第15回 「参考にしたい、トヨタ自動車の初動対応 」
6月18日、“役員、麻薬密輸容疑で逮捕”に揺れたトヨタ自動車。個人の問題とはいえ、当人は今春広報トップに迎えられた米国籍の初の女性役員。グローバル展開する同社の対外的な顔として期待され企業イメージに与える影響は大きい。
逮捕の連絡が入った当初、メディアの問い合わせに「状況が分からない」「記者会見の場所も時間も決まっていない。開くのかも未定」など広報担当者も困惑の態だったとか。逮捕事実の確認のコメントが出るまでに4時間かかったという。
役員逮捕といえば、筆者にも苦い思い出がある。2002年11月に専務らが逮捕された日本信販商法違反事件だ。トヨタと異なり組織の問題。関係者が1カ月前から当局の事情聴取を受けていたので、広報は①警察発表があった時、②事前にメディアに漏れた時、の2通りで準備。
先ず“xデー”まで早ければ一週間と想定。緊急会見のシナリオやコメント案作成、Q&Aの用意、メディアへの連絡網チェック等やるべきことは多い。頭で分かっていても実戦となると勝手が違う。結果的には時間的余裕もあり、広報としては何とか役割を全う、事なきを得た。
一方、トヨタの場合は突然の出来事。まして広報司令塔の逮捕。社内の混乱は想像に難くない。緊急時に初動対応を間違えると挽回が難しいのは危機管理広報の常識。対応が注目されたが危機感の表れか、その後のスピード感はさすが。
何といっても、逮捕翌日に開かれたトップの謝罪会見。様々な憶測が飛びかねないなか、「私自身が説明することが大切」との強い意思表示は情報の独り歩きを制するに十分。また、発言も前日発表された会社声明の枠を超えない慎重さ。イメージの悪化に先手を打った格好だ。
こんな時気をつけなければならないのが広告出稿。逮捕や会見の模様を伝える記事下に自動車の広告があったら目も当てられない。トヨタには杞憂だろうが、広報としては忘れてならないポイント。
その後本人は役員を辞め、不起訴に。 早い収束にブランドはさぞホッとかも。
執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。
広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年
経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。
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