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第74回対外的危機管理法としての国際法(その2)-武力紛争法-

リスク政策

千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 准教授 戸田 博也 著

2018年6月12日、歴史的と称される米朝首脳会談が実現したが、この米朝首脳会談のみをもって「さあ、どう評価するか?」といわれても、「いかなる評価も下しようがない」というのが、およそ冷静な分析であろう。ということは、今後、「日本がどう関わるのか」、「韓国がどう関わるのか」、「中国、ロシアは?」、そして「米国は?」というように、今後、北朝鮮との「対話」により何を引き出すのかによって、今回の米朝首脳会談は一連のものとして評価すべきものといえる。ただし、言葉による「対話」の道を開いたことは、トランプ大統領の最大の功績といえよう。しかし、それも金正恩の胸三寸でいつでも崩壊に向かう可能性「大」であり、再度、暴力(核ミサイル)による「対話」へと後戻りすることも容易にありうる状況といえる。

このような依然として不安定な状況下で、北朝鮮が核兵器を簡単には手放さないであろうという誰もがまずもって容易に理解しうる危機的状況に直面し続けているのが今の日本の現状である。この北朝鮮の核の脅威に依然として直面している現状に鑑(かんが)み、クライシス・マネジメントの「ど真ん中」を行く国際法の枠組みを紹介してみたいと思う。

前回のリスク政策への投稿(リスク政策Vol.18に収録:「第62回対外的危機管理法としての国際法」)ではあえて全く触れなかった分野であるが(中途半端に触れることができない少し難しい分野であるため触れなかったのであるが)、対外的危機管理法としての国際法における「武力紛争法」の分野について紹介してみたいと思う。

それでは、武力紛争法とはいかなる分野であろうか。武力紛争に関する問題については、国際法は2つの異なる次元で規制する。1つが、武力紛争に際しての法(武力紛争開始に際しての正当性に関する法)、すなわち、国家はいかなる状況下であれば正当な武力行使が可能か(国連決議に基づく武力行使〔正規の国連軍、多国籍軍等〕、自衛権に基づく武力行使、人道的干渉としての武力行使等)という「安全保障に関する法的枠組み」の分野【武力行使に関するマクロ的法規範】であり、もう1つが、一旦武力紛争が始まってしまった場合、いかなる戦闘のあり方(戦い方)が「正しいもの」で、いかなる戦闘のあり方(戦い方)が「正しくないもの」かという「武力紛争法」の分野【武力行使に関するミクロ的法規範】である。

つまり、武力紛争法は、武力紛争が「始まってしまった場合」にどのような戦い方が合法かという法的枠組みであり、まさに、究極のクライシス・マネジメントといえる。例えば、武力紛争時においては、一方の武力紛争当事国の戦闘員が、敵戦闘員を殺害しても、正当な武力紛争法規に則(のっと)ったものであれば一切罪に問われることはない。平時であれば殺人は全(まっと)うな社会から排除され人生の脱落者としてみなされる行為であるが、武力紛争時においては同様の殺害行為が英雄的行為として扱われる。これは、自国民の保護、戦闘員自身の命の確保、無法地帯における秩序構築等の「究極のリアリズム(現実主義)」からくる「行為の意味づけの転換」であり、安易なヒューマニズムや理想主義は通用しない。武力紛争法は、このような究極の状況において、憎しみの連鎖から戦闘がエスカレートしていく流れを、ギリギリのところで理性的に踏みとどまらせるために「人として最低限何を護るべきか(やってはいけないこととは何か)」ということを法規範化したものといえる。ギリギリのところで「何を遵守させるか」、人道(人間性)からくる規範を「いかに遵守させるか」、である。
それでは、以下、武力紛争法の枠組みを詳細に述べていく。

武力紛争法

Ⅰ.武力紛争法の成立と適用

1.戦時国際法の時代
戦時国際法とは、戦争開始により「戦争状態」になった時点から、「交戦国間」(交戦法規により規律)、「交戦国と中立国」(中立法規により規律)の関係を規律する法である。また、戦時国際法と対置される平時国際法とは、「戦争状態」が存在しない平時状態において主権国家間の関係を規律する法である。
このように伝統的国際法においては、国際法は平時国際法と戦時国際法という2つの次元で捉える考え方が妥当しており、この捉え方(枠組み)は、国連憲章が戦争のみならず武力の行使、武力による威嚇まで一般的に禁止する時期まで妥当することとなる。

【ちょっと詳しく解説】
ハーグ法とジュネーヴ法
戦時国際法とそれを基本的に引き継ぐ武力紛争法は、以下の「ハーグ法」と「ジュネーヴ法」という2つの枠組みから構成されている。
① ハーグ法とは、交戦者資格、戦闘手段・方法、中立などを規律する法的枠組みであり、もともと慣習国際法として発展してきたものであるが、19世紀半ば以降、とりわけ1899年・1907年のハーグ平和会議で法典化されたものである(代表的なものとして、ハーグ陸戦条約、同陸戦規則など)。
② ジュネーヴ法とは、戦争・武力紛争犠牲者の保護を目的とする法的枠組みであり、1864年のジュネーヴ条約以降、赤十字国際委員会主導で、数回の補充改定を経て、条約として発展してきたものである(代表的なものとして、1949年のジュネーヴ4条約、同条約に対する1977年の2つの追加議定書など)。

2.武力紛争法の成立

平時国際法と戦時国際法という2次元的枠組みは、国連憲章第2条4項の「武力不行使原則」の成立により劇的に変化した。同条項は戦争のみならず武力の行使、武力による威嚇まで一般的・包括的に禁止し、戦争をはじめとする当該行為はすべて国際法違反となる。この戦争・武力行使等の一般的禁止の例外として異論なく認められるものは、自衛権に基づく武力行使と国連の軍事的措置としての武力行使のみとなる。これは、国連憲章体制成立以降の国際法が、基本的に平時国際法を意味することとなり、非常に例外的に戦時国際法が対象としていた部分が妥当する余地があるという枠組みにシフトしたこととなる。

さらに、例外的に生じる武力紛争に対して戦時国際法の枠組みをそのまま用いる形にはなっていない。現行国際法においては、戦時国際法の諸規則を基本的には引き継いでいるものの、「人道的要素」を特に重視し、また、新しい状況にも対応する規則を整備してきており、従来の「戦時国際法」とは質を異にする「武力紛争法」が存在するという捉え方が学者間の一般的な理解といえる。

また、「国際人道法」という用語の使用も見られるが、1970年代以降は、「武力紛争法」とほぼ互換可能なものとして使用されるようになってきている。

3.武力紛争法の適用

(1)国際的武力紛争と非国際的武力紛争
武力紛争法の適用範囲は、国際的武力紛争(すなわち国家間の武力紛争)だけでなく、非国際的武力紛争(内戦・内乱)も射程に入る。国際的武力紛争は武力紛争法の全面的な適用対象とされ、非国際的武力紛争は武力紛争法の限定的な適用対象(ジュネーヴ4条約では共通第3条のみが適用)とされる。
さらに、1977年の第1追加議定書(国際的武力紛争を射程)によれば、民族解放闘争(従来は内戦の一形態とする考えが有力)は国際的武力紛争とみなされている(1条4)。また、共通第3条を補完する趣旨から、1977年の第2追加議定書(非国際的武力紛争を射程)が採択されている。
(2)平等適用論と差別適用論
(a)平等適用論の必要性
平等適用論とは、武力紛争法はすべての敵対する当事者に平等に適用されるということである。何が問題かというと、武力行使違法化の文脈において違法な武力行使を行った加害国と攻撃を受けた被害国という立場が存在するとしても、一旦始まってしまった武力紛争時に武力紛争法は加害国と被害国の扱いに差を設けず、平等に適用するという点である。つまり、このような法構成からすれば、現在の国際社会の法秩序は、武力行使の違法化(ユス・アド・ベルム[jus ad bellum])と武力紛争法(ユス・イン・ベロー[jus in bello])を分離・切断して構成されることとなる。加害国と被害国を対等に扱うというユス・アド・ベルム上では問題のある扱いをユス・イン・ベロー上で行う理由は、ユス・イン・ベローすなわち「武力紛争法」の存在意義自体に見出すことができる。武力紛争法の設定目的は武力紛争時における戦闘員ならびに文民を人道的に保護することの必要性である。捕虜への虐待を禁止すること、文民に対する無差別攻撃の禁止等は、加害国、被害国という区別を超えて求められる「人道的考慮」からの要請といえる。この要請こそ、平等適用論が支持される最大の理由となっている(第1追加議定書前文参照)。
(b)差別適用論の問題点
これに対して、差別適用論は、武力行使違法化の文脈では、加害国は違法な武力行使を行っているのであるから、当該加害国の武力紛争法上の権利を否定すると主張する。しかし、この差別適用論は、現在の国際社会のあり方からすると、殺し合いならびに憎しみの連鎖が継続することにもなりうる。たとえば、加害国の戦闘員の捕虜資格を剥奪し処罰すること、加害国文民は保護の対象としないこと等が合法な行為とした場合、これに対する当該加害国の対応は、容易には降伏せず、また被害国の戦闘員、文民に同様の措置をとるといったことが確実に想定される。したがって、差別適用論は、国際社会の現状からすると、軍事的必要性と人道的考慮のいずれの点からも支持しえないものとなる。
(3)総加入条項の排除
第1次世界大戦以前の戦時国際法に関する条約は通例、「総加入条項」を組み込んでおり、当該条約の適用範囲は限られていた。総加入条項とは、戦争においてすべての当事国が条約の当事国である場合に限り、その条約が適用されることを定めた条項である(例えば、ハーグ陸戦条約2条)。つまり、戦時国際法に関する条約の非当事国である交戦国は何の制限もなく戦闘手段を行使しうるのに対して、当該条約当事国である交戦国は同条約により制限されることとなり、戦闘上不利になるので、その不公平を排除する趣旨である。しかし、第1次世界大戦後は、文民保護等に関して当該条約の実効性を損ねるという批判から、総加入条項は含まれなくなり、当該条約の適用範囲は拡大されることとなった。また、1949年のジュネーヴ4条約および第1追加議定書は、総加入条項を排除しただけでなく、非締約国である紛争当事国が当該条約を受諾・適用するときには、締約国とその国との関係においては当該条約に拘束されるものとしている(ジュネーヴ4条約共通第2条、第1追加議定書96条2)。

Ⅱ.戦闘手段と戦闘方法の規制

1.2つの基本原則

平時において殺人は犯罪となるが、戦時・武力紛争時(武力紛争法適用時)においては同様の行為(敵戦闘員に対する殺傷行為等)が自国民を守るための英雄的行為とみなされうる。しかし、武力紛争法上いかなる行為も正義とされるわけではなく、あくまでも一定の法的規制の下で殺傷行為等が合法となる。それでは、武力紛争法上いかなる法的規制が存在するのであろうか。

法的規制を導くものとしては「2つの基本原則」が存在する。この2つの基本原則は、「軍事的必要性」(武力紛争の目的を達成するために必要とされる軍事的手段を用いることは許されるとするもの)と「人道的考慮」(人道上の観点から「不必要な」人の殺傷や財産の破壊などは避けるべきとするもの)という2つ要請のバランスを背景とし、条約、慣習等の積み重ねにより確立した一般国際法上の原則である。

そのうちの1つが、「軍事目標主義(目標区別原則)」であり、同原則は、文民住民と戦闘員の区別、民用物と軍事目標の区別を前提とするもので、前者に対する攻撃ならびに両者を区別せずに行う無差別攻撃を禁止するものである(ハーグ陸戦規則25条、第1追加議定書48条)。
もう1つが、戦闘員に対して「過度の傷害または不必要な苦痛を与える兵器の使用は禁止される」とする原則である(ハーグ陸戦規則23条ホ、第1追加議定書35条2)。
このような一般的原則による規制は、新兵器に対しても柔軟に適用しうるものといえるが、その一般性や抽象性からくる解釈上の争いが生じる余地も多分にあり、そのような点を埋めるべく個別条約により特定種類の兵器についての規制も行われている。

2.戦闘手段(兵器)の規制

(1)兵器規制の条約枠組み
前述の「過度の傷害または不必要な苦痛を与える兵器の使用は禁止される」とする原則は、主として戦闘員の保護を目的とするものであり、軍事的必要性に比して非人道的性格が上回る兵器の使用を禁止した多数の条約規定から導き出された原則といえる。

特定通常兵器に関する条約としては、1868年のサンクト・ペテルブルク宣言が先駆けであり、400グラム未満の炸裂性の発射物または爆発性・燃焼性の発射物を使用禁止とした(通常の弾丸を使用する場合と軍事的効果が変わらないのにこのような非人道的兵器を使用する必要はないとの趣旨)。1899年のダムダム弾禁止宣言は人体内で容易に展開しまたは平たくなる弾丸の使用を禁止した。1980年の特定通常兵器使用禁止制限条約は、付属議定書を設定し特定の兵器使用を禁止するものであり、X線で検出不可能な破片を利用する兵器(議定書Ⅰ)、地雷・ブービートラップ(外見上無害なもののようにみせた殺傷装置・物質)(議定書Ⅱ)、焼夷兵器の使用(議定書Ⅲ)、失明をもたらすレーザー兵器(議定書Ⅳ)、爆発性戦争残存物(議定書Ⅴ)について禁止する。1997年の対人地雷禁止条約は、対人地雷の使用・開発・生産・取得・貯蔵・保有・移譲等を包括的に禁止し、貯蔵地雷は条約発効後4年以内に、埋設地雷は10年以内に廃棄することを義務付ける。

大量破壊兵器の中でも、生物・化学兵器については、その使用が広く禁止されるようになってきており、これは、1899年の毒ガス禁止宣言、1899年と1907年のハーグ陸戦規則(23条イ)、1925年の毒ガス等禁止議定書を契機としたものである。さらに、より厳しく規制するものとしては、1972年の生物毒素兵器禁止条約、1993年の化学兵器禁止条約があり、兵器自体の開発・生産・保有・移転・配備等を禁止し、さらには、軍縮・軍備管理の側面も有するものといえる。
(2)核兵器の使用
大量破壊兵器の中で特に問題となるのは核兵器である。核兵器の使用を「直接的に」禁止した条約は現在に至るまで存在しない。したがって、その使用が違法か合法かについては見解の対立がある。
このような中、1996年に国際司法裁判所(ICJ)は、国連総会の要請に応じて、「いかなる状況においても、核兵器による威嚇または使用は、国際法上許されるか」という問題について勧告的意見を示した。同意見は、核兵器の使用は武力紛争法の定める軍事目標主義や不必要な苦痛を与える兵器の禁止規則等とほとんど両立せず、核兵器の使用・威嚇は一般的には武力紛争法の原則・規則に反するとした。しかし、それとともに、「国家の存亡そのものがかかっているような極限的な自衛状況において、核兵器の威嚇・使用が合法か違法かについては、裁判所は明確な結論を出すことができない」と結論付けている。この結論部分をどのように解釈するかについては、議論の余地を多分に残す。

【重要判例】
核兵器の使用・威嚇の合法性事件[国連総会諮問](国際司法裁判所 勧告的意見 1996年7月8日)
Legality of the Threat or Use of Nuclear Weapons, Advisory Opinion, ICJ Reports 1996, P226
<事実の概要>
核兵器については、地域的軍縮条約等を別にすれば、その使用を明示的に禁止する条約は存在しない。当該状況に鑑み、国連総会は、1994年12月15日に「核兵器の威嚇または使用は、国際法の下でいかなる状況においても許容されるか」に関して勧告的意見を求める決議49/75Kを採択し、ICJに勧告的意見を要請した。
<意見要旨>
核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法の規則、特に人道法の原則および規則に一般的には反するであろう。しかし、国際法の現状および裁判所が利用できる事実の諸要素に鑑み、裁判所は、国家の生存そのものが危うくされるような自衛の極限的状況において、核兵器の威嚇または使用が合法であるか違法であるかについて確定的に結論することはできない。

3.戦闘方法の規制

前述した2つの基本原則の1つである「軍事目標主義」は、戦闘方法の規制について基軸となる原則である。武力紛争発生時において、戦闘員の殺傷や軍事目標の破壊は、「軍事的必要性」に照らし適法なものとなりうる。ただし、それは、「過度の傷害または不必要な苦痛を与える兵器の使用は禁止される」とする原則を満たす場合という条件付けがなされる。また、同時に、文民住民の殺傷や民用物の破壊は可能な限り避けるべきとされるが、これは、「軍事的必要性」(ここでは、自国の軍事的資源を敵戦力の弱体化に集中することを意味する)ならびに「人道的考慮」のいずれの観点からも、要請されるものといえる。
1899年・1907年のハーグ陸戦規則(25条:陸上軍隊による砲撃)と1907年の戦時海軍力をもってする砲撃に関する条約(1~2条:海上から陸上軍隊への砲撃)は軍事目標主義を明確にした。すなわち、「防守都市・地域」(敵軍隊の占領に対し抵抗する軍隊が存在)に対しては無差別砲撃が許されるが、「無防守都市・地域」に対しては軍事目標に限定した砲撃のみが認められるとした。

1922年の空戦に関する規則案(22条、24条)は、空軍による空襲について軍事目標主義を定めた(未発効)。広島・長崎への原爆投下行為について違法とした1963年の原爆判決(下田事件、東京地判昭38・12・7)は、この空戦に関する規則案を重視しており、同規則案に軍事目標主義の原則が存在することを根拠として、同原則に基づき、原爆投下行為の違法性を認定している。

1977年の第1追加議定書(48条、51条、52条)は、防守都市・地域に対する無差別攻撃の合法性を修正し、防守都市・地域であれ、無防守都市・地域であれ、いずれに対しても、攻撃は軍事目標に限定するとした(つまり、防守都市・地域への無差別攻撃は違法)。
その他の規制として、背信行為(軍使旗・赤十字旗の不正使用、傷病者を装うことなど)は違法であるが、奇計(偽装、おとりなど)は合法である。

Ⅲ.武力紛争「犠牲者」の保護

1.交戦者(戦闘員)の資格

武力紛争法は、武力紛争犠牲者保護の枠組みを拡充してきている。武力紛争犠牲者保護の枠組みには、文民はもちろんだが、戦闘員でも傷病者、難船者、捕虜となった者(戦闘外におかれた者)もその射程に入る。このような積極的保護は、とりわけ、1949年のジュネーヴ4条約ならびに2つの追加議定書を通じて明確に確立されてきたものである。そして、その基軸となるのが、戦闘員と文民の区別であり、この区別に基づき当該犠牲者発生の防止と保護を目的としたさまざまな法的枠組みが構築されてきている。そこで、まず問題となるのが、戦闘員とはいかなる者か、すなわち、交戦者資格の問題である。

19世紀の交戦法規は、戦闘員を国の正規軍の構成員のみとしていたが、ハーグ陸戦規則は、その範囲を拡大し、正規軍以外にも、一定の条件を満たす民兵や義勇兵、さらにはより組織化の度合いの低い群民兵にも一定の条件を満たす前提で、交戦者資格を付与した。民兵や義勇兵が満たすべき条件とは、①指揮官が存在していること、②文民と区別できる特殊標章を付けていること、③公然と兵器を携行していること、④戦争の法規・慣例に従って行動していること、である(1条)。群民兵は、民兵・義勇兵として組織される時間的余裕がなく、占領されていない地域において侵入してきた軍隊に抵抗するために自発的に武器をとった状況下の集団であることから、上記条件の③と④を満たせば、交戦者資格が付与される(2条)。また、第2次世界大戦におけるレジスタンスやパルチザンの闘争を射程にして、1949年のジュネーヴ捕虜条約(第3条約)は、上記の①~④のすべての条件を満たす占領地域の組織的抵抗運動団体の構成員についても、通常、戦闘員のみに認められる捕虜資格を付与した(4条A(2))。

さらなる範囲の拡大として、民族解放闘争等のゲリラ戦を念頭において、1977年の第1追加議定書は、敵対行為の戦術的特質から文民との識別が困難なゲリラ戦を射程として、①交戦の間、②自己が参加する攻撃に先立つ軍事展開中に敵に目撃されている間、武器を公然と携行することを条件として、戦闘員としての地位を保持することを認めた(44条3項)。

2.傷病者・難船者の保護

傷病者(戦闘で傷を負いまたは病気になり戦闘能力をなくした戦闘員)の保護は、1864年の第1回赤十字条約の改正を経て、1949年のジュネーヴ傷病者条約(第1条約)で規定されている。紛争当事国は、自国の権力内にある軍隊の傷病者に対して、性別、人種、国籍、宗教、政治的意見等による差別をせず、人道的に待遇し、かつ、看護しなければならない(12条)。第1条約は、傷病者の範囲として、軍隊の構成員とその随伴者(従軍記者、需品供給者等)を射程としている(13条)。さらに、第1追加議定書は傷病者の射程を広げ、「軍人であるか文民であるか」を問わず、治療・看護を必要とし、いかなる敵対行為も差し控える者としている。この中には、妊産婦、新生児、虚弱者などが含まれる。また、海上における傷病者・難船者は、海戦の特殊性を踏まえ、1949年のジュネーヴ海上傷病者保護条約(第2条約)によって保護される。

3.捕虜の待遇

捕虜とは、武力紛争時に、適法な資格に基づき敵対行為を行う中で敵に捕らえられた者、または、その者に与えられた法的地位のことである。捕虜の待遇については、古くから問題になってきた。近代以前は、殺害されたり奴隷とされたりして、厳しい扱いを受けてきた。18世紀ごろになると、人権思想に基づき、捕虜に一定の待遇を保障する制度や実行が現れた。しかし、19世紀後半以降は「交戦者資格」が問われるようなり、その条件を満たした者のみが捕虜としての資格を与えられ、一定の保護の下に置かれるという制度が確立した。ハーグ陸戦規則において、初めて捕虜の人道的な待遇が保障され、その後、1929年の捕虜の待遇条約を経て、1949年のジュネーヴ捕虜条約(第3条約)へと発展し、捕虜の資格・待遇について詳細な規定が設けられた。さらに、1977年の第1追加議定書は、捕虜資格の拡大と保護の強化をより一層推進している。ただし、傭兵には、戦闘員ならびに捕虜となる資格は付与されていない(47条)。

第3条約によれば、捕虜は常に人道的に待遇しなければならず、抑留国の作為・不作為で捕虜を死亡させること、その健康に重大な危険を及ぼす行為、捕虜に対する復仇(ふっきゅう)措置は禁止される。また、捕虜は常に保護され、特に暴行や脅迫、侮辱、公衆の好奇心から保護しなくてはならない(13条)。抑留国は、健康な捕虜を労働者として使用することができるが、軍事的性質・目的を有する労働や不健康または危険な労働に使用してはならない(49~52条)。捕虜は、敵対行為が終了した後は遅滞なく解放し、送還しなければならない(118条)。

4.文民の保護

文民とは、一般には戦闘員以外の者をいう。しかし、法的保護の対象としての文民の範囲は、そのように一義的・確定的なものではなく、条約によって異なっている。占領地における文民の保護についてはハーグ陸戦規則に若干の規定がみられたりするが、独立した条約としては、1949年のジュネーヴ文民条約(第4条約)が最初となる。文民条約が保護対象とした文民(被保護者)【限定された範囲の文民】とは、第2編の「戦争の影響に対する住民の一般的保護」を除き、①紛争当事国の領域および占領地域内にいる敵国民、②同様の状況下で通常の外交代表を駐留させていない中立国・共同交戦国の国民(つまり、自国の外交上の保護を享有しえない者)、である(4条)。同条約では、被保護者はその身体、名誉、家族として有する権利、宗教上の行事・習慣を尊重される権利を有し、常に人道的に待遇されなければならず、女子は名誉に対する侵害から特別に保護されなければならないと規定される(27条)。また、被保護者には紛争当事国の国家的利益に反しない限りその領域を去る権利を認められ(35条、48条)、占領地では被保護者を占領国の領域または他の国へ強制移送・追放することを禁止している(49条)。

さらに、1977年の第1追加議定書は、これらの保護措置を強化し(72条、74~78条)、また、保護対象の範囲(要件)を無国籍者・難民に拡大した。

紛争当事国領域内にある「一般住民」【自国民も含む広義の文民】については、文民条約はその第2編において、傷病者、妊産婦、児童、文民病院等に関する「一般的保護規定」を設定したのみであるが、第1追加議定書では、文民条約を補完する詳細な規定が設定されている(例えば、一般住民は軍事行動から生じる危険に対し一般的保護を享有[48条、51条]、一般住民の生存に不可欠なものの保護[54条]、一般住民に対する救済活動[70条]等)。

Ⅳ.武力紛争法の履行確保

1.さまざまな履行確保手段

敵戦闘員に対する殺傷行為等を英雄視する極めて特殊な状況下で、いかにして武力紛争法を遵守させるか。つまり、武力紛争法の履行確保の問題は、武力紛争法における最大の課題といえる。履行確保の手段には以下のものがある。
(1)戦時復仇
戦時復仇(ふっきゅう)とは、相手国の武力紛争法違反を停止させ、同法を遵守させるために、自らも武力紛争法違反で対抗することであり、その違法性は阻却される。ただし、充たすべき要件として、相手国への事前の警告、ほかに手段がないこと、相手国の先行する違法行為と均衡がとれたものであること、という要件がある。戦時復仇は、一定の有効性があると同時に、自らの復仇に対する相手国からの更なる復仇という悪循環(復仇の連鎖)の危険性もあり、ジュネーヴ4条約や第1追加議定書を通じて大幅に制限されてきている(第1条約46条、第2条約47条、第3条約13条、第4条約33条、第1追加議定書51~55条)。しかし、現在においても、条約の被保護者ではない戦闘員に対しての復仇は認められると解される等、戦時復仇は完全に禁止されているわけではない。
(2)戦争犯罪の処罰
戦争犯罪の処罰は現在でも有効な履行確保手段である。これには、①交戦国の国内裁判に基づく伝統的な戦争犯罪(交戦法規違反である「通例の戦争犯罪」)の処罰、②国内裁判所による「ジュネーヴ諸条約の重大な違反行為」(殺人、拷問、非人道的待遇[生物学的実験を含む]等)に対する処罰、③国際刑事裁判所よる戦争犯罪の処罰(後述)、等がある。②の処罰についてであるが、ジュネーヴ4条約は、各条約の定義する「重大な違反行為」への対処として、締約国に「自国の裁判所で処罰するか、関係国に引き渡すか」のいずれかを行う義務を課し、重大な犯罪者をもれなく確実に処罰するべく普遍的管轄権を設定した。
(3)利益保護国・赤十字国際委員会と国際事実調査委員会の役割
利益保護国とは、紛争当事国の利益保護に当たる中立国のことである。利益保護国の制度は、紛争当事国が指定した利益保護国の協力と監視の下で法の適用を確保するものである。ジュネーヴ4条約(第1~第3条約各8条、第4条約9条)および第1追加議定書(5条)はこの制度を設定しているが、紛争当事国が紛争当事者であることを認めたがらないこと、利益保護国を探すことの困難さ等の理由から、あまり有効に機能してきていない。利益保護国が任命できない場合には、赤十字国際委員会(ICRC)等が代理を行うことができ、ICRCは実際に機能している(第1追加議定書5条)。
また、第1追加議定書に設定された国際事実調査委員会は、ジュネーヴ4条約および第1追加議定書の重大または著しい違反の事実調査や周旋(しゅうせん)(紛争当事者間の話し合いを促進するために第三者が仲立ちを行うこと)を任務とするもので、注目されているが、実際に活動を行うまでには至っていない。

2.2つのタイプの国際刑事裁判所

(1)臨時の国際刑事裁判所
第2次世界大戦後、戦争犯罪の処罰については、国際的な裁判所を設置し、処罰するという試みも行われるようになった。初の試みは、同大戦の直後に連合国が設置したニュルンベルク国際軍事裁判所(ドイツの戦争指導者処罰)と極東国際軍事裁判所(日本の戦争指導者処罰)によるものであり、両裁判所は、通例の戦争犯罪に加え、「平和に対する罪」と「人道に対する罪」についても処罰対象としている。
また、米ソ冷戦終結後、地域紛争が続発し、そこで生じた国際人道法(武力紛争法)の重大な違反等に対処する必要性から、国連安保理は、国連憲章第7章下の強制措置(非軍事的措置)として、旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY、1993年設置)とルワンダ国際刑事裁判所(ICTR、1994年設置)を設立した。両裁判所は、処罰対象の犯罪につきその遂行された地域や期間が限定される等の「臨時」の性格を有するものである。
(2)常設の国際刑事裁判所
臨時の裁判所ではなく、常設の裁判所として設立されたのが国際刑事裁判所(ICC)である。同裁判所は国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程(2002年発効、日本は2007年に加入)に基づき設立されたものであるが、同規程は、対象犯罪を、①集団殺害犯罪、②人道に対する犯罪、③戦争犯罪、④侵略犯罪としている。また、当該犯罪がいずれの国の国内裁判所でも処罰されない場合に、ICCが裁判を行い処罰するという「補完性の原則」が採用されている。

Ⅴ.国連体制と中立

1.伝統的な中立制度

戦時国際法の下では、各国は、戦争状態が生じた場合には、中立(戦争に参加しない地位・立場)を選択するかどうかを決定する自由、つまり、「中立の自由」を有していた。中立国(中立を選択した国家)と交戦国との関係は依然として「平和関係」にあり、中立国は、交戦国に対して「平時国際法上の権利」(領土保全を要求する権利等)を有していた(当該関係は中立法により規律)。
他方、交戦国間は戦争状態となっているため、その関係から、中立国は、平時国際法上の義務のみならず、特別の義務(①避止義務②防止義務③黙認義務)を有することとなる。
避止(回避)義務とは、中立国は交戦国に対して戦争遂行に寄与する援助を直接的のみならず間接的にも与えてはならないとする義務である。
防止義務とは、中立国は、自国の領域が交戦国の戦争遂行のために利用されないように防止するという義務である。
黙認(受忍・容認)義務とは、中立国は、自国民が交戦国の戦争遂行によって一定の不利益を受けること(公海上での戦時禁制品の臨検・捕獲等)を黙認しなければならないという義務である。

2.国連体制と中立

中立制度は、対等な交戦当事者という「無差別戦争観」を背景に成立した制度である。武力行使が違法化された国連体制下では、中立制度は全く成立する余地はないのであろうか。つまり、現在の武力行使のあり方は、「違法な武力行使」(武力不行使原則違反の武力行使)と「合法な武力行使」(武力不行使原則違反の国家に対する自衛権行使または国連の軍事的措置としての武力行使)の対抗関係しか存在せず、中立はありえないと考えるべきかという問題である。

たとえば、国連の集団安全保障体制の枠組みに基づき、安保理が有責国を認定し強制措置として非軍事的措置(国連憲章41条)を発動する場合には、国連加盟国は、法的に中立の立場をとることは許されない。しかし、軍事的措置の場合には、国連憲章43条の特別協定(加盟国と安保理との間で国連軍〔警察力〕としての兵力をどれくらい提供するかを事前に取り極めておくもの)が存在しない限り、加盟国が兵力を提供する義務は存在しないことになり、ここに、中立の議論の余地が生じる。

さらに、国連憲章39条の認定(有責国の行動または一定の事態について安保理が「平和に対する脅威」、「平和の破壊」、「侵略行為」のいずれかに該当することを認定すること)がない場合、同39条の認定はあるが有責国が特定されない場合などについても、中立の議論の余地が生じることとなる。

【参考文献】
 杉原高嶺『国際法学講義〔第2版〕』(有斐閣、2013年)641-665頁
 森川幸一「第24章 武力紛争法」柳原正治=森川幸一=兼原敦子(編)『プラクティス国際法講義〔第3版〕』(信山社、2017年)412-428頁
 柳原正治『放送大学教材 国際法』(放送大学教育振興会、2015年)194-207頁
 森田章夫「第18章 武力紛争法と軍備管理・軍縮」小寺彰=岩沢雄司=森田章夫(編)『講義国際法〔第2版〕』(有斐閣、2013年)504-526頁
 杉原高嶺「第14章 5『武力紛争法』、6『中立制度の地位』」杉原高嶺ほか『現代国際法講義〔第5版〕』(有斐閣、2017年)446-464頁
 田中忠「武力規制法の基本構造」村瀬信也=奥脇直也=古川照美=田中忠『現代国際法の指標』(有斐閣、1994年)290-334頁
 藤田久一『国際人道法〔新版・再増補〕』(有信堂高文社、2003年)
 村瀬信也=真山全(編)『武力紛争の国際法』(東信堂、2004年)
 石本泰雄『国際法の構造転換』(有信堂高文社、1998年)
 佐藤庫八『「日露陸戦国際法論」を読み解く-武力紛争法の研究-』(並木書房、2016年)
 真山全「核兵器使用・威嚇の合法性の判断-核兵器使用・威嚇の合法性事件(国連総会諮問)」小寺彰=森川幸一=西村弓(編)『別冊ジュリスト204号 国際法判例百選〔第2版〕』(有斐閣、2011年)230-231頁

著者:戸田 博也
【現在】千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 准教授
【最終学歴】慶應義塾大学大学院 法学研究科 公法学専攻 博士課程 単位取得満期退学
【専門分野】国際法学、安全保障、国際連合、経済制裁

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