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  1. あの記者会見はこう見えた 石川慶子
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第39回 パタハラ問題から考える、危機発生時のコメント力

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

「パタハラ」という言葉、ご存知でしょうか。私は6月の各社報道で初めて知りました。パタニティ・ハラスメントの略で、パタニティ=父性の意味。カネカの炎上やアシックス社員の提訴で社会的ポジションを得たと言えそうです。今の時代、社員の書き込みや提訴は事前予防が難しいでしょう。予測はできるわけですから、発生時に企業イメージを悪くしないための危機管理広報力はますます重要になってきました。本件に絡み、日経と共同通信から取材を受けましたが、私のコメントは一部ですので、本コラムで取り上げることにしました。

冷たく見えるから印象が悪化する

2019年6月6日、株式会社カネカのホームページに見解書が大きく掲載されました。育休明けの男性社員に転勤を命じたことに違法性はない、という内容でした。今回はこの見解書に批判が上がりました。6月6日にカネカのトップページに下記全文が掲載されましたが、現在はウェブサイトから削除されてしまったので下記に再掲載します。

簡単に振り返ると、6月1日に元社員の妻がツイッターに、夫が育休取得後に転勤を免じられ、有給休暇も取れなかったことを告発、瞬く間に共感の和が広がり、日経ビジネスが取り上げることでさらに注目され、6月6日の会社HPでの見解書掲載に至りました。その後も学生イベントへの不参加、株主総会での不満の声などの報道が続きました。

私への取材依頼は、6月11日が最初でした。記者からの質問ポイントは、事実関係よりも「企業の見解文をどう思うか」つまり、「企業の対応力」。法的に問題ないと言い切る対応は危機管理の観点からどう言えるのか、専門的観点からどう分析したいいのかを明確にしたい、ということでした。

私が一番驚いたのは、見解書の置き方です。会社サイトのトップページに堂々と全文が掲載されていました。通常はリンクの入口なのですが、いきなり全文なのでそれだけでも強い意思表示となりました。また、この見解書を読んで最初の出だしにも驚きました。「問題ない」とする結論だったからです。内容も企業姿勢が問われている時に法的問題を持ち出して「問題ない」と言い切ってしまう態度が冷たく見えてしまうのです。たとえ法的に問題なかったとしても、元社員とトラブルになっていたとしても、今いる社員や就活生へのメッセージを意識するべきでした。置き方、出だし、言葉の選び方に工夫があった方がよかったといえます。

カネカ会社サイト

当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みに関し、当社の考えを申し上げます。

  1. 6月2日に弁護士を含めた調査委員会を立ち上げて調査して参りました。6月3日には社員に向けて、社長からのメッセージを発信致しました。更に、6月5日に、社内監査役及び社外監査役が調査委員会からの報告を受け、事実関係の再調査を行い、当社の対応に問題は無いことを確認致しました。
  2. 元社員のご家族は、転勤の内示が育児休業休職(以下、育休とします)取得に対する見せしめである、とされていますが、転勤の内示は、育休に対する見せしめではありません。また、元社員から5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出され、そのとおり退職されております。当社が退職を強制したり、退職日を指定したという事実は一切ございません。
  3. 当社においては、会社全体の人員とそれぞれの社員のなすべき仕事の観点から転勤制度を運用しています。 育児や介護などの家庭の事情を抱えているということでは社員の多くがあてはまりますので、育休をとった社員だけを特別扱いすることはできません。したがって、結果的に転勤の内示が育休明けになることもあり、このこと自体が問題であるとは認識しておりません。
  4. 社員の転勤は、日常的コミュニケーション等を通じて上司が把握している社員の事情にも配慮しますが、最終的には事業上の要請に基づいて決定されます。 手続きとしては、ルール上、内示から発令まで最低1週間が必要です。発令から着任までの期間は、一般的には1~2週間程度です。転勤休暇や単身赴任の場合の帰宅旅費の支給といった制度に加え、社員の家庭的事情等に応じて、着任の前後は、出張を柔軟に認めて転勤前の自宅に帰って対応することを容易にするなどの配慮をしております。
  5. 本件では、育休前に、元社員の勤務状況に照らし異動させることが必要であると判断しておりましたが、本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました。 なお、本件での内示から発令までの期間は4月23日から5月16日までの3週間であり、通常よりも長いものでした。 また、着任日を延ばして欲しいとの希望がありましたが、元社員の勤務状況に照らし希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断して希望は受け入れませんでした。 着任後に出張を認めるなど柔軟に対応しようと元社員の上司は考えていましたが、連休明けの5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出されたため、この後は、転勤についてはやり取りがなされませんでした。このため元社員は転勤に関しての種々の配慮について誤解したままとなってしまったものと思います。

元社員の転勤及び退職に関して、当社の対応は適切であったと考えます。当社は、今後とも、従前と変わらず、会社の要請と社員の事情を考慮して社員のワークライフバランスを実現して参ります。

法廷戦略とメディア戦略は分ける

では、どうしたらよかったのでしょうか。企業機密なのでここで詳しくは書きませんが、ヒントとしては、言いきらないこと。「法的には問題ありませんが、・・・・・」と続けていれば、印象は相当異なったでしょう。また、これまで丁寧に対応してきたのであれば、具体的数字を用いて努力した姿勢を説明していれば、外部の人達はより冷静に見ることができるでしょう。

法廷では違法性を徹底的に争えばいいでしょう。しかし、世論相手の場合には「感情」「印象」を重視し、企業のイメージダウンを最小限にするダメージコントロールの観点が必要です。私は以前、いきなり元社員がマタハラで企業を告発する記者会見をした案件を対応したことがあります。こちらの会社、記者会見をしたにもかかわらず、ほとんど報道されず収束していきました。

企業対一社員では、どうしても企業側が悪く見えてしまいます。事実をそのまま伝えるのではなく、表現を工夫するという発想を持ってみましょう。法務部や弁護士が出してきた言葉を広報的観点から、ステークホルダーを意識した表現に変えることで印象悪化のダメージを最小限にし、信頼回復の一歩を踏み出すことができるからです。

NGワードについて詳しくはこちら。
https://diamond.jp/articles/-/5468

【参考サイト】
ヤフー カネカ炎上騒動で考える 弁護士的対応が燃料投下になる理由
https://news.yahoo.co.jp/byline/tokurikimotohiko/20190607-00129136/

日経新聞 パタハラ炎上、家庭への配慮欠く
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46027370S9A610C1CC1000/

J-cast、カネカ、学生向けイベント不参加
https://www.j-cast.com/2019/06/06359445.html?p=all

ハフポス、アシックス社員がパタハラで同社を提訴
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d15cdf5e4b07f6ca57b52fd

 

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