に基づく事業