RMCA-リスクマネジメントの専門家による寄稿、セミナーや研修・講座などの情報

  1. あの記者会見はこう見えた 石川慶子
  2. 524 view

第41回 あいちトリエンナーレ、問題の根本原因は

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」中止の問題が断続的に報道されています。さまざまな関係者が発言をするため、問題がわかりにくくなり、さらに報道は加速していきます。この問題をリスクマネジメントと危機管理の観点から考えてみます。

ダメージを深めたのは責任転嫁発言

私がこの問題に関心を持ったのは、J-castから危機管理の観点から解説を依頼されたことから。まずは、危機管理の観点から考えます。危機管理はダメージを最小限にするマネジメントです。今回報道が加速化していった原因としては、いずれも責任者の立場にある人たちがお互いに批判をしていることにあります。

下記、時系列に整理してみました。主な登場人物は、大村愛知県知事、河村名古屋市長、津田芸術監督、そして「実行委員会」。最初に、あいちトリエンナーレ実行委員会会長代行である河村市長が大村知事に抗議、実行委員会会長の大村知事は反論し、内容の責任は芸術監督にある、と批判。津田芸術監督は、リスクがあると意見をしたが実行委員会が決めた、と発言。実行委員会は複数名から構成されるため、さらに責任があいまいになりました。責任転嫁の発言がダメ―ジを深めているのです。この責任転嫁の言葉は、危機発生時に案外多いといえます。典型的なのが「〇〇がこう言ったから」「聞いてない」といった言葉。これらも逃げている印象を与えてしまいます。

<時系列の整理>

8月1日 企画展「表現の不自由展・その後」で、慰安婦問題、天皇と戦争、政権批判のテーマ
8月2日 事務局に批判が殺到、県職員への脅迫、恫喝が寄せられた。
河村名古屋市長(あいちトリエンナーレ実行委員会会長代行)は、企画展の内容は、日本国民の心を踏みにじる」として、大村愛知県知事(あいちトリエンナーレ実行委員会会長)に抗議文
8月3日 実行委員会(愛知県)は、企画展を中止
8月5日 大村愛知県知事が記者会見、表現の自由がある、検閲だ、として河村市長に反論。
8月9日 あいちトリエンナーレのあり方検証委員会設置
8月13日 大村知事 定例記者会見にて、「内容の全責任は津田芸術監督にある」と発言
8月15日 当イベントの芸術監督津田大介氏はツイッター、現場のリスクを減らす判断よりも実行委員会の判断を尊重した、として謝罪

芸術監督にジャーナリスト?

そもそもなんで津田氏が「芸術監督」なのかが気になってさらに調べました。あいちトリエンナーレ」とは何か。

「あいちトリエンナーレ」は、2010年から愛知県内で3年に1回開催されている国際芸術祭。実行委員会は、愛知県知事を会長とし、名古屋市長は会長代行、芸術監督は毎回学者などの有識者で選考されます。1回目の芸術監督は、国立国際美術館館長で詩人、美術評論家の建畠晢氏。2回目は、建築史家で建築評論家の五十嵐太郎氏。3回目は、写真家・写真評論家の港千尋氏です。いずれも芸術分野の方々が芸術監督になっています。そこにぽこっと4回目に表れたのが、ジャーナリストの津田大介氏。

とたんに違和感が広がりました。なぜならジャーナリストの社会的ミッションは権力の監視、チェック、社会問題を浮き彫りにすることだからです。芸術とは何か、といったことを突き詰める仕事ではありません。今回の根本的な問題、間違いはここにあるとの思いに至りました。話題性だけを重視し、著名な津田さんを起用すること、そのことが目的になってしまったのではないでしょうか。確かに話題にはなりましたが、芸術祭が政治問題化、対立を生みました。心揺さぶる感動の場ではなくなってしまったのです。

戦争反対を表現したピカソのゲルニカといった政治批判の芸術作品は取り上げる価値はありますが、それはあくまでも「芸術性」が高いことが第一条件です。そこには普遍的な表現力があるから、政治信条に関係なく人々の心を揺さぶります。「芸術とは何か」その本質を考え、それを理解した芸術監督が選抜されるようなシステムに改めることが再発防止につながるのではないでしょうか。

【参考サイト】
あいちトリエンナーレ ウィキペディア

あいちトリエンナーレ実行委員会メンバー

津田大介 ウィキペディア

大村愛知県知事 8月5日記者会見全文(発表と質疑応答)

ハフィントンポスト 8月16日 津田氏の謝罪について報道

あの記者会見はこう見えた 石川慶子の最近記事

  1. 第60回 トップ失言で五輪組織委員会が迷走 教訓はトップメディアトレーニング

  2. 第59回 ユニクロ決算説明会 トップ演出はどこが失敗だったのか

  3. 第58回 安倍元総理「サクラ」問題の謝罪会見

  4. 第57回 新閣僚らの記者会見におけるボディランゲージ力を徹底批評

  5. 第56回 危機を広報のチャンスに変えるには~日本学術会議問題から考える

最近の記事

2024年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
PAGE TOP