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「生活リズムの変化」②運動と睡眠

前回に続き、コロナ前とコロナ禍の生活リズムの変化について、某会社3450人の2019-2020年度の健康診断の結果から、食事・睡眠・運動の3つの変化を見てみました。
職種によって変化を受けない人もいますが、リモートワークが進んだことで、通勤時間が無くなった人は時間の使い方を工夫することで、生活リズムの変化に大きく影響を受けていることが見えてきました。


生活習慣とは、無意識に長年時間かけてできあがるものなので、変えるには環境の変化や本人の意識や努力、工夫などが必要になります。今回の数字からも、食事・睡眠・運動の中で、もっとも改善しやすいのは食事、改善しにくいのは運動、ということが示されていました。実際、食事と比べ、運動は、運動靴や動きやすい着替え、施設や道具など、それなりの準備も必要となります。また「やる気」にスイッチが必要なことも大きなハードルの一つでもありますが、時間の捻出も大きな壁になります。

◆運動時間の捻出
生活習慣の問診には22の項目がありますが、男女の有意差が出るものとして運動習慣は特徴的です。比較的男性は会社帰りにジム通いや、「一駅歩く」ウオーキングなども取り入れやすいようですが、家事や育児など家に拘束される時間の多い女性には、会社帰りは1分1秒でも早く帰りたい人も多く、会社帰りのウオーキングや、ジム通いなどは難しく、また自宅で体操やヨガなどをしようとも、決まった時間やまとまった時間をとることが難しいものです。特に仕事と家庭の両立を担う働く女性にとって運動習慣の定着化は、ハードルの高い課題の一つです。そのような課題をコロナ禍の影響で、女性にも変化が見られました。時間の捻出ができたことと、普段からの運動不足の意識が触発し、運動を取り入れる時間が持てた人もいるようです。

全体で男性が2%、女性も1%の人が増加しています。コロナ禍の自粛により、運動の時間の捻出と、また「健康への意識の高まり」などが、運動習慣の増加につながったのではないでしょうか。

◆コロナ禍での運動習慣の変化
一方で、これまで運動をしていたのに、コロナ禍に入り運動をしなくなった人もいます。個々に理由は様々であり、感染のリスクを懸念しジム通いをやめた、通っていたスクールが閉鎖してしまった、自粛により運動時間が無くなってしまったなど、あるようです。実際に、運動習慣の変化を、「運動をしなくなった人(悪化)」、「もともと運動していた人」、「もともと運動していなかった人」、「新たに運動を始めた人(改善)」、の4つに分け、数字の変化を見てみました。この数字からいえることは、「変化なし」が約9割を占めており、運動習慣がある人はコロナ禍にも影響を受けず継続しており、時間ができたからと言って、運動習慣がない人が新たに運動習慣を容易にもてるものではないという、難しさを感じます。

◆運動と睡眠、先に必要なのはどっち?
「運動をすると寝つきがよくなる」とも言いますが、運動習慣のない人に「運動をしない理由は何ですか」と聞くと、「疲れている」「動くより休みたい」という声があり、「満足な睡眠がとれていない」という結果があります。そこで、睡眠が十分にとれていれば、新たに運動習慣を取り入れるのではないであろうか、という仮説を考えてみました。

今回、新たに運動を始めた人161人の睡眠状態を見てみますと、睡眠状態が良い人の割合は約8割でした。この数字からも、運動習慣の定着化を考えると、睡眠は大事な要素と言えるのでは、と考えられます。

逆説として、「運動する人は睡眠状態が良い」かどうかを調べる必要もありますが、運動習慣のある人が少ないため、数字として根拠が出せないところが、非常に残念でした。
また一方で、コロナ禍の不安や自粛によるストレスなどにより睡眠の質が悪くなり、睡眠で悩んでいる方も増えてきています。そのような方に「運動しましょう」「動けば眠れるようになりますよ」とは、簡単には言えないのはないでしょうか。
健康な人にとっても運動をすることはハードルが高いことです。まして睡眠状態が悪い方に運動を勧めることは、かなり厳しいことを押し付けているのかもしれません。まずは睡眠状態が回復してから、外に出て日の光を浴びること、そして少し体を動かすことから勧めていくことが、順番かと思われます。
「運動をすると寝つきがよくなる」かもしれませんが、運動の前にはまず十分な睡眠が必要なのではないでしょうか。

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