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第33回 ゴーン事件は日本版司法取引の広報か

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

2018年私がもっとも着目したのはゴーン事件で検察が繰り広げた日本版司法取引の広報戦略です。うまいとしかいいようがない。会見を開かず世論からの注目を集めることができました。今回はこの司法取引と広報戦略のあり方について考えてみます。

「司法取引」認知活動か

日本版司法取引とは、他者の犯罪の解明に協力する見返りとして自分の刑事責任減免を受けられる仕組みで、2018年6月に導入されました。1号案件は、三菱日立パワーシステムズのタイの発電所建設をめぐる贈賄事件でしたが、「会社」として司法取引を行い、「社員」が起訴されるという構図は納得がいかない印象を受けました。一方、ゴーン事件の場合には、会社を私物化するカリスマ経営者を社員が告発するという構図となったため大変わかりやすい。日経新聞の報道を追いかけながら「司法取引」の広報戦略をみてみましょう。

―「ゴーン会長が海外子会社に自宅を購入させている」。ゴーン会長の不正行為の解明の突破口となったのは半年ほど前、日産社内から寄せられた内部通報だった。・・・・・(略)その後、外国人の専務執行役員らと特捜部が司法取引で合意。カリスマ経営者ら2人が逮捕に追い込まれた。専務執行役員らが取引に応じた理由には、自身の刑事処分の減免につなげる目的があったという」(日経新聞11月21日)―

内部告発は社内でなされてその後調査が始まったということは、内部通報は機能していたことになり、この点では日産はチェック機能は果たしたことになります。「その後」という表現から、最初から側近が司法取引ではなかったということになりますが、この点はまだ明らかになっていません。この記事によると司法取引をしたのは外国人の専務執行役員。知っていて止められないとなると共犯になりますから、そこで司法取引となったのでしょう。

その後、12月21日にゴーン元会長が保釈されるかと思いきや、再逮捕。その時報道されたのは下記。

-今回の逮捕容疑は、日産の内部調査では突き止められず、特捜部の捜査によって判明。司法取引で合意した日本人の幹部社員の証言や提出資料が重要な役割を果たしたという。幹部社員は秘書室長としてゴーン元会長を長年支えた側近だった(日経新聞12月22日)-

この報道から司法取引は先の外国人専務執行役員だけでなく、日本人幹部を含めた複数であることが予測できます。この中に西川社長や法人としての日産も入るのでしょうか。私の最大の関心事は、そこにあります。このように明確でないとずっと疑問を持ち続けるので毎回記事に目を通し探すという行為が生じ、司法取引への関心は高まります。関心を持たせるための手法として情報を小出しにするやり方は実にうまく認知活動は確実に成果をあげているように思います。

公式発表のあり方は?

では、私たちはこの「司法取引」についてどのような形でどこまで知る権利があるのでしょうか。日経新聞の場合を追いかけてみましょう。12月16日に「日産の司法取引、いつ内容公表か、米と異なる制度」とする記事を出し、「これまでの関係者の話によると、日産の専務執行役員らが東京地検特捜部と司法取引で合意。刑事処分の減免を受ける見返りに受領を先送りした報酬をゴーン元会長の退任後に支払うと確約していた文書の提出に応じたとみられる。・・・・・(中略)だが、今のところ、誰が、いつ、どんな合意を結んだのかについて、特捜部からの公式発表はない」と報道。

公式発表のなさへのいらだちなのか、翌日17日には、フィナンシャルタイムズ14付けの記事を転用し、今回重要な証拠書類を提出して司法取引をしたハリ・ナダ専務執行役員について報道しています。この固有名詞を出した報道には驚きました。

-検察に協力した2人の中心人物のひとりであるナダ氏は日産に28年間勤務し、ゴーン氏と後任の西川広人社長兼CEOに仕えている。ゴーン氏の報酬の過少記載や会社資金を私的流用したとする日産の主張の裏付けにつながる重要な情報を提供した。(中略)ナダ氏がいつごろゴーン、ケリー両氏の決定に疑問を持ち始めたかは不明だが、18年初夏には内部調査の結果が検察に伝えられる前に、初期の段階で調査を率いていた社内監査役トップと情報を共有していた」(・・・・・・中略)「(ナダ氏は)自分が腰を上げずにいる間に、問題がどんどん大きくなっていくことに不安を感じていた」と捜査内容を知る人物は語る。また、元同僚は「(同氏が)あまりにも多くを知りすぎてしまい、ひとりで背負いきれなくなった」と述べた。(日経新聞12月17日)-

先の報道と一致します。内部監査が先行し、その中でナダ氏が重要な情報を提供していったということになります。となると、きっかけとなったのは最初に内部通報した別のある人物がいたことになります。「検察に協力した2人の中心人物」のうちの一人は最初に内部通報した人なのでしょうか。あるいは別の人物なのでしょうか。いずれにせよ、ナダ氏以外の名前はわかりません。ナダ氏の名前公表に踏み切ったのはなぜなのか。非公式に本人の了解を得たか、人々に知る権利があると判断したか。個人のプライバシーと知る権利、今後も意見は分かれますが、報道機関も独自の観点から各社が判断して報道するかどうか決めていくのでしょう。

フィナンシャルタイムズはこれらの情報について、取材した先とコメントしてない先を明記しています。情報源は、日産の社員や退職者、弁護士、検察と直接つながりを持つ人物や捜査内容を知る関係者。コメントしていないのは、地検、日産、ゴーン氏弁護人となった大鶴基成弁護士。いずれにせよ、企業の広報としてはどこから何が飛んでくるか全くわからない状態ですから、何を公式コメントとして出していく方針が明確にする必要があります。今のところ、日産の本件に関するプレスリリースは下記の4回、記者会見は2回となっています。

11月19日 当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について、当日西川社長記者会見
11月22日 取締役会の決議事項(ゴーン氏の会長職等解任決議)
12月10日 当社に係る金融商品取引法違反について(ゴーン元会長および日産が会社として起訴されたことを受けて)
12月17日 ガバナンス改善のための特別委員会設置、当日西川社長記者会見

検察の公式発表のないリーク方式、報道による司法取引者の個人名報道、企業の公式コメントのあり方など、比較することで見えてくることがありそうです。今後も注視していきたいと思います。

参考
日経新聞 11月21日 2例目の司法取引 外国人執行役員ら協力
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37998330Q8A121C1EA2000/?n_cid=SPTMG053

日経新聞12月16日 日産の司法取引いつ公表?
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO38940670U8A211C1TM3000/

日経新聞12月17日 日産内戦、ゴーン氏に反旗を翻した側近(12月14日付けフィナンシャルタイムズ)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39029050X11C18A2000000/

日経新聞12月22日 ゴーン元会長再逮捕、日産から16億円流出か
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39285720R21C18A2MM8000/

日産プレスリリース
https://newsroom.nissan-global.com/releases?lang=ja-JP

著者:石川慶子氏

有限会社シン 取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事
公共コミュニケーション学会 理事
日本広報学会 理事
公式ページ:http://ishikawakeiko.net/
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