第13回 メンタルヘルス・リスク政策(3)
中小企業を含めてEAP(Employee Assistance Program)の広範な普及を日本において一層推進するための、いくつかの政策的な課題のうち、第二に指摘できることは、公平・公正な第三者評価機関がないことである。
一見、国家的事業あるいは法律に基づく事業等とは違い、民間企業が行うEAPビジネスに対して、そもそも公平・公正な第三者評価機関が必要になるのか?必要だとしてもそのような機関が独立した団体として果たして存続を維持できるのか?そもそも誰が出資するのか、設立母体はどこか?等々の疑問がすぐ出るかと思う。
しかし、利用者側(利用する企業及び企業に所属する個人の双方)の目線で考えれば、その有用性は明らかではないかと思われる。
まず、EAPにおけるカウンセラーの位置づけをみてみよう。
EAPにおける経営資源の中核のひとつは、良質なカウンセラーにある。
実際のカウンセラーの方々は、臨床心理士、産業カウンセラー、医療関係者(医師、看護士等々)が主体となっているが、カウンセリングの分野や対象となる人などの範囲によって、関連心理資格取得者等、かなり幅広いカウンセラーが活躍している。アメリカでは、EAPカウンセラーになるためには心理学の修士・博士といった学位と、一定以上の経験年数、および学会認定の試験を通ることが必要であり、そこで初めてCEAP(Certified Employee Assistance Professional)の資格を得ることが出来る。日本のEAP企業も、例を挙げると「所属するカウンセラーは臨床心理士、産業カウンセラー、心理関連の修士もしくは博士取得者」などと明示している企業が多く、いわばカウンセラーの品質保証を行っているところがほとんどであろう。
しかし、EAP市場においては、情報の非対称性があるため、レモン市場になる可能性が高い。レモン市場とは、売り手と買い手の間に情報の非対称性があることによって、良質品が市場に出ず、悪い品質の物だけが市場で取引されてしまうことを指している。中古車市場がよく例に出されるが、EAPの場合、確かにカウンセラーは上述のようなしっかりとした資格保有者で行われているものの、国家資格でもないため、利用者はそのカウンセラーが信頼できるのかわからない。カウンセリングが基本的に1対1の個の世界であり、また利用者の抱える悩みや問題も千差万別であり、ひとつとして一般化できない。毎回のカウンセリングに対して、利用者がつけるカウンセラーの評価点を総合的に判断し、問題あるカウンセラーについては研修等で補強することはあろう。もちろんカウンセラーとクライアントとの相性の問題もあるし、専門分野の違いなどでカウンセラーを途中でチェンジすることもあろう。しかし、このように個別性というカウンセリングの特徴を逆手に取ったレモンカウンセラー、レモンEAPプロバイダーが増える可能性は否定できない。
特にEAPが対象とする、働く人へのカウンセリングは、心と体の疾患への対処から、健康な人のストレス対処、そしてキャリア・カウンセリングと広範にわたるため、メンタル系に強いかキャリア系に強いかではなく、両方の能力を兼ね備えるカウンセラーが必要とされている。十分な対処を受けられず、せっかくEAPがあるにもかかわらず通うことを自ら止めてしまい、重篤状態になるケースもありえよう。
もちろん、先駆的なEAP企業においては、ISO9001を取得している(利用企業側は製造業も多いので、自分たちが導入しているISO9001をEAP企業側が導入していることを知ると、安心して契約を結べる)し、前述のように自社で抱えるカウンセラーは必ず臨床心理士等の有資格者に限らせるなどを行っているので、それらをひとつの基準にする有効性は高い。
いずれにしろ、個々のEAP企業はさらに(カウンセラーや企業自体の)品質情報を十分に提供すること、また複数の企業が連携してネットワークの経済効率性を活かすことが大切だろう。(続く)
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