第39回 ~「事業継続マネジメントの有効性向上への提言」から考える組織における事業継続のための危機管理とは・中~
事業継続計画の策定に際して、シナリオベースの対策を行うことはリスクマネジメントとしては合理的であるが、シナリオ外(想定外)の事態である危機事態やクライシスの状況では、そもそもシナリオベースの対策(それが原因事象の考え方であろうが、結果事象の考え方であろうが)が機能しない。
あくまで、被災時その他のその時の状況を把握し、自分達(組織)で出来ることをゼロベースで行い、徐々に状況を打開していくことが、シナリオ外の危機事態やクライシスへの対応要領なのである。そして、平時に行う演習・訓練については、シナリオ通りの発動が出来る訓練はもちろん(これはリスクマネジメントの一貫として行うもの)、シナリオ以外の問題解決方法をその時々の状況で考えられるように思考訓練や行動訓練を行うことが重要である。このような訓練をしておかなければ、クライシス事態において、状況と自組織の状況に応じた適切な対応はなしえない。
その意味で、「BCM提言」の内容は、「事業継続マネジメントの有効性向上」に資するといえるのか、改めて皆さんなりに検証すべきであろう。事態の大小を問わず、シナリオやマニュアル外の突発事象や緊急事態、クライシスに実際に対応してきた経験や英知を、もっと事業継続の策定に生かす努力をすることが、「事業継続マネジメントの有効性向上」に必要なのではないだろうか。
「BCM提言」では、その他、「リスクアセスメントと事業インパクト」については、「BIAやRA(※リスクアセスメント)のリスク想定が甘かった」、「事業継続戦略、経営資源の提供」については、「いわゆる『想定外』事象の発生で、従来の想定及び戦略では対応が不十分であったことが判明したことから、より実現力のある戦略が必要になる」、「同時被災」については、「ほぼ同時進行で、複数の事象(地震、津波、火災、放射能、電力不足)の被害を受けた。このような複数事象の発生は、組織にとっては、想定外で、想定を超えた対応が求められた」「残念なことに、従来のBCPでは地震を中心にした計画になっていた企業は多く、今後は複数の事象の同時発生という事態も検討する必要があるが、どのようにBCMとして取り組めばよいのか、方法論の検討が必要である」とそれぞれ指摘している。
また、「BCM提言」では、巻頭において、提言の要旨として、組織において、緊急事態が発生した場合に「生き残るために何を守るか、何の事業を継続させるのか」、そして「そのために必要な経営資源」の明確化を徹底する、という提言を行っている。
これらの指摘は正鵠を得たものではあるが、既にリスクベースの事業継続マネジメントの限界について言及したところを踏まると、今後は、問題解決のトレーニングと、ゼロベースでのクライシス対応要領を事業継続マネジメントに組み込んだ、シナリオベースではなく、状況ベースでの対応を順次行っていく「新たな事業継続マネジメントに関するフレームワーク」が必要となる。
そして、「新たな事業継続マネジメント・フレームワーク」においては、事業継続戦略の策定そのものにおいても、リスクベースではなく現実ベースで策定していくことが重要であり、これこそが、クライシス対応を内包した「状況対応型事業継続マネジメント」を実現するための事業継続戦略策定の肝と言うことができる。「現実ベースで何ができるのか」「何をすべきなのか(組織としての社会的使命)」を組織内で徹底的に追求・明確化し、選択と集中の考え方を生かして、状況に応じたマネジメントを行っていくことが求められる。
~続く~
(参考文献)・「東日本大震災後の教訓を踏まえた事業継続マネジメント(BCM)有効性向上への提言」【BCI(The Business Continuity Institute:事業継続協会)日本支部、一般社団法人BCMSユーザーグループ(BCMSUG)、一般社団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)、一般特定非営利法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(RMCA)、ODネットワークジャパン(ODNJ)、一般特定非営利法人 日本サプライマネジメント協会(ISM Japan)、日本危機管理学会(CRMSJ)・2011年12月】
・PAS200:2011 クライシスマネジメント・ガイダンスおよびグッドプラクティス
【英国規格協会(BSI)・2011年9月】
執筆者:西尾 晋 (にしお しん)
千葉科学大学 大学院 危機管理学部 危機管理学研究科 博士課程2年
株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究室 主任研究員
危機管理の実務家としても、悪質クレームや反社会的勢力対応、危機管理広報等のクライシス対応支援を数多く手がける他、コンプライアンスや反社会的勢力対応体制、内部統制・リスク管理、苦情対応、事業継続マネジメント等の各テーマの体制構築支援コンサルティング、マニュアル作成やセミナーを担当する。
現在は、実践的な企業危機管理の専門企業として、国内トップクラスの実績を有する株式会社エス・ピー・ネットワークのシンクタンク兼危機管理コンサルティング部門である総合研究室において、各種危機管理コンサルティングに携わる一方で、企業危機管理に関する各種事象やリスク対策の研究や各種原稿の執筆を行う。あわせて、実務全般や危機管理研究の統括・調整・体系化を行う。
(主な論文・寄稿等)
・「ミドルクライシス マネジメント 内部統制を活用した企業危機管理~vol.1反社会的勢力からの隔絶」(著者:渡部洋介、発行:株式会社エス・ピー・ネットワーク)(2012.1月)(企画・構成を担当)
・「暴力団排除条例ガイドブック」(著者:大井哲也、黒川浩一、株式会社エス・ピー・ネットワーク総合研究室(共著)、レクシスネクシス・ジャパン株式会社刊)(2011.12月)
・「SPNレポート~企業における震災リスク・BCPの取組み編」(2011)
・「特別解説2012 これだけはおさえておきたいコンプライアンス~クレーム対応」(JA金融法務2012年1月号、株式会社経済法令研究会刊)
その他多数
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