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第26回 日大アメフト問題

あの記者会見はこう見えた!

石川 慶子氏

日大アメフト部のタックル問題を取り上げます。5月上旬に事件は起こり、月末までには収束するだろうと思い、取り上げるつもりで追いかけてきましたが、残念ながら5月26日の現時点においてもいまだに本件について責任をもって収束する人の顔が見えません。今回はこれまでの経過を時系列でまとめることで問題点を浮き彫りにしたいと思います。

●事態収束するトップ不在が致命的

最初に現在までの一連の報道を時系列で振り返りましょう。

5月6日 日大アメフト部と関学アメフト部の第51回定期戦において日大選手による反則行為で関学選手が怪我を負う
5月10日 関学アメフト部から日大アメフト部に申し入れ書
日大アメフト部公式サイトに反則行為へのお詫び文掲載
5月11日 当該選手と両親が内田監督を訪ね、関学選手への直接謝罪を申し入れるが止められる。
5月12日 当該選手とコーチが関学に謝罪に行くが断られる
5月14日 学生連盟規律委員会が当該選手と父親に聞き取り調査
5月16日 当該選手の両親が弁護士に相談
5月17日 大学本部(アメフト部ではない)が当該選手に聞き取り
関学アメフト部、被害選手父親が記者会見
日大の返答内容について「非常に悪質だ
5月18日 当該選手・両親が関学選手・両親、関学アメフト部ディレクターに面会して謝罪
5月19日 内田監督、監督辞任表明。関学への謝罪。ピンクのネクタイ姿に批判報道(空港でのぶら下がり取材対応)
5月21日 関学被害生徒の父親、警察に被害届け
5月22日 当該選手、日本プレスセンターにて謝罪会見
被害選手の父親が記者会見、「当該選手は勇気をもって真実を語ってくれた」
5月23日 内田監督、井上コーチが日大にて記者会見、「怪我をさせろと言ってない」
5月25日 日大大塚学長が日大にて記者会見、謝罪とお願い
5月26日 関学アメフト部記者会見、「日大再回答は真実といえず、定期戦中止」

5月6に発生し、20日以上経っているのにいまだに収束の道筋が見えないのはなぜでしょうか。クライシスコミュニケーションの視点から分析すると下記になります。
1. 日大アメフト部として調査していない(当該選手にヒヤリングせず)
2. 日大経営陣が責任もって事態収束する姿勢がない(トップ不在)
3. 日大側にクライシスコミュニケーションのプロが不在(手法が未熟)
報道陣も相次ぐ記者会見に疲弊し、振り回されている感、どう報道すべきか混迷している様子を感じます。私への解説依頼は日大の危機管理初動についてが多いのでそこに焦点を絞ります。

●どう向き合うのかロードマップ示し明確に発信を

クライシスコミュニケーションの初動3原則として私が日頃から提唱して実践しているのは、①ステークホルダーを洗い出す、②広報方針を決めて実行する、3ポジションペーパーを作成する。そして注意すべきポイントが、表現力、手法、タイミングの3点です。初動3原則と失敗予防のための3つの注意ポイントの観点からこの問題を解説します。
何か起こった際には、まずもってステークホルダーを洗い出します。この場合、当該選手に話を聞くことを真っ先にすべきでしたが、当該選手の代理人弁護士が明らかにしているように日大アメフト部からの聞き取りは一度も行っていません。

広報方針を決めて実行する。広報方針とは当事者間でのやり取りを超え、社会的関心事になってしまった際に誰がどのように社会に対して説明責任を果たすのかを決めることです。すなわち記者会見を開くかどうか、開くとすればいつだれが開くのかを決めることです。今回の場合、5月10日に日大アメフト部公式サイトに謝罪文掲載して以降、23日まで公式記者会見を開きませんでした。ここに危機意識の欠如を見ることができます。日大側が会見するタイミングとしては、関学が回答書に不満表明の記者会見をした5月17日、先方に謝罪に行った19日、被害届が出た21日と何度かチャンスはありましたが、結局、22日に当該選手が会見を行った翌日23日に行うことになりました。出席した記者によると直前に会見の発表があったということで、計画的実施ではなかったことがわかります。ようやく25日には学長が会見をしていますが、目的は「謝罪とお願い」であり、学内生徒への影響を最小限にしたいというお願いがメインでした。「第三者委員会ができるようですし」といった他人事のような発言からすると、自らこの問題の解決にあたる方針の発表ではありませんでした。一体誰がどのようにこの問題を収束させる責任者なのか、見えないままです。

3番目の初動ミスとしては、ポジションペーパー(公式見解書、説明文書)を配布していないことです。ポジションペーパーは、事実、経緯、原因、再発防止策、見解(謝罪、責任表明等)の5つの要点を盛り込みます。通常は、緊急対策本部設置してトップは誰、これまでの調査結果はこれ、限界があるからさらに精査するため第三者委員会設置、調査結果はいつなのか期日を示します。一方、当該選手の弁護士は用意して配布をしています。自分達がどのようなアクションをしてきたのか、なぜ会見をすることにしたのか、何を伝える場なのかも明確にした上で会見を開始しました。

今、日大がすべきことは、すでにアメフト部だけの問題ではなく、日大全体のイメージダウンになっていることを認識し、誰がこの問題を収束させる責任者なのかを明確にして、どのようなスケジュールで収束していくのか、ロードマップを具体的に示し、真剣に向き合う姿勢を示すメッセージを発信することだろうと思います。

<参考データ>

著者:石川慶子氏

有限会社シン 取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事
公共コミュニケーション学会 理事
日本広報学会 理事
公式ページ:http://ishikawakeiko.net/
詳しいプロフィールはこちら

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