第19回 交通事故と危機管理
厚生労働省の人口動態統計(文献1)によれば、死者を原因別にみると、交通事故は不慮の事故の一つに含まれる。1998年に不慮の事故による死者38,925人中、交通事故は13,464人、窒息(食べ物等を詰まらせた場合)は7,557人であったが、2008年には交通事故は7,499人と窒息9,419人よりも少なくなった。交通事故による死者数の減少は10年間に約44%と著しい。
では、交通安全に対して運転者の意識がそれだけ高まったということなのであろうか。
交通統計(文献2)による事故件数は、1998年に803,878件、2008年は76,6147件とわずかに減少している。一方、損害保険請求のあった物損事故を含めた全事故件数(文献3)については、おおよそ700万件前後で推移している。
このように事故の発生についてはそれほど大きな変化がないにも関わらず死者数だけが大幅に減少している。この死者数の減少要因として、1)走行速度の低速化、2)シートベルトの着用率向上、3)飲酒運転の減少、4)運転免許更新制度の改善、5)道路安全施設の改善、6)安全性向上車の普及、などが指摘されている(文献4)。
上記要因の4)~6)は国、道路管理者、自動車関連業界等の努力に起因する。走行速度の低速化、シートベルト着用率向上、飲酒運転の減少などは運転者の意識向上の結果といえるかもしれない。しかし、走行速度の低速化は、エコに対する関心の高さを反映したもの、さらに若者人口の減少及び若者の車離れを反映したものととらえることができる。シートベルト着用率向上や飲酒運転の減少に関しては、取締まり強化の影響と考えることでき、運転者の意識向上だけの成果とはいえないであろう。
2008年における物損事故を含めた全事故件数は約18人に年1件の割合で頻繁に発生していることが分かる。しかし、死亡事故となると、2万6千人あたり1件と、窒息で1万7千人あたり1人死亡する割合に比べれば頻度は低く、交通事故の重大性は薄れてきた。現在も産官学をあげ死者数ゼロに向けた取り組みを継続しているものの、2008年に起こったリーマン・ショックの影響もあり、その勢いは低下せざるを得ない状況となっている。
路側帯を標示する白線が消えかかっているなど、運転者の誤判断を引き起こす可能性のある道路も散見される。大学のある銚子市において走行中の車を観察したところ、約9%の運転者がシートベルト未着用であった他、携帯電話を使用しながらの運転者も約1%いた。自己中心的な運転を行う車は後を絶たず、事故に至る危険性をはらんでいる。
死亡事故の減少が事故に対する運転者の危機意識を麻痺させ、運転者の慢心による事故発生の可能性がある。交通事故は運転者のわずかな認知ミスや判断ミスで発生するため、事故の再増加を防止するためには、道路や車両の対応だけではなく、習慣化しがちな不安全行動を改めようとする運転者の不断の努力が欠かせない。
参考資料
1)厚生労働省、平成20年人口動態統計確定数の概況、2009.
2)交通事故総合分析センター,平成20年度交通統計、2009.
3)日本損害保険協会、自動車保険データによる交通事故の実態2008年4月~2009年3月.
4)H.Kenji他, Evaluation of Traffic Fatality Countermeasures Implemented in Japan from 1992 to 2007, Proc. Eastern Asia ociety for Transportation Studies, 8, 2009.
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