第40回 ~「事業継続マネジメントの有効性向上への提言」から考える組織における事業継続のための危機管理とは・下~
-全3回最終回‐
「危機に切れないサプライチェーンを作る」「大規模災害でも活用できる情報インフラの整備」など、各組織において、懸命に事業継続リスクマネジメントを検討・実施している
と思う。これはもちろん事業継続マネジメントに欠かせない重要な取組であり、今まで以上にその精度を高める努力はぜひ継続していただきたい。しかし、そのような事業継続「リスクマネジメント」だけでは不十分であることは既に指摘した通りである。
「状況対応型事業継続マネジメント」においては、サプライチェーンが切れたときにどうするのか、情報が途絶えたときにどうするのか、そのような「状況」において、組織として、そして組織の構成員として何をすべきなのか、そのクライシス対応要領をしっかりと検討・訓練しておくことが不可欠なのである。
シナリオベース、リスクベースの事業継続計画はその精度を高めることは出来ても、想定外の事象は発生する。そしてシナリオが増えれば増えるほど、その内容は複雑になり、有効性・実動性を脅かす(すなわち、逆に有効性・実動性に関するリスクを生む)。一方で、全てのシナリオが崩れ、インフラが断たれた時、そのときに何が出来るか。できることは極めて限られるし、比較的単純である。クライシス対応においては、ゼロから順次必要な対策を実施していくことになるから、行動指針や判断基準は比較的明確化しやすい。
3回にわたり連載されてきたため、改めて事業継続のための危機管理について、リスク政策を述べれば、私は、「事業継続マネジメントの有効性向上」には、従来の規格が内包するリスクベースの事業継続マネジメントではなく、現実ベースでクライシス対応を視野に入れた「状況対応型事業継続マネジメント」への抜本的な発想の転換が必要であると考える。
なお、「BCM提言」は、内容としては事業継続マネジメントの整備・強化に非常に有益な資料である。組織開発の視点や高信頼性組織に関する記述は有事対応の組織体制を考える上で参考になる(最も、平時の組織を前提とした理論が用いられていることから、クライシスに対応できるだけの柔軟性があるのかの検証は必要である)し、後半部分の事例や東日本大震災時の社会情勢もリスクやシナリオの想定を行う上で、言いかえれば、事業継続リスクマネジメントを行う上では貴重な資料となるであろう。
(参考文献)・「東日本大震災後の教訓を踏まえた事業継続マネジメント(BCM)有効性向上への提言」【BCI(The Business Continuity Institute:事業継続協会)日本支部、一般社団法人BCMSユーザーグループ(BCMSUG)、一般社団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)、一般特定非営利法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(RMCA)、ODネットワークジャパン(ODNJ)、一般特定非営利法人 日本サプライマネジメント協会(ISM Japan)、日本危機管理学会(CRMSJ)・2011年12月】
・PAS200:2011 クライシスマネジメント・ガイダンスおよびグッドプラクティス
【英国規格協会(BSI)・2011年9月】
執筆者:西尾 晋 (にしお しん)
千葉科学大学 大学院 危機管理学部 危機管理学研究科 博士課程2年
株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究室 主任研究員
危機管理の実務家としても、悪質クレームや反社会的勢力対応、危機管理広報等のクライシス対応支援を数多く手がける他、コンプライアンスや反社会的勢力対応体制、内部統制・リスク管理、苦情対応、事業継続マネジメント等の各テーマの体制構築支援コンサルティング、マニュアル作成やセミナーを担当する。
現在は、実践的な企業危機管理の専門企業として、国内トップクラスの実績を有する株式会社エス・ピー・ネットワークのシンクタンク兼危機管理コンサルティング部門である総合研究室において、各種危機管理コンサルティングに携わる一方で、企業危機管理に関する各種事象やリスク対策の研究や各種原稿の執筆を行う。あわせて、実務全般や危機管理研究の統括・調整・体系化を行う。
(主な論文・寄稿等)
・「ミドルクライシス マネジメント 内部統制を活用した企業危機管理~vol.1反社会的勢力からの隔絶」(著者:渡部洋介、発行:株式会社エス・ピー・ネットワーク)(2012.1月)(企画・構成を担当)
・「暴力団排除条例ガイドブック」(著者:大井哲也、黒川浩一、株式会社エス・ピー・ネットワーク総合研究室(共著)、レクシスネクシス・ジャパン株式会社刊)(2011.12月)
・「SPNレポート~企業における震災リスク・BCPの取組み編」(2011)
・「特別解説2012 これだけはおさえておきたいコンプライアンス~クレーム対応」(JA金融法務2012年1月号、株式会社経済法令研究会刊)
その他多数
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