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第21回 食物アレルギー事故の教訓

毎年年末年始になると必ず思い出すことがあります。私が教育委員をしていた時代に起きた小学校における給食での食物アレルギー事故です。2012年12月20日午後に教育長からかかってきた電話に愕然としたことは今でも忘れられません。私が教育委員になって半年後のことでした。今でも予防できなかった地域の大人としての責任を感じますし、思い出すたびに心が痛みますが、語り継ぐことが風化を防ぐと信じて書き綴ります。

事実が不明でも求められる説明

喘息と重度の食物アレルギーであった小学5年生の児童は、給食を食べた後にアナフィラキシーショック状態となり、小さな命は失われてしまいました。事故直後は何が起きたのかの情報収集と翌日の給食対応での注意喚起に追われていました。教育長の指示はダメージを最小限にするという観点、再発防止の観点からも的確でした。
この間、住民からの通報でテレビ局から「児童が病院に運ばれたとのことだが」と確認の問い合わせが入り、文科省からも夜遅くに教育委員会のマスコミ対応方針について問い合わせが入りました。これからマスコミが殺到する状態になることを説明し、市の広報課と情報共有し、記者対応の応援を依頼すべきと主張。私自身は第一報のメッセージ作成や想定質問作成などの支援をしました。私が教育委員になった時から、教育長は拙著「マスコミ対応緊急マニュアル」を入手しており、「子供の数は単なる数ではない。命の数だ。何としても守りたい」と危機管理意識が高い方でした。

翌日お昼にNHKから第一報が流れ、その後マスコミからの問い合わせが相次ぎました。情報がまとまらないため引き伸ばしを試みましたが、広報課が記者クラブとの攻防の末、夜7時に教育会館で記者会見をせざるを得なくなりました。担任も校長もショックで聞き取りができていない状態、事実が把握しきれない状態での記者会見に躊躇はありましたが、哀悼の意を表すこと、経緯と原因を究明する姿勢を見せること、調査結果を公表することを3本柱とするメッセージとする方針としました。

非言語コミュニケーションも重要

会見直前で最も苦慮したのはスポークスパーソンの表情でした。ダメージを受けていることはその姿を見ただけでわかるのですが、顔には笑みが浮かんでしまうのです。多くの場合人は追い込まれた状況、悲しい場面で顔が引きつったようになり笑みに見えてしまいます。会見直前にアドバイスして訓練したことは、「笑みが浮かんでいます。奥歯を噛めば自然と表情が引き締まります」。この時点で回答できることは殆どないので、この場での目的は「事実を直視し、真剣に向き合っていることを表情で伝えること」でした。このようにクライシス・コミュニケーションは説明責任だけでなく、表情などの非言語コミュニケーションも重要な要素となります。

再発防止の全国発信

年が明けて市の教育委員会は1月上旬に2回目の記者会見を行い、事故検証委員会設置方針を発表しました。2013年3月、検証委員会が報告した書類から当日の出来事を振り返ってみます。児童がおかわりをしたのは12時50分、児童がアレルギーであることを認識していた担任は「大丈夫か」と聞き、児童は自宅から持参したメニューを見せて「今日はマーカーがついていないから大丈夫」と返事。担任は自分の除去食一覧を確認せずにおかわりをさせました。その後、児童が「気持ち悪い」と担任に訴えてきたのは13時22分、担任はアナフィラキシーショックを疑い、24分に児童のランドセルからエピペンを取り出し、「これを打つのか」と聞きましたが、児童は「違う、打たないで」と訴えました。養護教諭が駆け付けたところで、31分に担任は救急車を呼びに行き、その足で栄養士に確認し、おかわりさせていけなかったことを認識。母親に電話し、すぐにエピペンを打つように要求され、急いで児童のところに戻りました。この間、養護教諭が児童を介抱。児童が「トイレに行きたい」と言ったため、養護教諭がおんぶで移動。急激に児童の様子が悪化し、AEDの準備を養護教諭が叫びました。校長が駆け付けたのが13時36分。そこでエピペンを打ちました。AEDも試みましたが心肺停止に。児童が気持ち悪いと訴えてから、わずか14分間の出来事でした。

委員会は事故要因を①調理員が児童にどれが除去食か明確に本人に伝えていなかった、②担任がおかわりの際に除去食一覧表を確認しなかった、③保護者が児童に渡したメニューに除去食を示すマーカーをしていなかった、④担任がエピペンを打たずに初期対応を誤った、⑤養護教諭がエピペンを打たずに初期対応を誤ったこと、としました。

市ではその後、再発防止検討委員会を設置してあらゆる対策を提言。教員だけでなく保護者も参加できるエピペン講習会、アレルギー対応調理場の設置や給食時確認の仕組み作り、全都道府県での講演活動を行いました。多くの場合、自分達の失敗を語ることには消極的ですが、過去から逃げない姿勢こそが最も大切なことではないでしょうか。起こってしまった事実に向き合い、再発防止の行動を起こす道筋をつけるまでが本当の意味でのクライシス・コミュニケーションになります。

<参考>
事故検証委員会報告書
http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1363069358235/index.html

再発防止検討委員会報告書
http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1374573718502/index.html

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