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第32回ゴーンショック

あの記者会見はこう見えた!

石川 慶子氏

2018年11月19日夕刻、「ゴーン逮捕」の速報が流れ、同日22時から日産本社にて代表取締役最高経営責任者西川廣人氏が緊急記者会見を行いました。1時間半に及ぶ会見を一人でこなし、頭を下げなかった西川社長。そして、検察は公式会見を開かず毎日情報をリークして、報道が過熱しています。今回は前半、検察の広報戦略、後半は19日の記者会見を考察したいと思います。

検察庁の巧みなリーク戦略

これまでの報道をざっくりと振り返ります。

11月19日 夕刻ゴーン逮捕の報道
20:37 羽田に降り立った飛行機に乗り込む映像配信(朝日新聞)
日産からプレスリリース、
22時から西川社長会見
11月20日 前日会見内容について各社各様に詳細報道
50億円少なく有価証券の記載
日産子会社を通じて高級住宅購入
11月21日 内部告発者の子会社役員2名、司法取引
11月22日 日産取締役会4時間にわたる会議、全員一致でゴーン会長解任
ゴーン姉に報酬年10万ドル、業務実態なし
11月23日 有価証券未記載で受け取った金銭報酬80億円、8年間で
ゴーン会長の待遇に仏は同情的
11月24日 ゴーン前会長容疑否認「記載は適切だった」
11月25日 退任後の報酬50億円を隠蔽か、日産と契約
11月25日 三菱自動車もゴーン会長を解任
ゴーン前会長3畳ほどの独房で過ごす、健康状態に問題なし
11月27日 取り調べに対しゴーン元会長「合法処理」指示、違法性否定
11月28日 ゴーン元会長が意図的に隠ぺいしたことを立証できるかどうか
11月29日 ゴーン元会長全面対決 記載義務の有無
レバノン大使「元会長は無実」

私が着目したのは2点。1点目は流れてくる情報が小出しであること。日産は最初に記者会見を開いており、その後の報道は関係筋からの情報として流れていることから、報道が過熱するように戦略的に仕組まれているように感じます。
私が思い出したのはライブドア事件。当時のテレビディレクターがこう語っていたのです。「これから乗り込むぞ、と検察から連絡があり、俺たちうまく使われているな、と思ったが、トクオチするわけにいかないから、行ったよ」

今回の舞台は羽田でしたので、さすがに多くの報道陣を呼ぶわけにはいかなかったのでしょう。巧みなのはそれなりにバランスを考えて流していること。逮捕の衝撃、告発会見、不正の詳細小出し、独房の映像と健康状態、ゴーン氏側の反論や主張も流しているからです。

二点目の着目は呼び方。「ゴーン容疑者」「ゴーン会長、元会長、前会長」といった表現に分かれています。「容疑者」は表現として強すぎますが、この言い方で印象がずいぶん変わります。テレビ等は「容疑者」、日経は「元会長」といった表現になっており、そこに各社のスタンスが見えます。少なくとも言い方がばらばらなので少しほっとします。

なぜ頭を下げなかったか

さて、さかのぼって19日の日産記者会見。これは相当な訓練をしたと思われます。私は、危機管理広報のポイントは、タイミング、手法、表現であると日頃から伝えていますが、タイミングと手法については、逮捕、プレスリリース、記者会見と同日中に行っている点はよく考えられていました。ダメージを最小限にするには、最初に会社がどのようにこのクライシスを受け止めているのかをできるだけ早く発信することが最重要だからです。その点では、模範的なタイミングだったと思います。22時という時間はやや遅いのですが、同日中に済ませる、新聞締切1時に間に合わせるためのぎりぎりの時間であったと思います。

冒頭発言は、すでにプレスリリースした通り、ゴーン会長の不正があったと述べ、細かくは解説できないが、断じて容認できない内容であるため、代表権と会長職の解任を取締役で提案すると述べました。内部通報で社内調査を開始した結果明らかになったゴーン会長の重大な不正行為とは下記3点。

  1. 有価証券報告書に記載していた報酬が実際の報酬額を減額していた不正
  2. 私的な目的で日産子会社投資資金を支出した不正
  3. 私的な目的で会社の経費を支出していた不正

検察への情報提供や捜査に協力していることから詳細は語ることができないとしつつも、確証を得ていること、第三者委員会を立ち上げて背景を掘り下げてもらうといった説明をしました。このことから、逮捕は日産からの情報提供で進められたことが明らかであり、会社として十分準備をして開いた会見であることがわかりました。

この不正行為について、株主や関係者への信頼を裏切ることになったことになり申し訳ないという思いを述べつつも、頭を下げることはなく、今の思いについては、残念という言葉をはるかに超えて強い憤りと落胆を覚えていると語りました。

これらの話の組み立てを見ると、これは謝罪を目的とした会見ではなく、会長不正告発会見であることは明らかです。西川氏が伝えたかった思いは、「お詫び」ではなく「強い憤り」でした。確かにここで頭を下げてしまうと共謀であるかの印象を与えてしまうでしょう。

質問さばきのうまさはあったが

西川氏の質問さばきは見事でした。メディアトレーニングの成果は出ていたと思います。ありとあらゆる確度から飛び交う記者からの質問については紋切型ではなかった点がうまさを感じさせます。内部告発から半年ですから、シミュレーションをして想定問答、トレーニングをする時間は十分あったといえます。

その後の報道をみると、「強い落胆と憤り」「負の遺産」「権限集中」と西川社長寄りの報道であったようです。詳細を語っていないにも関わらず、西川氏の思いは伝わり、報道陣を納得させる内容であったといえるでしょう。

具体的なやり取りをみてみましょう。困った質問に対して「回答できない」とそっけなく突き放すのではなく、「捜査中なので回答できることに制限があるが、今言えることは」「その質問についてはこの場で回答することはふさわしくないが、実感としては(個人としては)、」「自分でも整理ができていないのでうまく言えないが」「この表現が適切であるかどうかわからないが」と、言葉をつなげて何とか回答しようとする姿勢があり、丁寧な印象でした。また、「事実としては・・・」「実感としては・・・」と事実と気持ちを分けて回答していたため、わかりやすい。

表情も終始引き締まっており、目線も記者に向けられ、真摯な態度ではありました。が、西川社長のどことなく陰りのある雰囲気はやはり告発者である故だろうかと思いながら見ていました。最後に、外見リスクの観点から一言。気になったのは紫のネクタイ。派手に見えてしまいました。濃紺の細かいドットで公式感を出してほしかったと思います。いや、謝罪会見という位置づけではないから、あえて紫だったのかもしれません。新たな出発をする門出の日という意味を込めていたのでしょうか。

参考
THE PAGE
https://www.youtube.com/watch?v=sA8y-T65SOc

日産プレスリリース
https://newsroom.nissan-global.com/releases?lang=ja-JP

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