第23回 爆発のリスクマネジメント(1)
1.爆発のリスクマネジメント
日本の,爆発に対するリスク政策の特徴は,爆発ありきで,それに防爆対策機器の使用を義務付け,さらに危険領域,レベル,対象物質などについて細かく規制や基準を設けている点にある.
それに対し欧州では,EN1127-11)によると,出来る限り爆発の可能性を取り除く「予防」を優先し防爆リスクの低減が図られており,リスク政策の考えに大きな違いが見られる.
それでは,爆発が発生するメカニズムについて考えてみよう.
可燃性物質としての可燃性ガスや可燃性粉じん,可燃性ミスト等が,空気中にある濃度で存在し(爆発範囲),そこに電気火花や高温熱面などの着火源が加わると爆発が生じる.
爆発は,比較的緩慢なガス爆発(爆燃)でさえ発生から数秒で完結し,衝撃波を伴う火薬の爆発や水素/酸素予混合による爆ごう(デトネーション)では数ミリ秒で周囲に驚異的な影響を与える.
このように,爆発はひとたび発生してしまうと,それを感知した後,人の手によって被害を低減する策を講じることはほとんど不可能である.
すなわち「予防」こそ爆発のリスクを低減する最も有効な方法である.
2.爆発のリスク低減
爆発のリスク低減は,機械類の安全性-リスクアセスメントの原則であるISO141212),および機械類の安全性を確保するための国際標準規格ISO121003)を導入し,以下の優先順位を以って行われる.
(1)爆発の予防
第一に爆発が発生しない環境を構築することである.
爆発は,a. 可燃物質,b. 酸化剤,c. 熱源の三要素がそれぞれの要件を満たす量で存在する場合にのみ発生する.これら三要素のうち一つでも要件を満たしていなければ爆発は生じない.
例えば,常温空気に対するプロパンの爆発濃度は2.1 %~9.5 %であり4),プロパン量を増減させ爆発範囲外とすることや,窒素や二酸化炭素などの不活性ガスで希釈し爆発限界以下とすることで爆発リスクは低減する.
また,プロパン/空気予混合気に対する着火の必要条件は,0.3 mJ以上の着火エネルギーもしくは432 ℃以上の着火温度であるため4),これらを満たす着火源を与えないことで爆発回避が可能である.
(2)爆発の抑止
可燃性ガスの漏えいが十分予測される場合や,可燃性ガスの予混合室あるいは粉じん搬送ダクト内など,条件如何によっては爆発が避けられない状況も見られる.
この場合,爆発ありきで構造物もしくは機器を設計する必要がある.このようなケースについては,機械類の安全性を定めたISO12100をもとにリスク低減が図られる.ISO12100の三段階方式と呼び,以下(ア),(イ),(ウ)の順でリスク低減を図る.
(ア) 爆発が発生した場合の火炎の広がりや圧力上昇を見積り,機器に対し十分な安全設計を行う.
(イ) さらに爆発後の圧力上昇回避を狙い,適切な場所への脆弱部(バースティングディスク)の設置や,管路やダクトであれば爆発が生じたとしても火炎の伝播を中断させるフレームアレスタの設置を行う5).
(ウ) それでも取りきれないリスクを使用者に情報として共有させ,立ち入り禁止区域の設置や使用方法の徹底管理を行う.
それでは次回は爆発に対するリスク管理の失敗事例を紹介する.
参考資料
1)EN1127-1:爆発性雰囲気-爆発の予防と防護,第1部:基本概念と方法論,日本規格協会(2009)
2)ISO14121: 1999機械類の安全性-リスクアセスメントの原則
3)ISO 12100-1/12100-2:2003 機械安全の国際規格
4)平野敏右,燃焼学,海文堂
5)前澤正禮,安全工学講座2 爆発 安全工学協会編,海文堂
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