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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第75回 買い物難民の救援

1.はじめに
農林水産省HPの「食料品アクセス(買い物弱者・買い物難民等)問題ポータルサイト」では、「我が国では、高齢化や単身世帯の増加、地元小売業の廃業、既存商店街の衰退等により、過疎地域のみならず都市部においても、高齢者等を中心に食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる方(いわゆる「買い物難民」、「買い物弱者」、「買い物困難者」)が増えてきており、「食料品アクセス問題」として社会的な課題になっています」と記載されています。

このように「買い物難民」という用語は、交通の便が悪い過疎地域だけでなく、都市部でも路線バスや循環バスの廃止により増えています。

2.統計
農林水産省では、食料品アクセス問題に対する市町村の取組状況等を把握するため、平成23年度から全国1,741の市区町村を対象にアンケート調査を実施しており、平成30年度の調査結果は、平成31年3月に作成された「『食料品アクセス問題』に関する全国市町村アンケート調査結果」と題する文書により、「Ⅰ.調査結果の概要」という見出しの下に、以下のように報告されています。

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○対策の必要性と背景

  1. 回答市町村のうち、1074(84.1%)市町村が何らかの対策が必要と回答
  2. 対策を必要とする背景として、「住民の高齢化」、「地元小売業の廃業」、「中心市街地の衰退」を挙げる市町村の割合が高い傾向
  3. 対策の実施・検討ができていない理由として、「どのような対策を実施すべきかわからない」、「財政上の問題からできない」が一定数存在
  4. 市町村または民間事業者のいずれかで対策が実施されている割合は、88.7%で前年より2.5ポイント上昇

○行政による対策の実施状況

  1. 対策を必要とする市町村のうち、69.2%の市町村で何らかの対策を実施しており、前年より7.6ポイント増加
  2. 対策の内容は、中都市・小都市では「コミュニティバス・乗合タクシーの運行等に対する支援」が最も多く、大都市では「宅配、御用聞き・買い物代行サービス等に対する支援」が最も多い
  3. 対策の実施手法は、「民間事業者等への費用補助や助成等の支援」、「民間事業者への業務運営委託」が多い
  4. 対策によりカバーできている割合は「30~60%程度」と答えた市町村が41.3%と最も多い

○民間事業者による対策の実施状況

  1. 対策を必要とする市町村のうち、民間事業者が参入している市町村は66.9%
  2. 「宅配、御用聞き・買い物代行サービス等」への参入が63.5%と最も多い
  3. 「移動販売車の導入・運営」が増加傾向で、前年より4.2ポイント上昇
  4. 実施主体の民間事業者の組織は、「株式会社などの営利団体」、「生協や協同組合など」の割合が高い

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(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/eat/access_genjo.html)

3.生活バス運行
(1)草分けの生活バスよっかいち
①運行の経緯
NPO法人生活バス四日市が作成した「生活バス運行による買い物難民対策と地域活性化の取り組み」と題する文書では、「1 『生活バスよっかいち』運行の経緯」という見出しの下に、以下のように記載されています。

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(1)三重交通バス 垂坂(たるさか)線(当時)の廃止
羽津地区(注:「生活バスよっかいち」の主路線)は市の北部に位置し、人口約 17,000 人、伊勢湾のコンビナート地帯と東名阪自動車道に挟まれた丘陵に栄えた住宅地域です。この地域には、昭和 20 年代より近鉄四日市駅から放射線状に伸びる路線バスが、羽津いかるが地区を経由して垂坂地区まで運行されていました。しかし、高度経済成長とともに近郊にニュータウンが建設、新たなバス路線が近鉄四日市駅まで出来たため、バス乗客が新路線に移動しました。また、近隣にはショッピングセンターや病院などが立地し、マイカーの普及により通勤・通学など日常生活自体が市の中心部に行く必要がなくなり、垂坂線は乗客減少により赤字路線となった。
さらに、平成 12 年の規制緩和等により、バス路線の廃止が届出制で簡単に出来るようになり、平成 14 年 2 月末に廃止の通達がバス事業者(三重交通)からではなく、行政(四日市市役所)を通じて羽津地区連合自治会にありました。…(中略)…

(2)バス路線廃止から生活バス四日市の立ち上げ
羽津いかるが地区(平成 14 年当時の世帯数 540 世帯、人口 1,700 人)は、最寄り近鉄かすみがうら駅やバス停までは2~3km 離れており、公共交通の空白地帯となっていた。そのため、高齢者等が通院、買物困難者になることを危惧し、廃止されるとどんな影響があるのか、羽津いかるが地区自治会で独自の住民アンケートを実施した。その結果…(中略)…をもとに、市長に対して「バス路線存続、代替措置の実施の要望書」を提出した。
要望書では、①高齢者の交通弱者救済、②高齢者の機能低下防止と活性化、③地域の生活機能の低下防止の三点を重要課題として挙げたものの、行政からは、「適切な処置・対策方法がなく、バス路線廃止はしかたがない状況にある。」と具体的な対策の提示はなかった。
何とかしなければならないとの思いから、「バス運行、地域に活性化を!」をスローガンに、有志による住民主体で地域密着型バス運行(商店、病医院、銀行、郵便局、介護施設、市民センターなど経由)の実現に向かって、自治会を主体とした活動が開始された(この活動が、翌年 4 月に全国で初めてとなる地域住民主体の NPO 法人生活バス四日市となった)。

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(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/soukou-magazine/1402yokkaichi.pdf)

②現在の運行状況
生活バス四日市HPの「『生活バスよっかいち』の概要」と題するウェブページでは、現在の運行状況について、「運行概要」という見出しの下に、以下のように一覧表で記載されています。

運行経路 スーパーサンシ~東垂坂~いかるが~別名~四日市社会保険病院~大宮町~かすみがうら駅
運行時間 午前8時~午後6時台
運行本数・運行間隔 1日5.5往復・2時間間隔
路線距離 9.5km(2007/5/1改正により延長) 運行開始時は8.4km
停留所数 31箇所(約200~300m間隔) 停留所以外での乗降は不可
運行日 週5日間(月~金<祝日・振休も>)運転
運賃 1乗車100円。(回数券・定期券<応援券>あり)
バスの運行 三重交通四日市営業所へ運行委託。バス29人乗り1台。
利用者数 平均90~100人/日

(https://www.rosenzu.com/sbus/gaiyou.html)

(2)地域公共交通活性化法の制定
平成19年に地域公共交通活性化法(正式な題名は「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」)が制定されたのを契機に、全国各地で交通空白地帯を解消するためにコミュニティバスやデマンドバスが運行されるようになりました。その内、生活バスとしての役割を果たしているものを本稿で紹介することにします。

①栗山町デマンドバス
北海道夕張郡の栗山町では平成2年に民間バスが撤退した後、町営バスの運行を開始しましたが、人口減少や自家用車の普及に伴う利用者の減少、燃料費の高騰などに伴う運行経費の増嵩により、町営バスの運営は厳しい状況となっていました。そこで平成21年3月に「地域公共交通総合連携計画」を策定し、同年11月から平成24年7月までデマンドバスの実証実験運行を実施し、その後本格的に事業化されています。
ところで、尻内市の総務文教常任委員会一行10人が平成29年10月10日から12日にかけて、栗山町のデマンドバス運行事業について、行政視察を行いました。その概要について、平成30年2月に発行された尻内市の『議会だより』(NO.91[16頁以下])に掲載されている「総務文教常任委員会管外研修視察レポート」では、「3.まとめと考察」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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【町営バスが運行しない区域を対象に】
栗山町では、デマンドバス区域とコミュニティバス区域の2つの運行区域を設定し、交通弱者等に対する公共交通の充実化を図っている。
デマンドバス事業では、町営バスが運行しない区域を対象に2路線(日出線・滝下線)を運行しており、年間の利用者数は各路線、4,000〜5,000人程度、利用料金は1乗車つき200円で、70歳以上の高齢者と小学生は半額としている。
運行業務は、町内業者に委託しており、観光バス業者1社、タクシー業者2社による3社で、毎年、業務(路線)ごとに入札を行ない、年間1路線当り約600万円の運行経費で委託している。なお、委託料の中身は人件費、燃料費、油脂(エンジンオイル等)、被服費等で、修繕費(車検等)、消耗品(タイヤ等) については町の負担としている。
なお、運行車両は、日出線14人乗りハイエース、滝下線は58人乗りのバスにより運行を行っている。

【利用者の約8割が高齢者で概ね良好】
デマンドバス利用者の約8割が高齢者で、目的の多くが買い物、その他、通院や他市町村への中継として利用されており、利用者からの反応は概ね良好で、実証実験も含めて運行から約9年が経過し、事業自体は住民に充分根付いている。…(中略)…

【予約は30分前までで、どこでも乗車可能】
予約は運行時間の1時間前までとしているが、当該路線のみの運行としているため、実際は30分前までであれば予約を受け付けている状況にある。
なお、予約箇所から隣家への移動等は基本的に断っており、その他で予約があり通過する区間であれば、どこでも乗車可能となっている。

【時間帯の見直しと赤字の縮小】
乗車人数は年々減少傾向にあり、主に高齢者の利用が多いため、施設入所等で地域から離れた際に利用が無くなることが大きな要因の一つとなっている。
現在の稼働率は企画運行回数に対し81%程度の運行であるが、年間を通して利用の少ない時間帯の見直しや料金の値上げをせずに赤字を縮小する方策が今後の課題となっており、また、今後、民間バスの減便が決定している区間があり、高校生の通学への対応が迫られている状況となっている。

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(https://www.town.shiriuchi.hokkaido.jp/files/koho_gikai/pdf/336_50091387.pdf)

3.買い物支援事業
(1)NPO・企業・行政の共働
福岡県大野城市では、宅配・移動支援・移動販売の3類型の買い物支援事業を、NPO・企業・行政の共働により、住民ボランティアなどの力を生かして実施しています。

①宅配
大野城市役所HPの「知っていますか?買物代行『ごきげんお届け便』」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。******************************************************************************************
■ごきげんお届け便とは?
大野城市に住んでいる人で、「インターネットが使えない」「近所にスーパーがない」「遠くに買い物に出かけられない」「重たい物が持てない」など、日々の買い物に困っている皆さんを対象にしています。…(中略)…
大野城市、イオン大野城店、パートナーシップ活動支援センターの3者による共働事業です。

■注文からお届け・お支払いまでの流れ
1.電話またはファクスで注文
注文内容、配送日・時間帯の希望を伝えてください。…(中略)…
2.指定日・時間帯に商品を届けます
3.商品到着時、代金引換かWAONカードで支払ってください

■注文の締切時間と配送日・時間帯

配送時間帯 注文の締切時間
午後0時~2時 前日の午後4時まで
午後2時~4時 当日の午前10時まで
午後4時~6時 当日の午後0時まで
午後6時~8時 当日の午後2時まで

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(http://www.city.onojo.fukuoka.jp/s036/040/10525.html)

②移動支援
福岡県大野城市コミュニティセンターHPの「南コミュニティセンター」というカテ中、「南地区高齢者移動支援事業『ふれあい号』」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。

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「ふれあい号」
「ふれあい号」は、高齢化率が20%を超え、坂道が多い南地区の高齢者に「週に2~3回の買い物や通院を提供しよう」と、南地区コミュニティ運営委員会と市が共働で運行を開始しました。 利用者からは、「バス停・車内でふれあいが高まり、気楽に出かけられ、日常生活が楽しくなった」との言葉も寄せられています。
ふれあい号は10人乗りのワゴン車で、運転は地域のボランティアの方が交代で運行を行っています。

【ふれあい号について】
○南コミュニティセンターを発着場所とし1日4便運行 始発は午前9時
○利用できる人 南地区在住の65歳以上の方

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(http://onojo-com.info/minami/fureai.php)

③移動販売
同じく「南コミュニティセンター」というカテ中、「高齢者支援事業とは」と題するウェブページでは、「2.買い物支援『ふれあい市場』」という見出しの下に、以下のように記載されています。

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毎週水曜日に、南地域の各区を回り、移動販売をしています。この事業は買い物い行くことが困難な高齢者に買い物をする場を提供することを目的とするためだけではなく、近所の方とも気軽に交流できる場として、地域住民の皆様も利用されています。

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(http://onojo-com.info/minami/2017/06/post-253.php)

(2)公民連携
①春日井市
春日井市役所HPの「移動スーパーマーケット『道風くん』」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。

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平成27年4月から、市と観光コンベンション協会、事業者などが連携し、「移動スーパーマーケット道風くん」として移動販売事業を開始しました。…(中略)…
~移動スーパーマーケット道風くん~
日常のお買いものの不便を解消することを目的に、軽トラック(250から300種類の商品)で次の地域をお伺いしています。
・ナフコ号(藤山台/石尾台・東高森台)
・清水屋号(東山町(桃花園)/牛山町)

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(https://www.city.kasugai.lg.jp/shisei/machi/new_town/1008940.html)

①ナフコ号
ナフコ不二家HPの「移動スーパーマーケット道風くん」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。

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🚚みなさまのお近くまで行きます!
㊊㊍藤山台地区 ㊋㊎石尾台地区
🚚250~300品目の品ぞろえ!
専用の軽トラックに生鮮食料やお惣菜、調味料など250~300種類の品をご用意してお近くの販売場所までお伺いします。
🚚どなたでもご利用いただけます!
会員登録は必要ありません。

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(http://www.nafuco-fujiya.co.jp/saizi.html)

②清水屋号
清水家HPの「店舗紹介」というカテ中、「移動スーパーマーケット道風くん」と題するウェブページによれば、以下のように5つの営業ルートがあり、その内2ルートが月曜日と木曜日に、3ルートが火曜日と金曜日に運行しています。

ルート ネオポリス かすが台 牛山町 東山町・桃花園 欅ヶ丘
営業場所 8ヵ所 4ヵ所 6ヵ所 7か所 4か所
営業日 月曜・木曜 火曜・金曜 火曜・金曜 月曜・木曜 火曜・金曜

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(http://www.shimizuya.co.jp/shop/301/index.html)

②奈良市
奈良市が令和2年10月27日に公表した「ならコープと買い物支援事業に関する協定を締結」と題する報道発表資料では、「ならコープとの連携協定の締結について」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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  1. 名称
    奈良市とならコープによる住民の買い物支援事業に関する協定書
  1. 目的
    奈良市内で日常の買い物に困っている人の生活機能を維持するため、奈良市とならコープが協力体制を構築し、市民の買い物を支援する取り組みを実施する。
  1. ならコープによる奈良市内における移動販売の状況
    現在市内10カ所を運行しています。
現在運行中の場所
青山旧Aコープ駐車場・青山二丁目公園南側・青山八丁目公園南側・富雄団地集会所駐車場・三松ケ丘公園北側・あすならホーム今小路・福井町・あすならホーム高畑・あすならハイツ恋の窪・あすならハイツあやめ池
  1. 協定締結のメリット
    消費生活協同組合法第12条第3項第3号(組合は、組合員以外の者にその事業を利用させることができない。ただし、国又は地方公共団体の委託を受けて行う事業の場合は、この限りでない。)により、ならコープは本協定を締結することにより、組合員向けのサービスとして実施されている移動販売を、広く買い物にお困りの市民の方に利用していただけるようになります。

5.今後の展開
奈良市買い物支援ネットワークの立ち上げメンバーとして、他のネットワークメンバーと連携することによりさらなる移動販売エリアの拡大等、買い物にお困りの方への支援に取り組んでいきます。

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(https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/116725.pdf)

4.結語
市町村が地域ごとに異なる実情に応じて民間企業やNPO、地域住民等と連携・協力して買い物難民の救援に取り組むようになって来ていますが、国家レベルで縦割り行政の弊害を打破して、内閣府の下に総務省・経済産業省・農林水産省・国土交通省・厚生労働省が一丸となって対策を講じることが望まれます。

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