アフターコロナにおける危機時の記者会見について私が考え込んだきっかけは、持続化給付金でした。この事業を受託した一般社団法人サービスデザイン推進協議会と電通が疑惑の渦中に入り、それを受けて6月8日に記者会見を行いました。
疑惑の渦中でもマスク記者会見はありか
協議会から電通への委託が97%でトンネル会社のように見えたこと、経産省職員が協議会の設立申請書を作成した痕跡があることなどから疑惑が浮上しました。
1時間の予定が2時間になりましたが、全体的に物足りない内容でした。理由は2つあると思いました。スポークスパーソン4名の表情が全くわからなかったこと、そして、記者からの質問に深堀がなかったこと。
スポークスパーソンは一度もマスクを外すことなく、目だけで表情も人相も全くわからないままでした。感染リスクがあるから、という理由になるのでしょうが、記者席との距離が2メートル以上あったことを考えれば、最初だけでも一度くらいはマスクを外すべきではなかったか思います。これが普段から馴染みのある政治家やタレントなら元の顔を知っていますので、マスクも致し方ない、と諦めはつきますが、見たことのない人がマスクをしているのでは、疑惑が増すばかり。無理してリアルでの記者会見ではなく、オンライン記者会見開催できちんと顔を見せて説明する選択もあったではないでしょうか。もっとも、ネットで顔がさらされるのは誰もが回避したい。守る側からすると、リアルでマスクをしたい気持ちはわかります。悩ましい部分ではあります。
2つ目の質問についてです。記者からの「不明点は調査するのか」に対して、「はい、調査します」、で終わっているのが典型的です。国民の税金ですから、「いつまでにどう調査して、どのような形で発表するのか」まで聞く必要があったといえます。また、持続化給付金申請サイトは、大文字のメールアドレスを受け付けていないという低いユーザーインターフェースです。このような点についての質問がありませんでした。多様な視点での質問がなされていません。国民視点からすると不満が残る内容でした。こういった問題を解決するためにもオンライン記者会見で多様な質問を受け付ける形式が今後求められる可能性があります。
記者会見を仕切る私達のような立場のコンサルタントは、今後はオンライン記者会見の要望が高まることを予測し、選択肢として考えていく必要があるでしょう。
公表データだけで告発される時代
記者会見そのものではありませんが、もう一つこの件で恐れおののいたことを記します。私が最初にこの問題を知ったのは、6月に入ってからの日経新聞でした。さらに詳しく知りたいと考え検索をかけたところ、「東京蒸留所 蒸留日誌」で5月16日に詳細がありました。理路整然とした説明であり、これが端緒になって報道が広がった可能性があると感じました。最も驚いたのは、内部告発ではなく、ネットの公開情報だけで疑惑を追及していた点でした。もはや内部告発すら必要がないのかもしれない。疑問をもったことを公開情報で調査することで大きなインパクトをもたらす時代。何について疑問をもつのか、何を考えるのか。そこを端緒に調べることができてしまう。それが記者ではなく、個人であってもできてしまう。こういった告発が増えることをリスクとして予測しなければならない時代になったということです。
リスクマネジメント・ジャーナル対談「アフターコロナの記者会見」でも解説しています。
https://www.youtube.com/watch?v=b3Vx4oUuHp4&t=25s
<参考サイト>
東京蒸留所 蒸留日誌
https://note.com/tokyodistillery/n/n480682607fef
サービスデザイン推進協議会 記者会見 THE PAGE
https://www.youtube.com/watch?v=6PcSCEax4Wo