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千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 助教 粕川 正光 著
2011年3月11日に発生した東日本大震災の発生より9か月が経過しようとしています。今回、災害に関する心理学的トピックのうち、惨事ストレスについて取り上げます。
災害の被災者とは 災害や事故などの被災者・被害者というと、実際にその災害や事故を経験した者だと考えがちですが、実際にはより多くの対象が被災者の範疇には含まれます。実際に災害や事故を経験した当事者やその親族・遺族・友人などは1次被災者といえますが、それだけが被災者ではありません。災害などの発生後に、被災地での活動を行ったり、被災者と直接接触したりした者を、2次被災者と考えることができます。これには、警察官 ・消防官・自衛隊員などの職業的救援者や、医師・看護師・カウンセラー・教師など、報道関係者やジャーナリストが含まれます。さらに、被災地での活動を行う災害ボランティアなども、この2次被災者にふくまれます。 さらに報道等で衝撃を受けた地域住民や一般市民なども3次被災者として考えることができます。 このように、今回の東日本大震災のようなケースでは、日本に住む住民すべてが被災者の範疇に含まれるといってよいでしょう。実際に首都圏などでも、震災による心理的な影響(ストレス反応)を訴える人が多くでて いる実態があります。
災害による参事ストレス反応 日常的な生活の中でも我々は様々な要因によるストレスを受けていますが、災害のような、通常の人間の対処行動機能が働かないような問題や脅威に直面した際に、我々の心は惨事ストレスと呼ばれる大きなストレスをうけます。惨事ストレスに対するストレス反応として代表的なものは次の通りです。 ○身体的症状:筋肉の震え、痛み、冷や汗など、食欲不振、不眠 ○認知的症状:記憶の障害、決断できない、心理的な混乱、思考やフラッシュバック(惨事に接したときの記憶がふいによみがえること)が止まらない。 ○感情的症状:心配、いらいら、悲嘆、恐怖、しびれた感じ、無力感、罪悪感、怒り、落胆、落ち込み 強調しておきたいのは、これらのストレス反応は、程度の差こそあれだれにでも生じるものだということです。ほとんどの人にとって、ストレス反応は一時的なものであり、時間がたつにつれて次第に正常な心理状態を取り戻してゆくことができます。しかし、中にはストレス反応が強く現れたり、長く継続したりするケースもあります。現時点で災害から9か月が経過していますが、現時点でいまだストレス反応が強く表れている場合には、医師やカウンセラーなどの専門家による支援を仰ぐべきだと考えられます。
惨事ストレスとどうむきあうか ストレスケアの基本は、なりより「心身の休息を十分にとる」ことです。自分に対しても他者に対しても、十分な休息が得られるよう働きかけましょう。また、「ストレスに関する正しい知識をもつ」ことも大切です。ストレ ス反応は、だれにでも生じる正常な体の働きですが、心身に普段と異なることが生じるために、不適切な対応によって事態が悪化するケースも少なくありません。企業などでストレスに関する知識を持つための研修会を行う、従業員のストレスチェックを行うなどして、組織的に心理教育を行うことも非常に有効です。さらに、「互いに支えあえるような人間関係の構築」を行うことも重要となります。ストレスを個人で抱え込み、自分だけでなんとかしようとしないことが重要です。職場でもプライベートでも互いにサポートができるようなコミュニ ティがあることが、ストレスのケアには非常に重要です。震災におけるこころの問題は、社会全体で取り組むべき重要な問題です。災害に対する心理的支援は、災害発生から時間が経過してからが本番であり、中長 期的な視点から支援を行うことが必要となります。行政による支援や専門家による支援はもちろんですが、企業経営者による従業員のサポートや、生活コミュニティにおける支えあいなども非常に重要であり、震災を機に、そのような形でのサポートを行える体制の構築が広がることを期待したいと思います。