あの記者会見はこう見えた!
石川慶子氏
最近の記者会見でとても気になることがあります。全体的に長時間にわたることが多いということです。吉本興行社長の5時間半、関電の断続的6時間会見、そして神戸市教育委員会の4時間。説明すべきことを事前に整理できていればここまで長くはなりません。いじめ問題は誰にとっても身近な問題です。危機管理とリスクマネジメントの観点から考えましょう。
時系列整理の重要性
2019年10月9日、神戸市内の小学校で教員間いじめ問題について神戸市教育委員会が記者会見を行いましたが、私がもっとも残念に思ったことは、経緯の説明でした。なぜなら、肝心なことが抜けていたからです。
神戸市教育委員会が行った最初の説明を解説します。被害教員は9月2日始業式から出勤できていない、理由は、中核教員から長期間パワハラを受けていたことが原因である、どのようなパワハラであったかの内容、被害者は複数いる、調査は継続中である、4名は公務から外している、10月7日から新体制になっている、子どもたちのケアをする、といった経緯について約7分間校長から説明がありました。この後質疑応答となりましたが、案の定、最初の質問は、「校長が最初に把握した時に、加害教員、被害教員それぞれどういう聞き取りをしたのか」。そして記者からの質問が次々に飛んできます。「各教員はどう言っているのか」「教育委員会にはどのような報告をしたのか」。
2時間経ったところで、司会からそろそろ切り上げたいと申し出たところ、報道陣から拒否されて、結局4時間行われました。
質疑応答で明らかになったのですが、校長が把握したのは7月上旬。それならば、そこから現在までどのようにトップとして行動してきたのかを説明する必要がありました。危機管理広報(クライシスコミュニケーション)は、経緯説明が最も重要です。ここでの経緯とは、よく誤解されるのですが、起きるまでの経緯ではなく、「知ってからどう行動したか」の経緯です。そして、この行動を時系列で整理すると、どこで判断を誤ったのか、その原因に迫ることもできます。ここが不明瞭であると、いつまでも本質に迫ることができません。今回はこの経緯が不明瞭であるために質問が何度も繰り返されて長引いたのといえます。しかしながら、報道陣も4時間の割には踏み込んだ質問が今一歩足りないと感じました。
判断を誤った部分に迫る
この問題の核心は、トップが知ってからの行動です。「教育委員会は相談しにくいのか」「なぜ、解決済みと報告したのか」「なぜ、詳細を報告して相談しなかったのか」。これらの質問は切り込み方としてはよいと思いましたが、その前に質問して明らかにしてほしかったことは、「加害教員は被害教員に謝罪したのか」。この質問が出てこない。
被害者がいる場合のクライシスは、加害者が被害者に謝罪することだからです。加害者が被害者に謝罪し、深く反省することが、危機発生時には最も重要な初動です。しかしながら、ここが抜けてしまうことが意外と多いのです。理由は、被害者が「言わないでほしい。悪化するから」という訴えがあるからですが、ここは厳しく迅速に行動することが重要です。加害者に個別指導する、全体に指導する、といったことでは解決しないのです。「謝罪させたのか」「なぜ謝罪させなかったのか」「謝罪させたから解決したと思ったのか」。こういった質問をしてほしかった。
校長が語った言葉「教育委員会に詳細を報告しなかったことが今回の原因として大きいと感じます。その意味で私には責任がある」。これは正直な責任表明ですが、「教育委員会は敷居が高くない」「解決したと思っていなかった」ということであれば、なぜ詳細報告しなかったのか、余計に謎は深まります。報道陣はよいところまではいきましたが、この最後の踏み込みの質問が足りなかった。判断を誤った時の心情を明らかにすることが、再発防止、リスクマネジメントの道を開きます。記者会見はそのような役割も果たすべきです。
私は教員研修センターで6年間約5000人の管理職にリスクマネジメント研修を行ってきました。また、教育委員としても4年間務めました。その経験からの推測ですが、校長は「加害教員は学校で中核的な存在。信頼があった」という表現をしたことから、自分が通報することで加害教員には傷がついてしまうと考え、詳細を報告しなかったのではないでしょうか。「有能な人に対しては、多少悪いところは目をつぶる」、こういった考えは誰もが陥る心理です。その一瞬の迷いが判断を鈍らせ、トップとしてすべき行動ができず、今回の結果をもたらしたのではないかと思います。先を予測する力が不足していたといえるでしょう。最悪を予測することがリスクマネジメントの肝であることを改めて感じました。
【参考サイト】
記者会見動画 ノーカット
https://www.youtube.com/watch?v=D9bfBwrLuIw