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第57回 アナログ再考

産業法務の視点から

平川 博氏

1.アナログレコード復活

アナログ復活と言えば、CD(コンパクトディスク)に駆逐されたレコード盤を想起する人が多いでしょう。CDが普及した理由として、サイズが文字通りコンパクトで、取り扱いや操作が簡単な上、ノイズが少ないこと等が挙げられます。その反面、音のサンプリングという処理をするため、再生音がスカスカに聞こえるという欠点があることから、アナログ志向のアーチストが吹き込んだレコード盤が発売されると、重厚な再生音とファッション性が若者に受けました。そのお陰で再生産が始まったレコードプレーヤーを購入して、お蔵入りしていたレコード盤を取り出して聴く中高層が増えています。

そもそも生演奏の音(原音)はアナログなので、音の波形をそのまま溝に記録するレコ―ド盤の再生音は原音に近い自然な感じがするのに対して、音のサンプリング処理を施すCDの再生音は人工的な感じがすると言って良いでしょう。

ところが、最近はデジタル録音技術が高度化して、原音忠実再生という機能が高まり、アナログと優劣がつけがたいレベルに達しました。そして、アナログとデジタルは対立から融合へ向かっているようです。因みに、ライターの川瀬拓郎氏が取材・執筆した「アナログとデジタルを融合するハイレゾ対応レコードプレーヤー」【ARBAN[2018.06.26配信]】と絵題する記事では、以下のように記載されています。


アナログレコード再評価の波に乗って、昨年の発売以来コンスタントに売れ続けているレコードプレーヤーがソニーのPS-HX500である。本機最大の特徴は、高品位なアナログレコード再生と、その音をDSD 5.6MHzなどのハイレゾ(注1)フォーマットでPCに録音・保存ができること。近年、DSD音源の配信も活発化するなか、所有のアナログ盤をハイレゾ化できるのは大きな魅力だ。

注1:ハイレゾリューションオーディオの略。CDのサンプリング周波数または、量子化ビット数を超えて、音の解像度や情報量を高めたデジタルオーディオのこと。

…(中略)…

アナログレコードの持つポテンシャルを最大限に引き出し、ハイレゾ音源として録音することができるPS-HX500は、まさにアナログとデジタルが融合していく現在を象徴している一台と言えるだろう。単純にアナログとデジタルの優位性を競うのではなく、それぞれの録音フォーマットにおける長所を個性として捉えて楽しむ。こうしたオーディオの付き合い方こそが、本当の豊かさなのではないだろうか。


(https://www.arban-mag.com/article/19058)

ところで、通信販売やネット販売の広告を見ると、レコード・CD・カセットテープ・ラジオ(AM/FM)を聴くことができて、しかもSDカードやUSBメモリーに直接書き込んでデジタル化することもできるオールインワンタイプの多機能プレイヤーが出回っています。

また、レコード盤と共にお蔵入りしていたステレオのアナログスピーカーと接続して、パソコンやスマホでダウンロードした音楽を再生する“The Damp” という装置も市販されています。但し、国内はモノラルだけで、ステレオはロンドンから直輸入とのことです。

(https://blog.goo.ne.jp/oldpine0964/e/1c22fa268e697ff9cddca15b4729255参照)

2.アナログカメラ復活

(1)インスタントカメラ

アナログカメラの短所は、現像とプリントという2段階の作業に時間がかかることでした。それを克服したのがポラロイドカメラで、撮影直後から自動的にフィルムの現像が始まり、1~2分で写真が出て来ることから、インスタントカメラと呼ばれることもありました。

やがてデジタルカメラの登場により、ポラロイドカメラを含めて、フィルムを使うアナログカメラは衰退の一途を辿ることになりました。

ところが、「ギアード|ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト」で3年前に配信された「ポラロイド式カメラ、デジタル機能も搭載して生まれ変わる」(2016年5月28日11時50分配信)と題する記事では、「ポラロイド式カメラがデジタル機能も搭載してよみがえった。カメラにもアナログブーム到来か?」という見出しの下に、以下のように記載されています。


「スマホで撮影」時代の反動か、チェキや写ルンですといったアナログな撮影ガジェットが再ブームの兆しを見せていますが、このプロダクトもその盛り上がりを後押しするかもしれません。

IMPOSSIBLE は、2008年に閉鎖したポラロイド社最後のフィルム工場を復活させ、インスタントフィルムの再生産を実現したメーカー。そうしてポラロイドカメラ終焉の危機を回避した彼らがついに送りだす初のカメラがこの「The I-1」です。

もちろんインスタントカメラであり、ルックスからしてポラロイドを継承しようとするメーカーの姿勢が見て取れます。オートフォーカス機能を備え、12個のLEDを配した特徴的なリング状のフラッシュが、広範囲/近距離どちらの撮影にもスムーズに対応。アナログカメラに不慣れな向きでも簡単に扱うことができるようです。

また、このリング状のフラッシュは、フィルムの枚数やバッテリーの使用状況を示すインジケーターとしても機能します。

こうして簡単に撮影できるアナログカメラに仕上げられながら、デジタルな機能性も搭載しているところに The I-1 のおもしろさがあります。


(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/poraloid-1.php)

また昨年の1月5日に「360.life」という商品評価サイトで掲示された「ライカ、ポラロイド、チェキを徹底比較! インスタントカメラおすすめランキングBEST8」と題する記事の冒頭では、「アナログ回帰のインスタントカメラが熱い!」という見出しの下に、

「画一的な写真ではなく、ちょっと変わったカワイイもの。その答えをアナログに求める動きがネットを中心に顕在化しています。要するに『インスタントカメラで撮影した写真をスマホで撮り、SNSにアップする』という行動です」と記載されています。

(https://the360.life/U1301.doit?id=2299)

(2)写ルンです

ライターの重野マコト氏が執筆した「スマホ全盛期に『写ルンです』人気復活 『iPhoneより軽い』が魅力?」(『AERA』2016年4月25日号掲載[2016.4.20 16:00配信])と題する記事では、以下のように記載されています。


今年発売30周年を迎えるレンズ付きフィルム「写ルンです」が再び人気だ。…(中略)…

スマホに慣れた若い世代は知らないかもしれないが、「写ルンです」は旅行に欠かせない品として一世を風靡した。1986年に発売された富士フイルム製のレンズ付きフィルムで、それまでのカメラで必要だったフィルムの交換作業を不要とし、簡単に撮影できるため爆発的なヒットとなった。しかし、デジカメやスマホのカメラ機能の普及で、レンズ付きフィルムの国内出荷は97年の8960万本をピークに、2012年には430万本まで落ち込んでいた。

それが最近、再び注目を集めている。きっかけの一つは、若手写真家の奥山由之さん(25)が「写ルンです」での撮影を公言したこと。フィルムの魅力にハマる同世代の若者も増えた。

アナログの「写ルンです」ブームの追い風をつくるのに、SNSも一役買っている。実際ツイッターやインスタグラムなどでは、「#写ルンです」のタグ付けをして投稿するユーザーも多い。インスタグラムには4月5日の時点で、このタグ付けがされた写真が約3万2千件も投稿されている。フィルム撮影した写真をデータ化し、インスタグラムに掲載。その質感の違いが「いい感じ」となって、写真好きの若者たちに広がっていったようだ。

写真家の山本春花さん(29)は魅力についてこう語る。

「一番は軽さですね。ポケットにスッと入って、持ち運びに便利なんです。ただ押すだけという操作性のシンプルさもいい。フィルム交換もなく、買ってすぐ撮影できるのも魅力ですね」


(https://dot.asahi.com/aera/2016041900208.html?page=1)

3.アナログコンピューター再登場

(1)多項式時間問題

「fabcross for エンジニア」というエンジニアのためのキャリア応援マガジンの「0と1では解けない問題がある――アナログコンピューターが再び注目を集める理由とは」と題する記事では、以下のように記載されています。


米ノートルダム大学の研究チームは、既存のデジタルコンピューターが苦手とする多変数問題について、アナログ「ソルバー」を利用することで、より最良の解を速く導くことができると発表した。研究成果は2018年11月19日の『Nature Communications』に掲載されている。

アナログコンピューターは20世紀初頭から中頃まで、潮位予測器や弾道計算機をはじめ、NASAの初期ロケットの打ち上げにも使われてきた。始めは歯車や真空管を、後にトランジスターを利用し、電圧などの測定値を計算結果としていた。…(中略)…ただ、アナログコンピューターは変数の再設定が難しく、用途が限定されがちで、ノイズの問題もあることから、量産トランジスターや集積回路の台頭に伴い、より柔軟性のあるデジタルコンピューターに取って代わられた。

デジタルコンピューターの大きな特徴は、0と1というバイナリ(二進数)に依存していることで、プログラムがシンプルにできる一方、「NP(Non-deterministic Polynomial time、非決定性多項式時間)困難問題」を解くことができないという欠点がある。その例が「巡回セールスマン問題」だ。セールスマンがリストにある全ての都市を巡回して最初の都市に戻ってくるルートのうち、最も効率的なルートを求める問題だ。都市の数が増えると、指数関数的に難しくなる。…(中略)…

その解法のひとつとして、再びアナログコンピューティングに注目が集まっている。研究チームは、常微分方程式(ODE)に基づく連続時間決定論的システム(CTDS)をアナログソルバーとして、様々なNP困難問題の検証をした。統計的分析を利用するこのソルバーは、デジタル処理よりも速く最適解を予測できる可能性があるとしている。今回はデジタルコンピューター上で数値的な実装を行ったが、今後はさらに速く効率的に動作できるアナログ回路に直接実装したいと考えている。

NP困難問題を解くことができれば、スケジューリング、タンパク質の折り畳み問題、生物情報学、医療用画像処理など、多変数を必要とする問題においてより良い解を得られる可能性がある。


(https://engineer.fabcross.jp/archeive/181221_analog-computers.html)

(2)人工知能

①日本大学理工学部

「電波プロダクトニュース」というサイトの「最新トレンド情報コーナー」で掲示されている「日大独自 アナログ回路素子のAI研究の現場」(2017年3月16日配信)と題する記事では、以下のように記載されています。


日本大学理工学部は、現在主流のデジタルコンピュータの応用ではなく、アナログ素子を集積した回路で人工知能(AI)を実現する研究を行っている。

研究の中心となっているのは、佐伯勝敏同大電子工学科教授。…(中略)…同教授の研究では、アナログ素子で人間などの脳の基本構成要素であるニューロンやシナプスの機能を実現していくのだが、デジタル応用型と比べて以下のような特徴があるという。

【デジタル型では考えられない利点が多々ある】

まず、回路の高速性が必要ない。デジタル応用型では、動作速度がナノオーダーであるのに対し、アナログ型では、生体のニューロン同様、非同期で並列動作を実現でき、ミリオーダーで事足りる。また、構成要素が少ないので、無理な回路小型化が不要で、逆に小型に作れば、処理速度を簡単に向上できるという第二の特徴が出てくる。

第三に通常の電子回路やデジタル回路では、回路の正常な働きを阻害するため、徹底的に排除されるノイズを利用した動作も可能。

第四に待機状態では原理的にほとんど電力を消費せず、動作時も、回路が高速である必要がないので、低消費電力素子が利用でき、省エネである。

アナログ素子の「ニューロモーヒックデバイス」で構成された人工知能のこのような特徴は、生体ニューロンと同様にパルスを用い、主に外部からのデータの記憶・処理を、パルスの時間差を用いて行うタイムドメインによっている。そのため、データが時間差のパルスで表現されることにより、絶対的な回路高速性をそれほど必要としない。

【アナログ型AIのブレークスルーポイント】
一方、このような時間差を利用したデータ信号処理の場合、外部データ入力をどのように行うのかが、大きな課題となる。当然、通常良く使われるデジタル信号用は使えない。このため、新たな入力デバイス(センサー)の開発が必須となる。この点がアナログ型人工知能技術のブレークスルーポイントである。…(中略)…

佐伯教授は「我々の脳の構造に近いアナログ型の人工知能開発は、人間の五感に相当する入力部センサーを含めた開発にかかっている。センサー開発には、人間の知覚・生理に関する研究が不可欠だ。幸い当大には医学部で神経生理学などの研究、隣接地にある薬学部では生化学の研究も行われていて、研究環境としては整っている」と同大内での学部を超えた共同研究の成果を強調した。


(https://www.dempa.co.jp/productnews/trend/h170316/h0316.html)

②NEDO

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2018年6月18日に発表した「世界最高水準の低消費電力化を実現するAI半導体向け『脳型情報処理回路』を開発と題するニュースリリースでは、「2.今回の成果」「【1】アナログ抵抗変化素子(RAND)を用いた低消費電力脳型情報処理AI回路の開発」という見出しの下に、以下のように記載されています。


従来のAI半導体で用いられているデータ保存用メモリーと積和演算器が必要な方式に代わり、RANDによりデータ保存機能と積和演算機能を一体化したAI半導体向け脳型情報処理回路の開発に成功し、低消費電力動作を実証しました。RANDの積層構造(図2)は、すでに製品化されている不揮発性抵抗変化メモリー(Resistive Random Access Memory: ReRAM)を発展させ実用化を目指す構造にしており、パナソニックセミコンダクターソリューションズ㈱が保有するReRAM製造プロセスを応用して、開発しました。

図2 アナログ抵抗変化素子を用いたパーセプトロン回路

脳型情報処理回路では多階調の学習データ保存が動作の鍵を握りますが、線幅180ナノメートルプロセスで開発したRAND(図3・左)では、30マイクロアンペアのダイナミックレンジで、ほぼ全てのデータが、目標値の±2マイクロアンペアの範囲内に設定できるという良好な制御性を示しました。この結果、RANDによる脳型情報処理回路の文字認識率は90%を超え、実用化への道筋が確立されました。さらに線幅40ナノメートルプロセスで開発したRANDのテストチップ(図3・右)では、セル電流の低電流化に成功し、66.5 TOPS/W(Tera Operations per Second per Watt)という世界最高水準の低消費電力動作を確認しました。これは、AI半導体の「エッジ学習・推論兼用」という新カテゴリを築くのに十分な値です。

図3 アナログ抵抗変化素子を用いたAI半導体向けの脳型情報処理回路

[左]180nmプロセスの脳型情報処理回路
[右]40nmプロセスの消費電力評価テストチップ


(https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100977.html)

4.結語

万物は流転するというヘラクレイトスの名言を借りるまでもないでしょうが、この世に存在する事物はすべて連続的に変化します。この連続的な変化をありのままに記録して再現するのであれば、情報を連続的に取り扱うアナログ方式が適しています。それに対して、連続的な変化を細断して数値化するデジタル表示は、一目瞭然であることがメリットであり、特にコンピューターはオン・オフという電氣のスイッチを0と1に対応させたデジタル型が隆盛を極めています。ところが、近年は古典的な論理思考に馴染まない難問の解決方法として、アナログ型コンピューターの研究が脚光を浴びています。これ契機に、デジタル一辺倒の社会から脱却して、アナログを再考することが望まれます。

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