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リスクマネジメントの専門知識・事例を学ぶ

リスクマネジメント・ラボ

第49回 2015年6月
北朝鮮SLBM開発と朝鮮半島周辺情勢変化―北朝鮮核ミサイルの脅威に対する日米韓協調によるリスクマネジメント必要性増大―
第49 2015年6月
北朝鮮SLBM開発と朝鮮半島周辺情勢変化―
北朝鮮核ミサイルの脅威に対する日米韓協調によるリスクマネジメント必要性増大―
第48回 2013年2月
「脅威への対処を説得する」
第47回 2013年1月
「東日本大震災後の学校における防災計画・訓練の見直し状況」
第46回 2012年12月
「東日本大震災の危機対応時に学校が直面した課題」
第45回 2012年11月
「動物に用いられる『クスリ』と『リスク』」
第44回 2012年10月
「食品のリスク分析」
第43回 2012年9月
「動物と危機管理」
第42回 2012年8月
リスク管理と危機管理
第41回 2012年7月
BCP3.0へ向けて
第40回 2012年6月
「事業継続マネジメントの有効性工場への提言」から考える組織における事業継続のための危機管理とは・下
第39回 2012年5月
「事業継続マネジメントの有効性工場への提言」から考える組織における事業継続のための危機管理とは・中
第38回 2012年4月
「事業継続マネジメントの有効性工場への提言」から考える組織における事業継続のための危機管理とは・上
第37回 2012年3月
「遺伝子屋と東日本大震災」
第36回 2012年1月
「屋内地震被害軽減への課題」
第35回 2011年12月
「震災による惨事ストレス」
第34回 2011年11月
「教育とリスク政策 2」
第33回 2011年10月
「教育とリスク政策 1」
第32回 2011年9月
「臨床検査値のリスクマネジメント」


第31回 2011年8月
「ヒ素の健康リスクについて」

第30回 2011年7月
「土壌汚染と健康リスク」

第29回 2011年6月
「大震災における危機管理のあり方」

第28回 2011年5月
「東日本大震災の対応を憂う!」

第27回 2011年4月
「水と海洋の汚染に関するリスク政策」

第26回 2011年3月
「メタボリックシンドロームのリスク評価と検査」

第25回 2011年2月
「組織の危機管理と内部告発制度」

第24回 2011年1月
「爆発のリスクマネジメント(2)」

第23回 2010年12月
「爆発のリスクマネジメント(1)」

第22回 2010年11月
「健康管理リスク政策(3)」

第21回 2010年10月
「健康管理リスク政策(2)」

第20回 2010年9月
「健康管理リスク政策(1)」

第19回 2010年8月
「交通事故と危機管理」

第18回 2010年7月
「ヒューマンエラー対応とリスク政策」

第17回 2010年6月
「口蹄疫と国の危機管理」

第16回 2010年5月
「リスク危機管理的視点で見たトヨタのリコール問題(2)」

第15回 2010年4月
「リスク危機管理的視点で見たトヨタのリコール問題(1)」

第14回 2010年3月
「メンタルヘルス・リスク政策(4)」

第13回 2010年2月
「メンタルヘルス・リスク政策(3)」

第12回 2010年1月
「メンタルヘルス・リスク政策(2)」

第11回 2009年12月
「メンタルヘルス・リスク政策(1)」

第10回 2009年11月
「医療リスク政策(2)」

第9回 2009年10月
「医療リスク政策(1)」

第8回 2009年9月
「環境リスク政策(2)」

第7回 2009年8月
「環境リスク政策(1)」

第6回 2009年7月
「地震災害に対する国と地方自治体のリスク政策」

第5回 2009年6月
「事故調査と再発防止対策のあり方(2)」

第4回 2009年5月
「事故調査と再発防止対策のあり方(1)」

第3回 2009年4月
「テロの形態と対策」

第2回 2009年3月
「リスク政策とは(2)」

第1回 2009年2月
「リスク政策とは(1)」

著者プロフィール

 

千葉科学大学 危機管理学部  戸塚唯氏                    


第48回 「脅威への対処を説得する」

社会では何らかの脅威の存在を呈示してその脅威への対処行動の実行を説得する試みが多くみられる。例えば、子宮頸がんの危険性を呈示してワクチン接種を勧める説得や、津波の危険性を呈示して避難路の整備をすすめる説得である。このような説得は脅威アピール説得あるいは恐怖アピール説得と呼ばれており、人々の安全を促進する上で重要であることから、長い間、社会心理学の領域で研究されてきた。

 様々な研究の結果、基本的には大きく脅威をアピールする方が説得効果は大きいという知見が得られている。しかし、脅威の大きさだけで説得効果が決定するわけではない。脅威アピール説得の代表的理論である防護動機理論(Rogers,1975)は、以下の7項目に関して被説得者がどのように考えるかが、説得効果に影響すると提唱している。

1. 脅威の深刻さ
2. 生起確率
3. 対処行動の効果性
4. コスト
5. 内的報酬
6. 外的報酬
7. 自己効力


例えば、肺ガンの脅威を呈示してタバコをやめるよう説得する場合、1. 肺ガンがどれくらい深刻な病気であると考えるか、2. 肺ガンが発生する確率はどの程度か、3. タバコを止めることによって効果はどの程度あるのか、4.タバコをやめるためのコスト(病院で禁煙治療を受ける費用など)はどれくらいか、5. 自分にとってタバコがどのくらい魅力的か、6. タバコを吸い続けるとどの程度の利益があるか(愛煙家から仲間と認めてもらえるなど)、7. 自分が対処行動を実行できる見通しはどれくらいか、について被説得者がどう考えるかが説得の受諾に大きな影響を与えると考えられる。効果的に説得しようとする場合には、少なくともこれら7つのポイントをうまくアピールする必要があるだろう。特に対処行動のコストが大きすぎる場合や対処行動の実行が面倒である場合などには、説得が拒否されることが多い。どのようにすればコストは抑えられるのかという情報を盛り込むとともに、対処行動をできるだけ容易なものにする工夫も必要である。

 ところで、環境問題などの脅威は一個人だけがいくら努力しても解決することはできない。この種の脅威を低減するためには、多くの人が並行して対処行動を行う必要がある(例えば燃費の悪い車に乗らない等)。このような集合的対処行動の説得効果を説明するための理論としては、集合的防護動機モデル(深田・戸塚、 2001)が存在する。この理論は、1. 脅威の深刻さ、2. 生起確率、3. 効果性、4. コスト、5. 実行能力(受け手自身に対処行動を実行する能力があるかどうか)、6. 責任(当該の脅威への対処行動を実行していく責任が自分にあるかどうか)、7. 実行者割合(どの程度の割合の人が当該の対処行動を実行するか)、8.規範(対処行動をとることが準拠集団の規範や期待に沿っているかどうか)について被説得者がどのように考えるかが説得効果に影響すると提唱している。多くの人が協力してある脅威に立ち向かわなければならないときには、脅威の深刻さだけではなく、各個人の責任の大きさやモラルの大切さをアピールすることも重要なのである。

 社会が複雑化してきている昨今、人々は様々な種類・レベルの脅威にさらされているといえる。むろん、全ての脅威に対して効果的な対処行動が用意されているわけではないが、一部の脅威は対処行動を実行することによって確実に予防が可能である。人々の安全・健康を促進するために、専門家、政府、関連機関等が効果的な脅威アピール説得を行っていくことが重要である。




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執筆者戸塚 唯氏 (Tadashi Tozuka)
千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 准教授

著者プロフィール