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第20回不倫報道と国民の知る権利

過去のコラムを振り返ってみたら、肝心かなめのベッキー不倫騒動が抜けていました。だいぶ時間も経ちましたが、相次ぐ一連の不倫報道の走りともいえますし、私もさまざまなことを考えさせられましたので、トレンドはずれますが、ずっと考えてきたことをまとめておきたいと思います。

ベッキーは何が批判されたのか

昨年は1月から9月くらいまで、10人以上の報道関係者からベッキーの会見やメディア対応分析を依頼されました。その質問を追いかけるだけでも流れが見えてきます。1月の時点では「ベッキーは何が批判されたのですか、どこが悪かったのですか、どうしたらよかったのですか」といった質問でしたが、夏頃になると「ベッキーは嘘をついたからですよね」という質問というか確認、断定、押し売りになってきました。私のコメントも「ファンキー加藤さんは潔く認めたのに、ベッキーは嘘をついた」と報道される始末。「私はそんなこと言ってないんだが」と不本意に思いつつ、「まあ、テレビの報道は誰も影響受けないでしょう」と思いきや、今に至っては、不倫をしたら素直に認めて謝罪をするべきだ、といった世論が形成されており、うそをつくな、といった声が飛び交います。

報道機関の使命は、国民の知る権利に奉仕すること、ですが、果たして、不倫は国民の知る権利に入るものなのでしょうか。

2016年8月に私のセミナーで「タレントの不利について国民には知る権利がある」と回答した方はゼロでした。では、なぜ「嘘をついた」と言って批判されるのでしょうか。ここでも深く考え込んでしまいました。

私はずっとこのことに違和感と持ち続けました。もちろん、分析依頼された際にも「そもそも不倫は知る権利なんてないでしょう。ベッキーが批判されたのは、その後のラインでうかつなやりとりをしたことではないですか。その行為が信頼を裏切る行為だったわけで。清純なイメージを壊したというブランド毀損の側面もありますね。視聴者がベッキーを出すなと言ってくるのは、テレビを見ている方が主婦だからではないでしょうか?自分の夫が取られたというイメージと重なるのかもしれません」

ファンには、知る権利があるかも

その後も仲間と議論を続けていきました。その結果、タレントのファンには知る権利があるのではないかという考えに至りました。なぜなら、タレントの場合には、普段から「つきあっています」「結婚します」「子供ができました」とプライバシーを切り売りしているからです。つまり、プライバシーが重要なコンテンツになっている。ということは、おめでたい情報だけでなく、そうではない情報もファンは知ることによって、それでもファンになり続けるかどうかを決める権利がある、ともいえます。不倫についても追及されてしまうことも頷けます。

ファンと株主を重ねて考えるとわかりやすい。株主はその会社の成長性やイメージの良さを気に入って投資をするわけですが、イメージダウンになることが発生すれば株の価値が下がるので手放す行為に至ります。ですから、その会社のリスク情報は株主には開示しなければならないわけです。ファンも一種の投資家なわけですから、普段から公開されているタレントのプライバシーについてイメージダウンにつながることは知る権利がある、と主張することが可能ではあります。

では、議員はどうなのでしょうか。議員はプライバシーの切り売りでファンを構築しているわけではなく、本来は政治家としての政策実行力が問われる職業ですから不倫について国民も支援者も知る権利はないと言えます。しかしながら、タレントが議員になったり、議員がタレント化する昨今では、タレントと変わらない状況に置かれるため、プライバシーであっても品行方正であることが求められ、そこから逸脱すると批判されてしまうのではないでしょうか。

不倫は法的にはどうなのか。刑法上は違法ではないが、民法では違法となります。これによって「不倫は違法だ、けしからん。違法行為をした著名人について国民は知る権利がある。報道すべきだ」といった主張も一応は成り立つわけです。しかしながら、こと不倫報道については、国民の知る権利への奉仕というよりは、「視聴率が高まるから」「アクセスが多くなるから」「雑誌がよく売れるから」といった動機の方が強いと言えるでしょう。その証拠に新聞では報道されません。つまりは、売れるコンテンツであり、ビジネスなわけです。

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