RMCA-リスクマネジメントの専門家による寄稿、セミナーや研修・講座などの情報

  1. あの記者会見はこう見えた 石川慶子
  2. 83 view

第46回 これからどうなる検察対ゴーンのメディア戦略

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

2019年12月30日、ゴーン事件で司法取引がスピード合意されたことが報道された次の日、レバノンからゴーン氏が海外逃亡したことという衝撃の発表をしました。
日本における衝撃の逮捕、会社の私物化、プライベートジェットによるハリウッド映画さながらの海外逃亡劇。どれをとっても度肝を抜くことばかり。逃亡先での記者会見とこれまでのメディア戦略を振り返ってみたいと思います。

日本でのメディア戦略は精彩を欠く

年始早々の2020年1月8日、海外逃亡した元日産会長カルロス・ゴーン氏がレバノンで記者会見をしました。海外逃亡という違法な行いをしても堂々と記者会見をする、前代未聞の展開といえます。
この時の目的は、明らかに自分を守るためです。
戦略的な筋書きができており、世界中の各メディアがこぞって報道を競い合いました。違法性云々よりも日本の司法制度に関心を持たせることに成功したといえるでしょう。

ゴーン氏のメディア戦略を振り返ってみます。

  • 2018年11月19日、ゴーン氏逮捕
  • 2019年1月30日 、逮捕後初の単独インタビュー(日経新聞、東京拘置所にて)
  • 2019年3月6日、保釈。変装した姿が話題に。
  • 2019年4月4日、再逮捕
  • 2019年4月9日、弁護団がビデオメッセージ公開
  • 2019年4月25日、再度保釈。スーツ姿
  • 2019年12月31日、レバノンに海外逃亡した声明を発表
  • 2020年1月8日、レバノンにて記者会見(12か国、60社、120席)

ゴーン氏の反撃は、日経新聞の単独インタビューで拘置所から発信から始まりました。
保釈が伸びるリスクのあるインタビューであったと思います。
残念だったのは、3月6日の保釈時の変装。
あまりにも意外であったため、本筋とは関係のない憶測報道が増えてしまいました。
数日後弁護士は、自分が演出したと謝罪をしましたが、逃げの姿勢を印象づける明らかな失敗となりました。
4月9日のビデオメッセージは、弱者を演出する狙いがあったのか、ネクタイ締めず、メッセージも明確ではありませんでした。
変装もビデオメッセージもゴーンらしさに欠けるものでした。

レバノンでの反撃は評判を守るための記者会見

今回の海外逃亡先レバノンでの会見。
記者の選択、内容の組み立て、メッセージ、身振り手振りのアピール、全てが計算されたものであったと感じます。
年末を狙っての海外逃亡、年始の記者が暇な時期での大々的な記者会見。
すべての演出が自分を守るための戦略的記者会見でした。海外逃亡したまま記者会見をしなければ、単なる逃亡者です。
自分の正当化であっても記者会見をすることが自分自身を守ることにつながると考え、周到な準備で開催したといえるでしょう。
日本ではリークを連発する検察という権力との戦いになりますので、メディア戦略は綱渡り。冴えない広報を印象でした。
日本ではPR会社がついていなかったように見えます。それと比較すると、今回はフランスのPR会社仕切り。彼一人の力というよりは、
PR会社の力を見せつけた事例ともいえます。メディアの選定、時間配分、全体の組み立て。よく考えられており、プロの力を感じました。

質疑応答は、アラビア語、フランス語、ポルトガル語、英語が飛び交いましたが、全ての言語でゴーン氏回答しました。
それだけで有能であることをアピールする効果はあったと感じます。質問さばきも見事で追加質問をさせずに、「次の質問」「次はあなた」とどんどん回していくことで場を支配していました。
ゴーン氏と親しい記者のみ集められたと報じられていますが、厳しい質問もありました。「日本で違法行為をしたからここに至る事態になったのでは」「レバノンは汚職まみれの国。この国で公正な司法制度があるとみなされていない。ここで本当に汚名返上ができるのか」「ルノーについて思うことをコメントしてほしい」。ゴーン氏の回答は、「検察は私より10倍違法行為している。情報漏洩している。日本のジャーナリストはみな検察から情報もらったといっている」「レバノンには有能な人がいる。腐敗で真っ先に浮かぶのはレバノンではない」「今日のテーマは日本のみ。ルノーについては語らない」。反論、ずらす、テーマ制限、と巧みでした。ネタばれですが、お手本のような回答でメディアトレーニングの成果は見事に出ていました。

一方、日本の検察は、逮捕の時からずっと特定メディアに情報を提供するというリークを続けてきました。さすがの私もこれは卑怯だと感じざるを得ませんでした。リークではなく、海外メディアも招いてきちんと会見を開くべきだったのではないかと思います。そうすれば国際世論へのアピールもできたはずです。しかし、彼らが公式会見をしたのは、ゴーン氏のレバノンでの会見後。森法相が個別の案件に関して会見をするのは異例のことでした。もちろん、こんな事態を想定したマニュアルは存在しなかっただろうと思いますが、記者会見を行ったのは、ゴーン氏に対して反論するため、世界に対して日本の正当性を主張するためです。組織の危機、日本の司法制度への危機感を持ったから行ったのだといえます。ここでもし見解文をウェブに掲載するだけであれば、インパクトは弱く世界に向けてのメッセージにならないと判断したのでしょう。

ゴーン氏は自分の評判を守るため、検察は組織を守るため、それぞれ記者会見をやったことが分かります。危機時も攻めの広報として記者会見をする選択もありでしょう。今後は記者会見による公開裁判になっていくのかもしれません。評判を守るためだけでなく、世界のメディアを巻き込み、勝つための記者会見、メディア戦略が展開される可能性があります。

あの記者会見はこう見えた 石川慶子の最近記事

  1. 第60回 トップ失言で五輪組織委員会が迷走 教訓はトップメディアトレーニング

  2. 第59回 ユニクロ決算説明会 トップ演出はどこが失敗だったのか

  3. 第58回 安倍元総理「サクラ」問題の謝罪会見

  4. 第57回 新閣僚らの記者会見におけるボディランゲージ力を徹底批評

  5. 第56回 危機を広報のチャンスに変えるには~日本学術会議問題から考える

最近の記事

2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  
PAGE TOP