第14回 メンタルヘルス・リスク政策(4)
前回、中小企業を含めてEAPの広範な普及を日本において一層推進するために、レモン市場(*レモン市場とは、売り手と買い手の間に情報の非対称性があることによって、良質品が市場に出ず、悪い品質の物だけが市場で取引されてしまうことを指す。)にならないためにも公平・公正な第三者評価機関が必要であると述べた。
しかし、確かに評価機関というとたいそうなイメージがあり、実現性は薄いかもしれない。であれば、「見える化」や定期的なカウンセラーとしての適性チェック等で当面代替することになるだろう。
例えば医療機関であれば、様々な外部評価によって、いわば常に監視されている。日経・日経メディカルによる「日経実力病院調査」や、「良い病院」などの企画や本でも、医師としての腕前や実績、医療機関としての信頼性などが取りあげられる。聖路加国際病院のように標準医療を表わす数値である「Quality Indicator」(質指標)を公開するという試みは既に5年の実績がある。
あるいは、国土交通省による自動車運行管理に関する安全マネジメントの一環では、運転者対策の充実・強化として、企業がタクシーやトラック運転手等を採用する際に事故歴等の把握の義務付けを行うようになっている。
(参考:国土交通省、自動車事故対策機構 及び 日経新聞記事
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20100107NT001000906012010.html)
これは、過去の事故歴を隠したまま別の企業でまた運転業務に就くような事を避け、事故歴がある運転手については適性診断や安全講習の義務づけを行うことで、レモン運転手の蔓延を防止し、社会全体の安全安心に寄与する取り組みである。
あるいは、産業によっては、自らの企業評価指標を明示し、あるべき姿に業界全体として取り組む例もあろう。(社)日本フードサービス協会は外食産業の経営指標や経営動向等のデータを公開している。
もちろん、企業評価という点では様々な報告書(有価証券報告書からCSR報告書、社会環境報告書や知的財産報告書など多様)が既にあるが、それらは法律や社会的要請によって策定し公表されているものである。
これらとEAPにおけるカウンセラーを同じように論じて良いのか、という疑問もあろうし、カウンセラーにとっての「事故歴」は把握できるのかといった疑念もあろうが、EAPの持つ社会的意義とメンタルリスクも扱う危険性を鑑みれば、有用だろう。企業に必要な「メンタルヘルスにおける統合リスク管理」や「指標の見える化」については、筆者は日本産業カウンセリング学会や危機管理システム研究学会での発表あるいは文章で数年前より示してきたが、カウンセラーについても同様であろう。
もちろん様々なカウンセラー資格では、資格更新ポイントを設定し、継続学習を必須としているので、そうでないカウンセラーは淘汰される。しかし「質の保証」という点ではどうだろうか。前述のタクシーやトラックドライバーが、「適性診断や講習の対象となるような事故を起こしていないことを示す証明書」を雇用主に示すことで、実際の乗車業務が可能になるように、EAPカウンセラーもそうしたものが必要になってくるかもしれない。
なお、EAPやカウンセリングについては、医師や臨床心理士、産業カウンセラー等と言った各立場によっては異論等があると思われる。メンタルヘルス・リスク政策の重要性が増大する一方の現在、様々な意見をいただければありがたいと思う。
以上 |