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  1. あの記者会見はこう見えた 石川慶子
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第45回 2019年不祥事振り返る

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

私が記者会見解説コラムを始めたのは2016年4月からですが、不祥事会見は当協会でリスクマネジメントを学び始めてからずっと追いかけています。記者会見はドラマティックで、会社の広報力、個人の表現力が試される場ともいえます。コンサルする側としてもどこをトレーニングすべきか課題が浮き彫りになります。さて、2019年はどのような年だったのでしょうか。私が注目した不祥事関連の会見をざっと振り返り教訓をまとめます。

とりあえず会見が目立った

私が懸念しているのは、「とりあえず会見」という意識でやっている会見が多いということです。

年頭1月15日、JOC竹田会長五輪招致疑惑で会長による会見が行われました。当初は質疑応答のある会見の筈でしたが、急遽変更となり見解書を7分間読み上げただけの会見となりました。竹田会長は読み終えるとすぐに退出し、残った広報担当者が報道陣に囲まれて火だるまに。急遽内容が変更になることはありますが、7分くらいの原稿は暗記してしっかり記者席を見ながら、気持ちを込めるくらいの丁寧さがあったら印象は変わっていたでしょう。目線合わさないなら公式見解はウェブサイト掲載だけで十分です。

3月6日は、不正支出疑惑で逮捕されていた元日産会長カルロス・ゴーン氏の保釈日。想像もしなかった彼の変装姿は誰もが驚き、そのニュースが世界中を駆け巡りました。ゴーン氏らしくない服装が余計な憶測を生み、報道を過熱させてしまいました。逃げている、隠そうとしているといった悪印象を残してしまったといえるでしょう。数日後、仕掛けた弁護士が「名声を傷つけた」と自らの軽率な策略を謝罪はしましたが、写真は歴史に残ります。とりかえしのつかない失敗であったといえます。どう見えるのか、といった視点に欠けた演出でした。また、再逮捕後に流されたビデオメッセージにも違和感がありました。何を伝えたいのかが不明。しかもこの時にはネクタイをしていませんでした。「公平な裁判を受けたい」をもっと強く出した方が共感を得られたのではないでしょうか。また、公式メッセージであればネクタイをして撮影をすべきでした。

レオパレス21は、施工不備問題に社長が関与していたという内容の中間報告記者会見を3月18日に行いました。記者が中間報告についてどう受け取っているのかを聞いても、「受け取ったばかり、書いてある通り」を繰り返すばかり。会社見解がないのになぜ記者会見をしたのでしょうか。記者会見の目的が不明です。中間報告が出たことの報告だけであればウェブサイトに掲載するのみでよい。

夏にはいくつか注目の会見がありました。まずは、セブンペイ。不正アクセス問題で7月3日にセブンペイ代表取締役社長、セブンイレブンジャパン執行役員、セブン&アイホールディングス執行役員の3名が記者会見を行いました。驚いたのは、「二段階認証」について登壇者が誰も知らなかったようにみえたことです。不正アクセス問題を受けての会見ですから、当然セキュリティについての質問があることを想定してスポークスパーソンを選ばなければなりません。危機感のない態度、表情についても批判的なコメントがありました。ありがちなことなのですが、冷静に対応しようとするがあまり、相手には冷たく、他人事の態度に受け取られることがあります。心と表情が一致していなければ一致させる訓練を事前にする必要があります。

今年最も注目された記者会見の1つである、吉本興業社長記者会見は7月22日でした。所属芸人の闇営業問題。社長としての資質を問う声もありましたが、私から言わせると記者会見の組み立て方が悪かった。書面があるならそれを社長に読ませて質疑応答は理解している人が行っていれば会見は5時間半もかからなかったでしょう。

8月1日から始まったあいちトリエンナーレ2019は、「表現の不自由展・その後」について批判や脅迫、恫喝が殺到。実行委員会会長である愛知県知事、会長代理の名古屋市長、芸術監督のトップ3人が相次いでコメントしたものの、「あの人に任せた」「リスクがあるとしたがそのまま進んでいった」など責任転嫁に見える発言になってしまった点が教訓になります。3人揃って事態を収拾します、と言えたらよかった。結果として過去最高の来場者であったことからするとこれも仕組まれた炎上マーケティングだったのかもしれません。

目的、組み立て方を考えて

ここまで6本の案件を振り返りましたが、皆さんはどう見えたでしょうか。ある会社の研修では幹部の方々が「普段の行動が出てしまうのだな」「見え方を考えたこともない。ただやればいいというのではないことがわかった」「目的が明確ではないとボロボロになる」といった感想がありました。

会見はただやればいいというものではありません。何を守るために会見をするのか、何を伝えるために会見をするのか、何を達成するのか、どんな共感を得るのかと言った目標を明確にすること。そしてそれを達成するために必要な書類の準備、スポークスパーソンスキル訓練(表情、声、服装、態度)も併せて行う必要があります。スポークスパーソンの負担を軽減するために、いつ実施するのがよいのか、全体の組み立て、困った時の対応、質疑応答の捌き方。広報や危機管理担当者には常に研究してほしい。

この後まだ6本のピックアップ会見があります。リクナビ内定辞退率予測データ問題(8月26日)、関西電力の金品受領問題(9月27日会見)、テコンドー協会の会長(10月8日会見)、神戸市教育委員会教員間いじめ問題(10月9日会見)、元TBS山口記者敗訴で会見(12月18日会見)、かんぽ生命不適切販売問題(7月、9月、12月会見)。これらは会員サイトで解説しています。他人事とせず教訓にしていきましょう。

 

前半解説動画 リスクマネジメントジャーナル
http://u0u0.net/SSDk

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