産業法務の視点から
1.相次ぐ品質不正事件
昨年の9月28日に日産で新車の完成検査を無資格者が実施していたことが発覚し、マスコミで大きく取り上げられました。その後、スバルでも同様の不正が行われていたことが報じられました。
翌月8日に神戸製鋼が自動車に使われるアルミニウム製品の強度などを偽って出荷したことを発表した後も、次々と新たな偽装が発覚しました。次第に品質不正が企業ぐるみで、しかも10年以上も前から行われていたことが判明しました。
また11月23日には、三菱マテリアルの子会社3社で検査データの改ざんなどの不正があったことが報じられました。更に、同月28日には、東レの子会社が製品データを改ざんする不正を1年以上も前に把握していながら、公表していなかったことが判明しました。
このように、最近は自動車製造業や金属製造業での品質不正事件が続発していますが、数年前は食品業界や飲食店業界における産地や原料の虚偽表示、異物混入等が重大な社会問題となりました。
2.品質不正の問題点
①消費者に対する裏切り
新車の完成検査に資格が必要な理由は、不合格品が市場に出回ることを防止する最後の砦であるということです。自動車は「走る凶器」と言われる程、本質的に危険な製品であり、不合格品は何らかの不具合を起こして事故を起こす危険性があります。そのような危険性を排除するために、自動車の完成検査は極めて厳格に実施しなければなりません。視点を消費者に転じると、有資格者による完成検査の合格という品質保証があることを信じて、新車を購入します。従って、無資格者による検査は、消費者の信頼を裏切ることになります。
②安全性の欠如
品質は価格との兼ね合いで高級なものから低級なものまで幅がありますが、少なくとも「通常有すべき安全性」を確保することが必要であり、さもなければ欠陥製品として製造物責任を負うことになります。
例えば、強度を規格適合と偽って出荷された金属が鉄道や自動車や航空機や船舶等の輸送手段(平たく言えば乗り物)に使用されて、振動や強風や荒波の力に耐えられず、故障が起きると大惨事が起きたり、甚大な被害が生じる危険性が高まります。
3.品質管理とは
「カイゼンベース」というサイトの「品質の定義と品質管理 ~品質管理の基礎知識~」というカテ中、「6.品質管理とは」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
■品質管理の定義とポイント
品質管理とは、「ねらいの品質を安定的に実現していくための活動全体のこと」を言います。
実務における具体的な活動としては、まずは、「お客様が求めている狙いの品質」に対して、「お客様へ納めている製品やサービスの現状」を、しっかりと現状調査を行ない、そのギャップを問題として認識します。
認識された問題に対して、課題を設定し、実行していきます。これを組織全体として継続的に行なっていくのです。
ポイントとしては、下記が挙げられます。
・現状の姿とあるべき姿、ありたい姿をしっかりと把握すること
・問題の原因や因果関係を解明すること
・真の原因やプロセスに手を打つこと
(https://www.kaizen-base.com/contents/qc-43000/#i-2)
4.基本的な考え方
「品質管理の知識」というサイトの「品質管理の考え方」というカテ中、「品質管理の基本的な考え方」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
「品質管理」は、品質管理をおこなう部署、品質管理部や品質保証部だけでおこなうのではありません。企業の全部署でおこなってゆきます。そのため、品質管理の基本的な考え方は、企業で働く全員が理解する必要があります。
「品質管理」には、次のような基本的な考え方があります。
1.品質第一
顧客は、製品やサービスの「品質を第一」に考えています。
当然、企業でも、全員が「品質を第一」とした考え方で、品質管理を推進する必要があります。
2.顧客志向
製品やサービスがお客様に満足して頂けるかどうかが非常に重要です。お客様のことを第一に考えることが大切です。…(中略)…
3.後工程もお客様
「顧客志向」を、自分の仕事に発展させたときはどうなるでしょうか。
自分の仕事の後を引きついで行く人が自分の「顧客」になります。
次の工程の人を「後工程」と呼び、「後工程」の人に喜んで頂ける仕事をすることが重要になります。つまり、「後工程もお客様」という考え方で、皆が仕事をすればよい結果に結びつきます。
4.プロセスを管理する
製品の品質だけではなく、その製品の品質が常に良いものが生み出せるように、その「プロセス」(過程、仕組み)に着目することが重要です。…(中略)…
「プロセスを管理する」ということは、設計、部品や原材料、製造工程などのプロセスや仕事のやり方に着目して管理し改善させていくことです。
5.重点志向で問題・課題に取り組む
品質管理活動をおこなう場合、問題全部に対して改善の対策を打つのは効率的ではありません。
経営資源は限られています。「優先順位」を明確にして、大きいものから、改善活動などをおこなってゆきます。「重点志向」と呼んでいます。
6.事実に基づく管理
品質管理は、「事実」を重視します。事実情報を入手し、判断して行動します。必ずデータを収集し、統計的方法を使用します。
7.管理のサイクル
「管理のサイクル」は、「PDCAのサイクル」とも呼んでいます。品質管理の「管理」は次の「PDCA」を回すことです。
計画(Plan)=P
実施(Do)=D
確認・評価(Check)=C
修正・処置・対策(Action)=A
であり、これを繰り返し回すことにより、改善してゆくことです。
8.ばらつきの管理
製品やサービスは「ばらつき」が発生します。…(中略)…
「品質管理」は、統計的手法を使って、この「ばらつき」を最小限にしてゆきます。
9.変化点管理
プロセス及びその相互関係を迅速にかつ敏感に察知して、問題の発生を予防することを「変化点管理」と呼んでいます。
10.見える化
プロセスの状態を誰が見ても理解できる状態にすることが重要です。その為には活動状況や結果を一目でわかる状態にします。
11.全員参加で取り組む
品質管理は、製造部など特定の部署や組織で実施するのでは、大きな効果は期待出来ません。
製品やサービスの品質は、企業全体の組織の一人一人の仕事で、PDCAのサイクルを回すことにより、効果は非常に大きくなります。
(http://www.sk-quality.com/idea/idea01_basic.html)
5.品質管理検定(QC検定)
日本規格協会HPの「QC検定」というカテ中、「品質管理検定(QC検定)とは」と題するウェブページでは、以下のように起債されています。
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品質管理検定(QC検定)は、品質管理に関する知識をどの程度持っているかを全国で筆記試験を行って客観的に評価を行うものです。
第1回試験は2005年に行われ、現在は年2回(9月と3月)の試験が実施されており、最近1年間(平成28年度)では、全国で約12万6千名(内、高校生は約9,000名)の方にお申込いただき、合格者は累計43万9千名を超えています。…(中略)…
対象となる方々は、主に以下のとおりです。
1級/準1級 | 品質管理部門のスタッフ、技術系部門のスタッフなど企業内において品質管理全般についての知識が要求される業務にたずさわる方々 |
2級 | QC七つ道具などを使って品質に関わる問題を解決することを自らできることが求められる方々、小集団活動などでリーダー的な役割を担っており、改善活動をリードしている方々 |
3級 | QC七つ道具などの個別の手法を理解している方々、小集団活動などでメンバーとして活動をしている方々、大学生、高専生、工業高校生など |
4級 | これから企業で働こうとする方々、人材派遣企業などに登録されている派遣社員の方々、大学生、高専生、高校生など |
(https://www.jsa.or.jp/qc/qc_qc1)
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6.国際規格
(1)ISO 9001
品質マネジメントシステムに関する国際規格としては、「ISO 9001」があります。日本品質保証機構(JQA)HPの「ISO 9001(品質)」というカテ中、「概要」と題するウェブページでは、「規格の構成」という見出しの下に、以下のように記載されています。
(https://www.jqa.jp/service_list/management/service/iso9001/)
(2)ISO取得のメリット
「ISOコンサルティング 有限会社アイムス」HPの「ISO取得のメリットとは~ISOを認証取得することでこんな効果がある」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
■作業手順が明確になる
ISOでは、作業手順を明確にすることで、誰もが同じ手順で作業できるよう作業の標準化を行います。…(中略)…
(作業手順の明確化のメリット)
・全員が同じ手順で効率よく作業できるようになるため、時間や作業工程のムダが省けるようになる。
・作業に対して確認をする習慣が出来る
・新入社員、派遣社員などが入ったときや、アルバイト、パート社員が多い、あるいは入れ替わりの激しい職場でも、短期間で他の社員と同様の作業を行えるようになる。そのための教育を行う仕組みも、会社内に構築される。
・規定書、標準書作りを通して、作業の見直しが行われ、組織の能力が上がる。
・何かトラブルが生じても、「システム」の中で何が原因かわかるので対処がスムーズになる。
・クレーム対応を含む、顧客からの問い合わせに対し素早く、正確に対処ができるようになる。
■責任と権限がハッキリする
ISOでは『○○さんの仕事』という考え方をしません。ISOの基本は『人に仕事をつける』ではなく『仕事に人をつける』です。個人ではなく組織全体を管理するために、漠然としていた業務手順・役割・責任・権限を明確にし、「個人の能力の問題」ではなく「組織として必要な力量」がはっきりします。
(責任と権限が明確になることのメリット)
・一人ひとりが「この仕事は何のためにしているのか」「その仕事のために、自分は何をすればいいのか」を自覚できるようになる。
・誰が何をしているのかがはっきりし、社内のコミュニケーションがスムーズになる。
・『どこで、誰が、何をしているのか』ということが明確になるため、「ムダなもの」と「必要ないもの」がはっきりする。保存すべき書類と、不要な書類が明確になるため保管文書の管理が容易になる。
・リーダーや上司の思いつきではなく、システムに沿って業務を行えるようになるため、トラブルが生じてもシステムとして解決しやすくなる。
・従業員は、リーダーのもとで働いているのだという自覚を持ち、全員が一丸となって「会社をよくしよう」と取り組むため、会社全体のムードもよくなる。
■PDCAを回す仕組みが作られる
ルールを作って(Plan)、ルールどおりに実施し(Do)、ルールが守られているかどうかをチェックし(Check)、ルールをさらによいものへと改善させていく(Action)というPDCAの仕組みができあがります。
ルールがなければそれを定め、ルールが定まれば、その通りにすること。ルールはあっても守られていない、あるいはルールどおりにやらなくてもうまくいくからと、誰もルールを守っていないという会社もあります。トラブルが生じた場合、『誰かのせい』や『たまたま』ではなく、『ルール』に問題がある、というのがISOの考え方です。まずは『P』『D』『C』を徹底させ、会社のシステムを作っていきましょう。
その上で、ルールどおり行うことで不都合がないか、もっとよいルールはないかを、継続的に確認し、改善させていきます。
長期的な経営計画に基づいてマネジメントシステムを構築し、内部監査や第三者による審査等を行うことで、継続的に改善を行う企業風土が醸成されます。
(http://www.aims.co.jp/kiso/merit.htm)
7.結語
企業不祥事が起きるたびに「氷山の一角」という言葉が飛び交いますが、最近は様々な業界で品質不正が相次いで発覚しており、品質管理を疎かにする社会的風潮を反映しているように思われます。数年前から不正が行われていたのに、何らトラブルが発生しなかったことが、マニュアル通りに品質管理をしなくても良いという企業風土を醸成した節も見られます。たまたま事故が起きなかったから良かったのであって、品質管理のマニュアルは守らなければなりません.もし本当に守らなくても良いのであれば、守らなくてはいけない内容に改めるべきです。いずれにしても品質管理の重要性という観点から、産官学が連携して品質管理の目的と方法に関する啓蒙活動を行うことが望まれます。