あの記者会見はこう見えた!
石川 慶子氏
2018年10月19日、免振・制振用ダンパー最大手のKYB株式会社が国交省で記者会見を開きました。改ざん建物が1000件近いこと、長年の不正であったことから大きな衝撃が走っています。免振・制振用オイルダンバーの検査工程においてデータを改ざんした動機、発覚経緯、現在の状況について記者から厳しい質問を受けました。前半は事実確認、後半は原因や企業風土、内部告発後からの対応について質問が飛び交いました。今回は会見の運び方ではなく、会見で明らかになったことからリスクマネジメントのあり方を考えたいと思います。
社員が嘘に耐えられない時代
今回明らかになったいきさつは、2018年8月、KYBグループ会社の1社カヤバシステムマシナリーの社員からの内部告発でした。それを受け、社内調査を実施してデータ改ざんを禁止したのが9月8日。国交省への報告が9月19日。KYBホームページでの発表が10月16日。記者会見は10月19日。「本人に聞けばすぐわかるんだから調査にこれほど時間がかかるわけがない」といった質問については、しどろもどろでした。実際のところ、調査はすぐに終えて、公表するかどうかですったもんだしていたのでしょう。
内部告発した社員は組み立て担当ですでに退職しているとのこと。私たち一人一人は小さな存在であっても会社は、歴史はこのような勇気ある一人の人の判断と行動で作られていくのではないでしょうか。彼は自分の仕事に誇りが持てなくて苦しかったのだろうと思います。
退職覚悟の社員が出てくるまで明らかにされなかったという点が残念です。会社が社員の正義感に屈する形になったのでしょう。おそらくこれまでも内部告発はあったのではないかと予測しています。これから第三者委員会が設置される可能性があり、ここに至るまでの真実が明らかになることでしょう。
他社を教訓としないのはなぜ?
不正はなぜ放置されたのでしょうか。
- 不適合製品の分解と調整には5時間かかるからその作業をしていると計画をキープできないと判断した
- データ紛失については、2000年以前の初期の頃は紙媒体で記録していたから記録がない。最近のデータも係数を入力したかの判定ができなかった
- 検査従事者を教育していたが、定期的システム的に検査の健全性をチェックする仕組みがなかった
KYBは、1919年創業。東証一部上場企業で、売上高は連結で約4000億円、社員は14,000人以上。これだけの大企業でありながら、データ記録、検査システム、チェックシステムができていない。データ改ざんは他社で続出しているにもかかわらず、なぜ検査のデータ化、自社チェック、体制作りをしなかったのでしょうか。従来の慣習のまま仕事をしていたとしかいいようがありません。
これだけ改ざんが続くと、日本は検査記録後進国ではないかと疑ってしまいます。今から10年以上前ですが、BtoB上場企業が集まった危機管理広報研修でこのような質問がありました。「業界の慣習でずっとしているある不正ぎりぎりのことがあります。発表したら会社は倒産します。それでも開示するべきですか」。私からの提案は、「1社ではなく業界全体で一斉に謝罪してください」。こうゆうところは知恵や工夫をしてもいい。
参考
KYBホームページ
https://www.kyb.co.jp/
THE PAGE
https://www.youtube.com/watch?v=dL0CEvCOWzI
MONOist
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1810/22/news073.html
著者:石川慶子氏
有限会社シン 取締役社長 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事 公共コミュニケーション学会 理事 日本広報学会 理事 公式ページ:http://ishikawakeiko.net/ 詳しいプロフィールはこちら |