第5回 事故調査と再発防止対策のあり方(2)
前回は、事故調査は4Mの観点から総合的に事故の原因および被害に関して精緻な調査が行われるべきであり、そうしないと、再発防止対策の構築は片手落ちなものになることを述べた。事例を通して、さらに、検証してみようと思う。
事例2 三菱化学(株)鹿島事業所のエチレンプラント火災
2007年12月21日、三菱化学(株)鹿島事業所の第2エチレンプラントにおいて火災が発生した。この火災事故は、死者4名を出す大惨事となり、近年の化学装置産業においては稀に見る大事故であった。この火災事故に伴い、茨城県は三菱化学(株)鹿島事業所火災事故調査委員会を設置した。筆者は、この調査委員会の委員長に選任され、2008年5月に調査委員会報告書2)を茨城県へ提出した。
この火災のMachine(機械)およびMedia(媒体・環境)の視点からの原因は、空気駆動弁が開口し、可燃性液体が多量に流出したものであり、技術的には単純なものであった。そして、組織としてのManagement(管理)およびMan(人)の行動に関しては多岐にわたり多くの問題点を指摘した。このため、再発防止対策には、事故の直接的な原因の排除に止まらず、人と管理の面から組織の体質改善を図り、数値目標を定めて安全文化を醸成することに中長期的に取り組む必要がある、とした。三菱化学(株)鹿島事業所は、このことを真摯に受け止め、その後、この再発防止対策に真剣に取り組んでいる3)。
2009年3月、茨城県警は、安全管理の不徹底を指摘し、誰でも防ぐことが出来た火災を起こしたとして、当時の事業所長を含む8人を業務上過失致死傷容疑で書類送検した。これは、4Mの視点において筆者らの事故調査報告書2)に沿ったものであると思っている。
事例3 動力炉核燃料開発事業団のアスファルト固化処理施設火災爆発事故
1997年3月、動力炉核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構)のアスファルト固化処理施設において火災爆発事故が発生した。この事故では、原子力施設の安全確保の上で最も重要な放射線の閉じ込め機能を喪失して、施設内従業員が被爆し、周辺環境を汚染した。このことによって、この事故は、国内における原子力施設の事故として、(株)JCOのウラン加工工場の臨界事故(1999)に次ぐ、2番目に高いレベルに位置づけられている。
当時、科学技術庁に設置された東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故調査委員会は、1997年12月に調査報告書4)をまとめている。この報告書では、Machine(機械)およびMedia(媒体・環境)の視点からの原因究明に関しては一定の方向性は見出してはいるが、Management(管理)およびMan(人間)に関してはほとんど触れていない。筆者らは、その後、Machine(機械)およびMedia(媒体・環境)の視点から詳細な原因探求を行い、Management(管理)およびMan(人間)の問題に起因して不用意に変更された3点の操業条件のうちの2点が事故の生起に不可欠であることを見出した5)。
従って、当時の科学技術庁がこの事故に関してManagement(管理)およびMan(人間)の問題を取り上げ、原子力産業の安全施策に操業条件の変更を強く指摘し、マニュアルからの逸脱に警鐘を鳴らしていたならば、この事故から2年後のJCOウラン加工工場臨界事故は避けられたのではなかろうか、と思えてならない。
図.事故調査の4M(5M)
以上、リスク管理の中の事故調査のあり方に関して、4M(図参照)、すなわち、Man(人間)、Machine(機械)、Media(媒体・環境)そしてManagement(管理)の視点から総合的に取り組むことが事故再発防止対策の構築の上から如何に重要であるかを述べた。
参考文献
2)三菱化学(株)鹿島事業所火災事故調査等委員会:三菱化学(株)鹿島事業所火災事故調査等委員会報告書;http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/shobo/mitubisi200530-1.pdf、May(2008)
3)三菱化学株式会社:、三菱化学鹿島事業所第2エチレンプラント火災事故再発防止対策取り組み状況報告書;http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/shobo/210410mitsubishi-houkoku.pdf、May(2009)
4)東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故調査委員会:動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故について、科学技術庁 原子力安全局、12月15日(1997)
5)長谷川和俊、李永富、孫金華:アスファルト固化処理施設での火災爆発の発災原因について、安全工学、Vol.41, No.4, PP.262-270(2002)
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