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第30回 スルガ銀行、新しい企業風土はどう作る?

あの記者会見はこう見えた!

石川 慶子氏

2018年9月7日、スルガ銀行の個人向けローン不正融資問題に関する第三者委員会の報告書が公表され、有国三知男新社長が記者会見を行いました。私が着目したのは、行員が自分のため、会社のためというよりも、営業現場での猛烈なプレッシャーの中で組織的に行ってしまっていた点です。厚労省も2019年にパワハラ防止関連法案提出を検討していますが、今後、社会問題として確実にクローズアップされるでしょう。今回は一連の問題を振り返り、パワハラを乗り越えるために広報の専門家は何ができるかを考えたいと思います。

パワハラというより脅迫

本件は、2018年シェアハウスを運営していた株式会社スマートデイズが破綻し、シェアハウスオーナーに賃料支払いを中止したことで発覚しました。スルガ銀行は、借入能力のないと知りながら個人にローンを設定しました。貯金額の改ざんにかかわった行員、知りながら黙認した行員など多数の行員が関与していたのです。

スルガ銀行はこの破綻を受け、「危機管理委員会」を設置し、2018年5月15日に概要を公表しましたが、事実関係の徹底的な調査と原因究明が不可欠と判断し、同日「第三者委員会」を設置。

第三者委員会の調査は、スルガ銀行から提供された資料、危機管理委員会の調査結果、スマートデイズ社管財人からの資料、関係業者、シェアハウスオーナーや代理人からの資料、委員会宛て投書をレビュー。抜き打ちの現地調査。インタビュー調査は、スルガ銀行取締役、OB,退職者を含めた社員、関係者に行い、メール調査も行いました。

報告書には、営業現場において行員が置かれたプレッシャー状況が生生しく記載されています。「数字ができないなら、ビルから飛び降りろと言われた」「オマエの家族皆殺しにしてやると言われた」「首をつかまれ壁に押し当てられ、顔の横の壁を殴った」。パワハラというよりは脅迫に近い。

報告書は経営体制におけるガバナンスの問題を指摘しています。執行役員に営業成績を上げてくることだけを要求し、コンプライアンスには目をつぶる。取締役会への報告者は不正の張本人であるため、問題が報告されることはなかった。

そして何よりも深刻なのは、不正行為が長期間、多店に渡っていたにもかかわらず、誰一人として告発しなかったこと。企業風土そのものが劣化していたと指摘しています。

本音が言える企業文化を

第三者委員会は、スルガ銀行は「無責任営業推進態勢」と厳しく断罪しました。それに対し、スルガ銀行の有国新社長は、9月7日の記者会見で「新しい企業文化を作る」と語りました。

「トップダウンが多かったので決別しなければならない」「多大な営業目標があった。ガバナンスがもう少し機能していれば防げた」「個人の問題ではなく、企業文化かなと思う」

このコメントを見る限り、道のりは遠いと感じます。そもそもトップダウンがいけないのではなく、トップが現場の状況に関心を持たなかったこと、下々の者が営業数字を上げてくればよいという他人事意識であったことに起因するのではないでしょうか。ガバナンスは全く機能していなかったことを猛省する必要があります。報告書には取締役一人ひとりの責任を明確に記載してあります。企業文化という言葉で逃げてはいけないと感じました。

有国新社長の略歴をみると、2016年取締役に就任しています。システム部を管掌していたため、明らかな善管注意義務違反があったとは言えないが、人事に関する諸問題を認識しており、審査部に営業の意向が色濃く反映されることは知りうる立場。取締役になった時点で取締役会に報告して是正する試みをしなかった責任はある、と報告書に明記されています。

第三者委員会の中村委員長は「経営陣は雲の上で下界を見ていた」と表現しました。果たして新しい経営陣は下界に降りてくることはできるのでしょうか。

本気で新しい企業文化を作るなら、広報と人事にも力をつけてほしい。経営の中で広報が担う役割の1つに「企業文化の変革と推進」があります。*1広報と人事が協力すれば、風通しのよい文化を作れます。本音が言える雰囲気づくり、発言しても人事評価で不利にならない、ネガティブなことでも明るく話し合える、そんな企業文化づくりに広報や人事は積極的に関わってほしいと願います。

 

参考
スルガ銀行 第三者委員会報告書
https://www.surugabank.co.jp/surugabank/kojin/topics/pdf/20180907_3.pdf

産経新聞 有国新社長 記者会見一問一答
https://www.sankei.com/economy/news/180907/ecn1809070044-n1.html

朝日デジタル 「オマエの家族皆殺し」スルガ銀、上司による壮絶な恫喝
https://www.asahi.com/articles/ASL974DYGL97ULFA01L.html

*1「広報・パブリックリレーションズ入門」猪狩誠也編著、宣伝会議、2007年、p27

著者:石川慶子氏

有限会社シン 取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事
公共コミュニケーション学会 理事
日本広報学会 理事
公式ページ:http://ishikawakeiko.net/
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