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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第65回有望な青少年の研究活動

1.はじめに
好奇心の旺盛な青少年が、様々な現象を観察して、自分なりに感じた疑問を色々と調べている内に、思いがけないことを発見することがあります。また、誰も思いつかないことを真剣に考えて、あれこれ試している内に、発明に値するよう考案をすることもあります。本稿では、従来の知識の多さと確かさで学力を評価する学校教育から離れて、未知の領域を開拓する有望な青少年の研究活動に焦点を当てることにします。

2.未来の科学の夢絵画展
発明協会では、我が国の次代を担う青少年に「未来の科学の夢」を自由闊達な発想で絵に描かせることにより、科学的な探究心と創造力の伸長を図ることを目的として、未来の科学の夢絵画展を毎年開催しています。本稿では、昨年開催された第41回未来の科学の夢絵画展受賞作品の内、小学校・中学校の部で文部科学大臣賞と経済産業大臣賞と特許庁長官賞の3点を紹介することにします。

3.インテル国際学生科学技術フェア
毎年5月に科学のオリンピックと呼ばれるインテル国際学生科学技術フェアで、昨年は掛川西高自然科学部の岡本優真さんと塚本颯さんが、日本初というアリゾナ大学賞受賞という快挙を成し遂げました。
「ふじのくに」(静岡県公式ホームページ)の「県民だより2019年9月号」というサイト中、「ふじのくにいきいきLIFE」(令和元年8月30日更新)と題するウェブページでは、「大空から採取したDNAの研究で世界に羽ばたく!」という見出しの下に、以下のように記載されています。
【引用者註:写真と説明は抜粋】
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今年5月、世界的な科学コンテスト「インテル国際学生科学技術フェア2019」(米・アリゾナ州)で「優秀賞2等」と、特別賞「アリゾナ大学賞」を受賞した掛川西高自然科学部の岡本優真さんと塚本颯さん。アリゾナ大学賞受賞は日本初という快挙を成し遂げた2人の研究は、空気中に含まれるフクロウなどの鳥類のDNAを採取するというもの。世界でほぼ初となるユニークな発想と手法が高く評価された。

自然科学部の部員は現在33人。「環境DNA」と呼ばれる分野を中心に、フクロウ、お茶、トンボなどテーマごとにチームを作り、ほぼ毎日研究に励んでいる。部室には必要な設備が整っており、大学や企業レベルの高度な実験も行われる。
同部は過去にも「カケガワザクラ」など地域に根差したテーマを扱っており、塚本さんによると、今回の研究も「フクロウが近所の掛川城にいるかもしれない」という着想から始まったそう。また、1、2年生を中心にAIを使った新たな領域の研究も始まっており、こちらにも大きな期待が寄せられている。
「研究は地道で試行錯誤の連続ですが、自分たちの成果を発表する時が最大の喜び」と語る岡本さん。高校生たちのひらめきと小さな努力の積み重ねが、やがて人類に大きな飛躍をもたらしてくれるかもしれない。…(中略)…


フクロウのDNAを採取する吸引装置    部員がDNAの増幅実験を行っている様子

いきいきメッセージ【引用者註:顔写真省略】
3年生部長
岡本優真(おかもとゆうま)さん
前例も正解もない手探りの研究だからこそやりがいがありました。将来はこの経験を生かし、生物と工学をつなぐような研究をしてみたいです。
3年生
塚本颯(つかもとそう)さん
実験では苦労もたくさんありましたが、成果につながって嬉しいです。培った技術を後輩にも伝えていきたいと思っています。
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(https://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-110b/201909/ikiiki/index.html)

4.高校生ビジネスプラン・グランプリ
日本政策金融公庫が主催する『高校生ビジネスプラン・グランプリ』の第5回で、愛媛県立長浜高等学校のチーム・ニモが準グランプリを受賞した「クラゲ予防クリームの開発」と題するプランの実用化について、朝日新聞デジタル版の「高校生がクラゲ撃退クリーム開発 きっかけは先輩の疑問」(2019年5月6日15時27分配信)と題する記事では、以下のように報じられています。
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愛媛県立長浜高校(愛媛県大洲市)の水族館部が、肌に塗るとクラゲに刺されるのを防ぐとされるクリームを静岡市の化粧品会社「エイビイエス」と共同開発し、4月末に販売が始まった。部の先輩が残した研究成果を受け継ぎ、商品化に結びつけた。サーフィンやダイビングのプロショップを中心に販売を進めていく。
発売したのは「ジェリーズガード フェイス&ボディクリーム」(100ミリリットル、税別2400円)。法令上の関係で、クラゲ予防の効果は明記していない。販売による収益の一部は、部員らが地域に公開している「長高水族館」の運営などにもあてられる。
商品化のプランは、全国の高校生が起業のアイデアを競う「第5回高校生ビジネスプラン・グランプリ」で準グランプリに選ばれたものだ。当時2年生だった重松楽々⁽らら)さん(18=現在は大学生=ら2人が受賞した。…(中略)…
商品開発案に用いた実験データは、先輩部員から代々受け継がれてきた。重松さんの先輩は、カクレクマノミがイソギンチャクに刺されないことに疑問を抱き、カクレクマノミの体表の粘液に含まれるマグネシウムが影響していることを突き止めた。さらに、イソギンチャクと同じ刺胞動物で人が刺される被害の多いクラゲに着目し、マグネシウムイオンがクラゲの毒針発射を防ぐことも調べた。
開発したクリームはこの研究成果を応用。先輩が使っていた「チーム・ニモ」の名前を後輩が受け継ぎ、クラゲを使って実験を繰り返し、塩化マグネシウムや塩化カルシウムの最適な配分比などを探っていった。
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(https://www.asahi.com/articles/ASM4Z5X33M4ZPFIB001.html)

5.マリンチャレンジ全国大会
海洋ジャーナリストの瀬戸内千代氏が執筆した「中高生科学コンペ、優勝は『トビハゼの転がり』研究」(「サステナブル・ブランド ジャパン」HP 2018.04.02掲載)と題するニュース記事では、以下のように報じられています。
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日本財団と研究者集団のリバネス(東京・新宿)は、中高生の海・水産分野・水環境に関する研究を支援する「マリンチャレンジプログラム」事業を始めているが、3月29日に初年度の集大成として「全国大会」を開催した。選ばれた16チームのプレゼンテーションを科学者らが審査し、トビハゼの行動に斬新な仮説を打ち立てた研究など6チームを表彰した。
かえつ有明高校(東京・江東)1年の田中絢音さんは、魚に右利き左利きがあることを知って魚の行動に興味を持ち、「トビハゼの転がる方向に規則性があるのか」というテーマで友達2人と研究を始めた。
皮膚呼吸できるトビハゼは、干潟を歩いたり跳ねたりしつつ、たびたび泥の上に体を転がす。その理由には「皮膚を乾燥から防ぐため」「排せつを助けるため」「えら呼吸を助けるため」「体温調節をするため」「体表のアンモニアを落とすため」など諸説あるが、同チームは条件を変えて観察を重ね、皮膚を乾燥から防ぐ目的以外の従来の仮説を否定した。
トビハゼを解剖して、胸びれが頭蓋骨に接続している構造は歩行向きでなく、かなり筋肉を使っていると推測。比較的リラックスしている時によく転がる様子から、「ストレッチがしたいから」という新仮説を提唱した。
左右の転がりには規則性が無いことを突き止め、「皆さんも、ストレッチする時に右だけやることはないのでは」と会場に投げかけた。質疑応答で筋肉について研究を深める意欲も見せた同チームは、最優秀賞に輝いた。
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(https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1190356_1501.html)

6.電子情報通信学会
東京都立産業技術研究センターが発行している『TIRI NEWS』という定期刊行物の「TIRI NEWS EYE」というカテゴリー(で掲載された「通信速度が飛躍的に向上“第6世代”の新技術『MARIA方式』」(2018年11月号掲載)と題する記事では、「高校生が発明」という吹き出し付きで、以下のように記載されています。
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■世界の研究者があきらめた変調方式の技術革新に挑戦
発明の舞台は、平成28年に文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」(以下、SSH事業)に指定された神奈川県立横須賀高校。携帯電話の研究機関である(株)横須賀テレコムリサーチパークの太田現一郎工学博士の指導の下、入学間もない瀧川マリアさんと原佳佑くんの2名は「プリンキピア」と呼ばれる必修の課題研究で、「携帯電話の歴史と技術」を選択。知識の習得にとどまらない“成果”を求めて、新たな通信方式の開発に挑戦しました。
携帯電話の根幹にあるのは「変調方式」による「周波数利用効率」という、一定の電波でどれだけのデータを送れるかという指標です。しかし、変調方式の権威である科学者シャノンが示した利用効率の上限まで研究開発の余地があるにもかかわらず、変調方式の研究は世界的にストップし、同じ周波数のアンテナを複数実装させる「MIMO技術」の研究の方が盛んに行われるようになりました。このMIMO技術だけでは、いずれ周波数が枯渇してしまいます。そこで瀧川さんと原くんは、改めて変調方式での周波数利用効率の向上を目指すことにしました。
■理論値で10倍の高速化が可能シミュレーターでの検証段階へ
まずは、携帯電話技術の基本であり、相対性理論や量子力学、宇宙物理学の基礎でもあるマックスウェルの方程式を学習。そこに表れる多様な物理量の中で、今までどの研究者も着目していなかった「時間領域」や「負の周波数」に着目しました。「周波数がどう変化するかを表す基本モデルをベースに、時間軸上での『位相の反転』、『時間の反転』、平行移動による『遅延』という三つの細工を組み合わせて、1ユーザーに配分される一つの周波数領域の中で、送信側の回路内に仮想の伝送モデルを設ける方法を考案しました。モデルは10種程度は容易につくれるため、原理的には周波数利用効率が10倍となり、通信速度も10倍になります」(瀧川さん)…(中略)…
MARIA方式は、実はプログラムの書き換えによって第4世代にも適用できる技術とのことですが、第5世代までは国際標準化が完了しているため、その次の世代、「第6世代」として発表。国内特許は出願済みで、海外特許も計画しています。
「生徒たちは、当初は難解な方程式を理解できずに悔しい思いもしました。それでも、決してあきらめず、多様なバックグラウンドを持った人々と交流できる環境の中で、熱いハートを持って頑張れば、高校生でも、とても大きな成果を生み出せることを証明してくれました。中小企業も、決してあきらめず、夢を実現してほしいと思います」(太田先生)
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(https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/9569.pdf)

7.結語
本稿では紹介しきれないほど多数の有望な青少年が、固定観念や既成概念にとらわれず、好奇心の赴くままに観察や探究を行ない、或いはたくましい想像力を発揮して、次々と発明や発見をしていることは、成果主義の導入で大学の基礎研究が疎かになっている現状を改める契機となり、未知の原理や法則を発見して、飛躍的な技術革新をもたらす研究者が育つことを期待したいものです。

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