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千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 教授 木村 栄宏 著
企業の人事・総務担当にとって、近年最も心をいため、その予防やケアに対して多大な力を投入していることのひとつに、メンタルヘルス対策があると考えられる。
日本全体で見ると、たとえばメンタルヘルスの不調をきっかけや原因として起因することも多い自殺についてみれば、周知のように日本の自殺者数は平成10年に3万人に達して以降、平成20年までの間、一貫して3万人を越える状況が続いている。バブル崩壊後の「失われた10年」におけるリストラ、特に1990年代終わりにおける金融危機前後において、その数が跳ね上がったが、以降、ITバブルとIT不況、景気好調局面など様々な経済状況にかかわらず、その数は以前高止まりしている状況にある。特に企業にとっての中堅層の貴重な人材が失われていくケースも多いことから、企業にとってはメンタルヘルスの取組みが、ますます重要になっている。自殺に至る主要な原因としてうつ病の罹患が挙げられることも踏まえ、うつ病等のメンタルヘルスに関わる疾患への取組みにつき、企業は様々な施策を行っている状況である。
こうしたメンタルヘルスに関わるリスク対策という観点からみると、行政の取り組みは、中央労働災害防止協会をはじめ、早くから様々な施策が実施されてきた。特に旧労働省による「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(2000年)をひとつの契機とし、社会における問題意識も次第に大きくなってきた。その後、こころの健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2004年)、自殺対策基本法の制定(2005年)、改正労働安全衛生法(2006年4月施行)、労働者の心の健康の保持増進のための指針(2006年)等々、この10年間に極めて精力的、かつかなりのスピードで実施されており、厚生労働省労働基準局のHPなども充実している。
企業におけるリスクマネジメントとしての観点からみれば、EAP(従業員支援プログラム)がある。EAPも上記「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」の中で大きな位置づけとなり(4つのメンタルヘルスケアのうちの一つ:事業場外資源によるケア)、重要な役割を果たすものであることから、日本でも急速に認知度が高まり、導入企業数も大企業を中心に2000社は超えていると推測される。しかし、中小企業を含めて広範な普及を推進するためにはいくつかの政策的な課題がある。(続く)