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第36回 ゴーン変装劇、真の問題は

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

2019年3月6日、150人以上の報道陣が待ち受ける中、ゴーン氏は東京拘置所の出入り口に現れましたが、その姿は作業服に白いマスク。乗り込んだ車はスズキのワゴン車。予想外の服装と予想外の車への乗り込みに報道陣は驚き、報道は一気に過熱。8日にはゴーン氏の弁護士がブログで謝罪して収束しましたが、この一連の変装劇の報道には私自身も大きな影響を与えているので、真の問題を考え、教訓をまとめたいと思います。

憶測報道が増えた理由

私が最初に6日のニュースで変装したゴーン氏の姿を見た際に思ったことは、なんという大失敗演出なのか、ということです。堂々と出てくれば、「少しやつれたようですが、足取りはしっかりしています」程度の報道で済んだのに。こんな変装すればなくてもいい報道、不要な報道、憶測報道が流れて印象は悪くなる。危機管理広報における典型的なダメージコントロールの失敗になってしまった。あんな変装はゴーン氏が思いつく筈はない。誰がこんな変装を演出したのだろうか。マスコミ対応のプロがついていないのだろうか。私の関心はもっぱら「誰」があの変装という演出をしたか、といった違う視点からとても興味が湧いてきました。

翌日7日のお昼頃にNHKから「あの変装について危機管理の観点からコメントをいただきたい」との取材が入りました。なぜ変装なのか、失敗なのか成功なのか、どうとらえていいのか、とのことでした。作業服の会社や帽子の会社にあちこち取材に行って、その意味を探ろうと必死でした。私は下記のように自分の意見を述べました。

-ゴーンさんらしくない服装をすることがかえってダメージを広げてしまっています。危機管理の観点からすると、ダメージコントロールになっていない。反対ですね。これまで、無罪を主張して頑張ってきたのに、その気持ちを全て台無しにしてしまうメッセージをあの服装で発信してしまいました。やはり後ろめたいことがあるんだ、隠したいんだ、という心理をあの変装に人々は見てしまいますから。今回は言葉がないから余計に、皆あの服装の意味を理解しようと必死に考えてしまい、結果として憶測報道が増えてしまうのです。ゴーンさんご自身は、堂々と出てくるつもりだったと思います。これまでの無罪主張という強くの気持ちなら、そのつもりだったはずです。おそらく誰かが演出してしまったのでしょう。服装や立ち居振る舞いがメッセージなってしまうことがわかっていない人の入れ知恵ですね。危機管理広報のプロが入っていないことは明らかです。昔の彼であれば、変装の提案があってもそれを蹴っていたと思いますが、長く拘留されることで判断力が鈍っていた可能性があります。あるいは出してくれる弁護士のアドバイスは何でも聞かないといけない、と思っていたかもしれません。ゴーン氏を少し擁護する観点からするなら、彼は外国人なのでこれが日本流か、と思った可能性もあります。ゴーンさんご自身の失敗とするなら、危機管理広報のプロ、あるいはマスコミ対応のプロを弁護団にいれていなかったことではないでしょうか。―

非言語で戦略的メッセージを組み立てる

この解説により、結果として当日夕方収録となり、7日19時、21時、8日朝7時の3回のニュースで私のコメントが流れました。

「明らかに失敗といえる。ゴーンさんらしくない恰好をすることによっていろいろな憶測報道が増えてしまう。無罪を主張するなら、正々堂々と出ることが彼自身を守ることになったと思う」

このコメント編集はさすがです。前述の長い解説を短く編集していますから。
翌日8日には高野隆弁護士が、「失敗だった。私の未熟な計画のために彼が生涯をかけて築いた名声に泥を塗る結果となった」「不測の事態を防ぐための措置だった」とブログで謝罪しました。

高野弁護士の迅速な謝罪はさすがです。彼が名乗り出ることで、変装の理由が明確となり、これにより憶測報道は収束していきます。私も収束に向けて役立ったという実感があります。NHKの影響は大きいからです。このように失敗だったと思ったらすぐに謝罪する、名乗り出るということは大変勇気がいることですが、それによって収束に向かうものなのです。

弘中弁護士が変装劇について「知らなかった。堂々と出るべきという意見もあるが、本人も面白がっていたと聞いている。庶民的というかユーモラスというか、それもありかなという気がする」とコメントしていました。果たしてユーモアを出してよい場面だったのでしょうか。私たち広報のプロからすると、よい情報は小出しにしてユーモアも交えて出していきますが、危機時、批判されている場面でユーモアはご法度です。特に今回はリストラで多くの血を流した日産の社員、家族のことを思えば、ユーモラスな変装で笑いをとる場面ではないのは明らか。弁護団は痛い失敗をしてしまいました。一番注目が集まる場面をどうゆう姿にするか、を設計するべきでした。ゴーン氏の変装は歴史に残る失敗として、写真と共に残ってしまいます。私も残念ながら、危機管理広報における典型的な失敗として繰り返し取り上げざるを得ません。一枚の絵、姿が現してしまう非言語のインパクト、影響を私たちは決して甘く見てはいけないのです。弁護団が、どう見えるとよいのか、危機はチャンスであるとする逆転の発想、非言語での戦略的メッセージ組み立てへの意識や事前討議をしていなかったことが真の問題かもしれません。

参考

高野隆弁護士ブログ
http://blog.livedoor.jp/plltakano/

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